ショック(shock)
小学二年生の頃、ボクが通う学校でちょっとした釣りブームがやってきた。
日曜日になると、同級生達と用水路へ釣りに出かけた。
そんな用水路では、暇なおとなも釣りをしている。
用水路では小学生が横並びで釣りを楽しんでいた。
釣れる魚はフナや鯉や雷魚である。
釣りにハマった同級生の中には、放課後から釣りにでかける者もいた。
そんな釣りブームの最中、用水路の傍らで、やらしい本を見つけたのだ。
同級生達とボクは、なぜだかわからない気持ちに湧き立った。
なんだかわからない好奇心。
次のページが気になる。
この黒いマスキングになにがあるのか?
みんなで、ワクワクドキドキしたものだった。
やらしい本は、探せば探すほど何冊も見つけることができた。
ここまでくると、もはや魚釣りをする者は誰もいない。
みんなで、このやらしい本を閲覧していると、いつもテレビで見ていた戦隊ヒーローの女の人がやらしい本に写り込んでいた。
いつもテレビで、悪の組織をやっつけているヒーローが変身した出立ちではなく、なぜだかセイラー服に身を包み、ページをめくるごとに、ヒーローが裸体をさらしていたのだ。
その姿はもはや悪をやっつけるヒーローではなかった。
「ヒーローはボランティアではない。だからこんなやらしい本で裸にならねば、お金に困っているのか。』とボクは心の中で悲しいつぶやきをこぼした。
それからのボクは、きっぱり釣りをやめた。
『もう、用水路へは近づかない。』と固く誓った。
それでも、魚釣りにでかける同級生が増えていった。いや、釣りに出かけるのではない。やらしい本を眺めるためだった。
そんなやらしい本を閲覧する同級生達が、ある日学校で口ぐちに言った。
『昨日の用水路のおっさん、めちゃめちゃ怖かったなぁ』
『ほんまや!いきなり、お前ら子供が見るもんやない!お前ら、その本を置いて家に帰れ。』
どうやら、同級生達は釣りをしていたおっさんから、こっぴどく叱られたらしい。
なぜだか、同級生のみんなが納得できないでいた。
『お前らどないしたん?』
『どないもこないもあるか!おっさん、俺たちから、やらしい本を没収してから、なんやニヤニヤしながら、そのやらしい本を見てたんや!』
同級生達は叱られたことに納得がいかなかった。
そんなことより、ボクにとっては5人のヒーローのなか、たったひとりの女性のヒーローが裸体をさらしていたことのショックから立ち直れないでいた。
あのときは、ほんとうに釣りなどいくものではない。と、心底思った。
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