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各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた①自民党は記述少なく、にじむ原発推進への思い

自民党の政治家たちが派閥を通じた「裏金」づくりで東京地検の捜査を受けるなど、永田町が騒がしい今日この頃。でも毎回思うのですが、権力の座にいる人たちが不正をしていることが何度暴かれても、この国の政治はいっこうに変わらないままです。

ここは少し視点を変えて、それぞれの政党が政権の座についたら、この国のかたちがどのように変わるのか、ということを考えてみるのはどうでしょうかたまには。

ということで各政党の政策(マニフェスト)比較をしてみようと思い立ちました。このブログは気候変動問題を一応のメインテーマにしているため、今回は各政党の「脱炭素」政策を見比べてみました


他政党よりも情報が少ない自民党


1回目の今回は政権与党の自民党です。情報源は公式サイトにある令和5年政策パンフレットです。

まず、全体を見た感想なのですが、他の政党に比べて圧倒的に記述量が少ないです。具体的な政策があまり書かれていなくて、すごく、ぼやっとした表現が多いんですね。これ、脱炭素関係の政策に限りません。

2012年に政権復帰してからもう11年。「永遠に自民党のターン」とも思えるような状況への慢心が説明の手間を省かせているのでしょうか。あるいは、政権与党がマニフェストに書いたことというのは実行できなければ即、約束違反になってしまいますから、軽々に具体的なことが書けない、ということもあるのかもしれません。

力点は「原発の活用」と読めるマニフェスト

で、肝心の脱炭素政策ですが、まず、〈重点分野・成長分野への大胆な投資〉という項目の中にこんな記述が。

GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、宇宙、海洋開発、G空間(地理空間情報)をはじめとする重点分野・成長分野への大胆な投資を通じて様々な社会問題を解決し、成長のエンジンへの転換を図ります

ということが書かれていました。めっちゃお金を注ぎ込むよ、と宣言する「重点分野」の中に「GX」が入っていますから、やる気はあるよと言っているようです。

しかし、これではあまりに抽象的。もう少し具体的な記述を探していくと…ありました。〈脱炭素化の推進、エネルギーの安定供給〉という項目に、こんな記述があります。

2050年カーボンニュートラルと産業競争力強化を共に達成するため、国による20兆円規模の先行投資支援を含め、今後10年間で150兆円超の官民投資を実現します

エネルギーの安定供給・自給率向上とGX推進の観点から、省エネ、再エネの促進に加え、国民の理解のもと、安全性の確保を大前提とした原子力の活用等を含むエネルギー安全保障を強化します

はい。20兆円、150兆円という非常に景気の良い数字が並んでいます。で、具体的にそのおカネ何に使うのか、というのが次の項目かと思いますが……うーん、これ私だけでしょうか。心なしか、「省エネ、再エネ」よりも「原発を活用します!」という部分にめっちゃ力点が置かれているように読める気が。ここでは原発の是非は論じるつもりはありませんが、自民党が考える脱炭素政策の中で原発がかなり高いウェイトを占めていそうなことはわかります。

実際、先日(2023年12月)にドバイで開催されたCOP28でも、日本やアメリカを含む23カ国が「2050年までに世界の原子力発電容量を現在の3倍にする」と宣言していましたから、岸田政権はある意味、マニフェスト通りの路線を歩んでいることがわかります。

しかし、逆に言うと原子力以外の「省エネ」や「再エネ」については、促進すると言っているものの一応書いたという感じにも見え、どれくらい力を入れてやる気があるのかは若干微妙に思えます。

また、他の政党のところで出てくると思いますが、いま「脱炭素」の文脈で避けては通れないはずの「もっとも多くのCO2を排出する石炭火力発電をどうするのか」という問題についてこのパンフレットで一言も触れられていないのも気になりました。現実としては、日本政府はアンモニア混焼やCCS(二酸化炭素回収・貯留)といった開発中の技術の導入を進めながら石炭火力発電の温存を図っていく方針を進めつつあり、環境保護団体などからはこの点、批判もされているわけですが、この点についてはマニフェストへの記述を避けたようです。ま、「日本人のなかでは全然争点になってないじゃん」と言われればそれまでなんですが…。


自民党の令和5年政策パンフレットより

他には〈社会資本整備〉の項目で、

グリーン・デジタル等への重点投資により、住宅・建築物の省エネ対策や地域材等の利用の促進、インフラ・交通・物流分野等におけるGX・DXの推進等を積極的に進めます

といった記述があったり、〈環境政策〉の項目では、

循環経済の確立に向け、動静脈連携によるプラスチック、金属、太陽光パネル・蓄電池等の脱炭素型資源循環体制整備、サステナブル・ファッション、食品ロス対策等を進めます

といった記述があったりしました。建物の省エネ対策などは脱炭素政策として有効そうですが、この手の政策はどの政党もマニフェストに入っていたので、あまり差がつかないところかと思います。

ちょっとあまりに情報が少ないので2022年の参院選の公約パンフレットも見てみましたが、書かれていることはほぼ同じ。新たな発見としては、各選挙区向けのアピールと解釈できそうな下記のような文言があったくらいでした。

脱炭素による地域の需要・雇用の創出に向け、自治体向け脱炭素交付金による支援を強化します

「経済成長」アピールの中で影薄い脱炭素政策


いかがでしょうか。全体的にあまり面白くなくて読むのが苦痛だったかもしれませんが、それは元の情報量があまりに少ないからでもあり…ご容赦ください。他の政党はもう少し面白いはずです。

ひとまず、これら自民党のマニフェストからわかることは、
・自民党は脱炭素対策として原発の活用に特に力を入れる模様。
・省エネや再エネの普及促進なども一通り推進する(が、数値目標などはなく、各政党を比較すると本気度は相対的に低めに見える)。

といったところでしょうか。

パンフレット全体としては、経済成長、地方振興、災害対策といった部分に力点が置かれているようにお見受けしました。あくまで現実主義というか、常に生活者の「実利」にアピールしてきたからこその長期政権という側面があるのは間違いないと思っており、その点、脱炭素政策というのはこうした路線からは少し遠いところにあると自民党の人は考えているのかな…というのが個人としての感想です。とはいえ、生活者の「実利」をアピールしつつも同時に脱炭素政策にももっと踏み込んでいる政党はあるので、両者は本来、矛盾するものではないはずだ、ということも申し上げておきたく思っております。

次回は「野党第1党」の立憲民主党について見てみたく思っております。

〈続きはこちら〉
各政党マニフェスト「脱炭素政策」を読み比べてみた②立憲民主党

【このシリーズの記事一覧はこちら】
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた①自民党は記述少なく、にじむ原発推進への思い
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた②立憲民主党は「2050年再エネ100%」ぶち上げ
各政党の「脱炭素政策」を読み比べてみた③日本維新の会は「原発熱心、再エネ興味薄?」
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた④共産党は「大企業にムチ」で最もラディカル
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた⑤公明党は「水素・アンモニア」志向
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた⑥国民民主党からにじむ「加速主義」の気配
各政党「脱炭素政策」を読み比べてみた⑦れいわ新選組は「30年までに石炭火力全廃」言い切り

【参考】
自民党公式サイトより「公約・政策パンフレット」

(タイトル画像:UnsplashのElement5 Digitalが撮影した写真)


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