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日本を「文化立国」するために必要なこととは|TeaRoom岩本宗涼×CPC佐宗邦威 #3

日本の文化的資源を用いて、または文化を事業課題として新たな価値を生み出す「カルチャープレナー(文化起業家)」たち。一般社団法人カルチャープレナーコレクティブズ(以下CPCと略)はこの新しい起業家の形をコミュニティを作りながら、カルチャープレナーというコンセプトの研究開発・リサーチを行っていきます。

今回の記事は、株式会社TeaRoom代表の岩本涼さんと、戦略デザインファーム・BIOTOPEの代表でありCPC発起人の1人で理事でもある佐宗邦威による対談インタビューの第3回目です。日本のカルチャーが海外で価値になり、文化立国を実現するためには?について議論しました。

※第1・2回記事はこちら



海外からみた「日本文化」の現在地とは?

佐宗:岩本さんはアメリカ・インド等の海外に頻繁に足を運んでいますよね。日本文化と海外の接点を肌で感じていると思いますが、現場では何が起きていますか?
 
岩本:まず俯瞰的に世界を見たときに、日本・円資産が安全資産として扱われています。有事の際には円が買われやすくなることから、リスクの逃避先としての日本という位置づけです。日本への投資が中長期的に続くなか、文化が魅力的なコンテンツの一つとして注目されている背景があります。
 
具体的な事象では、日本は「ヘルシー」で海外勢を惹きつけています。例えば、精進料理はビーガンに通じるものがありますよね。健康寿命はアメリカでもトレンドで、抹茶もコーヒーの代替品としてブームです。

この構造は北欧家具と同じで、北欧=良い暮らしみたいなポジティブな認知がある中でコンテンツが入ってくると、どんどん消費されていく…といった形です。日本の食や酒が取り上げられているのは、ヘルシーやグリーン、禅という身体的にも精神的にも健康的であるという良いブランディングが前提です。そのうえで、コンテンツやプロダクトの供給が増え、より消費が広がっています。

佐宗:心身の健康やそのクオリティが高いところが日本の強み・イメージなのかもしれませんね。ウェルビーイングといってしまうと、あまりにもベタすぎますが。

健康といっても、食のような身体的な面と、瞑想やミニマリズム、「足るを知る」という価値観のような心理的な面、二つの側面がありますよね。そのどちらも大切にしているのが日本らしいとも言えます。どのような言葉で海外に伝えているのですか?
 
岩本:抹茶の文脈に限定されますが、海外では「GREEN=ヘルシー」です。サラダを食べること=ヘルシー。グリーンムーブメントともいわれ、抹茶ブームもその文脈からきています。アメリカだとブラックからグリーンへ(コーヒーから抹茶へ)、レッドからグリーンへ(紅茶から抹茶へ)みたいに言われることも。

グリーンなものは健康的であるという共通認識があるので、抹茶については”Healthier caffeine”と伝えるだけで、それ以上の言葉がいりません。

佐宗:マス市場だと“Healthier caffeine”や“GREEN”が伝わりやすいのは納得です。一方で、プロダクト以外にも茶の湯という場や概念も海外に伝えたいですよね。その場合はどうされていますか?
 
岩本:“WHY“を投げかけるようにしています。最近は、哲学的なサロン(philosophical salon)のようなものがLA(ロサンゼルス)やインドでも各地に広がっており、それが機会となっています。LAで一番人気のTea at shilohは予約制のサロンで、日本のシーシャのヘルシー版みたいな感じです。

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ここでは、問いを深めるワークショップをやりながら3時間くらいお茶をゆっくり飲みます。いわゆる、お茶事的なムーブメントが広がっているんです。自分と社会をつなげる思考の手段としてのお茶がアメリカのトレンドとマッチしており、お茶屋さんがLAに急増しているんですよね。
 
佐宗:めちゃくちゃ面白いですね!そのサロンが受けている理由は何だと思いますか?
 
岩本:サロンにいるLAの起業家たちはシリコンバレーから流れてきています。毎月哲学サロンでは起業家のための勉強会が開催されます。そこにいる方の話を伺うと、シリコンバレーにいても経済の世界にいても聞かれることは資金調達額とビジネスモデルの2つのみ。(How much you raised? What is the business model?)。

加えて、ほとんどのビジネスは領域を横断しており、原体験がなくても立ち上げてすぐにエグジットすることも多い。つまり、誰がそのビジネスをやっているかの必然性がなくなってきています。そんな起業家たちが、お金でお金を生むゲームはできても、WHATよりはWHY?HOW?”Who you are”が大切だよねと気づき始めていて、哲学サロンに向かうようです。

留学中の稽古の様子

佐宗:その流れは日本にもくるのでしょうか?

岩本:日本も同様で、若い起業家やインフルエンサーの多くが茶事に参加しはじめています。彼らの中には、一度収入を上げると、まずは価格の高いプレミアムな体験をしてみるのですが、繰り返すうちに、実はその体験もコモディティに感じてくるという話をする方もいます。例えば、高級な寿司屋に行って写真を撮ってみても、寿司のネタ自体は何処で撮っても同じになる、といったように。

自分がなぜ・そのプロダクト・体験にお金を払うのか、自分自身を社会と結び付けてお金をかける潮流は日本でもおこり始めています。そして、そういう層こそが文化産業の顧客となり、彼らの発信が日本文化とともに世界に拡散されていっています。

佐宗:個人的には強く共感しますね。

岩本:工芸を買っている層も20−30代の実業家、インフルエンサーであることも増えているんですよね。彼らは世界を対象にしたビジネスをしている人がほとんどで、日本代表として世界に出ていくときに、自身が日本を纏っている、というのが大事だからです。

文化立国を実現する上で、注目すべきプレイヤーは?

佐宗:今後の日本を考えると、観光大国にとどまらず、「文化立国」を目指すべきと考えています。日本文化の付加価値を上げて、文化GDP比率を高めることで、経済成長にも貢献できるはずです。

実業家やインフルエンサーによる日本文化の発信も重要ですが、それ以外にも日本文化を拡散していくためにカギになる土地や人などはあるのでしょうか?私が旅をしたオーストラリアも、移民2世などが多く、地理的にも人の流れの面でも文化のインフルエンサーを増やす核となる地域になり得るという話を耳にしました。

岩本:移民のコミュニティが文化立国のハブになると考えています。実は、TeaRoomはLAとも接点を持つ機会が増えてきています。なぜなら、LAには日系4世が多くいるからです。彼らが日本文化における一番良い接点になると考えています。

戦前、移民としてやってきた日本人の子孫である彼らは、アイデンティティとしてはほとんどアメリカ人です。アメリカで育ち、生活すべてがアメリカンスタイルですが、自分の先祖は日本人だと知っています。アイデンティティに日本があるので、彼らにきちんとエデュケーションすることで、思想としての日本文化が拡散する可能性を大いに秘めています。

実際に、日米のアライアンスにおいても日系4世の活用に注目が集まっており、TeaRoomでは、国外に向けた日本文化のエデュケーションの受託事業も視野に入れています。
同様に、ペルー、ブラジル、台湾にも移民は多く存在しています。移民のコミュニティにアクセスして、コンテンツやビジネスの担い手になってもらうことが大切です。

佐宗:なるほど。移民コミュニティの活用ですね。

岩本:現在、NYでJapan villageという構想が始まっています。日本街を面で作り、日系4世をはじめとしたアイデンティティを日本にもつ人が日本の人や企業と触れ合って、最終的にはビジネスをできるようになってくる……といった流れに希望を感じています。

佐宗:面白いですね!Japan villageはどういう構想なのですか?

岩本:渡米し、NYで飲食店を手掛けて財を成した方が、日本街を作ろうと立ち上げた企画です。ダイソーやBOOKOFFなども入っています。このJapan Villegeには、ピカチュウを求めてアメリカ人がやってきます。とても盛況ですよ!

日本の企業や人が集い、コンテンツやサービスの供給が増えることで、アメリカ人が日本の文化を纏うモノ・サービスを求めて集まってきています。新たな潮流が興っています。

文化立国を実現する上で、日本のもつ強みとは?

佐宗:文化立国を目指すうえでの、日本の強みは何になるのでしょうか?

岩本:地理的にも、アジア圏の入口としての日本という位置づけが取れることです。その背景には、アメリカ人の出自があります。

アメリカ人の系譜をたどると、ギリシャやイタリアから生まれています。彼らはギリシャ→イギリス→アメリカへと開拓してきました。LAにたどり着いたら、その先はもう開拓できる土地がなく、彼らはその土地でイノベーションを起こし始めました。その後、太平洋の先に日本があることを知ったのです。

つまり、彼らは太平洋を渡って、アジア圏の入口で日本に触れています。実際に現在もアジアを旅行するときに、日本に一度触れてから台湾やミャンマーといった国々を周遊します。欧米の方々に、ミステリアスな日本を新しい開拓先として魅力的に見せることにチャンスがあります。

佐宗:開拓先、アジアとのファーストタッチとしての日本ということですね。

少し話は変わりますが、アジア文化として見たときに、韓国との競争が一定数出てくると思います。ドラマ・音楽・美容などは韓国に強みがあり、アニメや食などは日本が強い。分野は被っていませんが、潜在的な競合になる側面もあります。日本はどういうアプローチを取ればいいと思いますか?

岩本:韓国が潜在的な競合という話もありますが、アジア人として考えると、韓国が世界的に注目されることは非常にポジティブです。

BTSが流行したおかげで、欧米の人たちがアジアのコンテンツに以前より興味を持ち、見るようになりましたよね。中国人・日本人・韓国人といった、ざっくりと”アジア系”がよりポジティブに見られるようになっているんです。

韓国にコンテンツをとられたとしても、地政学的に日本に投資が集まるので、韓国を競合意識する必要もないと考えています。ただ、韓国の文化浸透戦略ももちろん見逃せません。実際に、LAのコリアンタウンはかなり拡大しました。LAの中心街はほぼコリアタウンになり、日本街なんて目じゃないくらいです。

佐宗:コンテンツから不動産まで拡大するとは、すごいですね。

岩本:若者が集まるための施設やイケてるホテルなども全部コリアンタウンにあるんですよ。でも、拡大しすぎないいい塩梅で保っている。この状態をうまく保ち続ける方向で展開していくのではとみています。このあたりは見習うべき部分があります。

観光立国を超えて、文化立国を目指すために必要なことは何か?

佐宗:日本はアニメなどのデジタルな接点から、今や食などのリアルな体験も加わり、文化との接点においては面が広まってきていますよね。韓国がコンテンツから不動産に拡大したように、日本は今後どういった部分に注力すればよいと考えていますか?

岩本:インバウンドで濃い体験をしてもらう流れはできていますが、各分野に閉じられていて、面としての広がりが弱いですよね。特に、伝統文化系はサプライ側に課題があるのではと思っています。歴史の中で、産業として利益化するために、サプライチェーンが断絶・業界も断絶してしまいました。協業だとマーケティングなど川下の話になりがちですが、研究開発のような、ものづくりの上流部分をもっと繋がってやるべきだと考えています。

佐宗:そういうことが起きてくると、何が変わってくるのでしょうか?

岩本:サプライ側が変わってくると、結果として社会とのタッチポイントが増えてきます。技術が眠っているのに供給先としてのタッチポイントが少なすぎるのが課題だからです。

ジャストアイディアですが、時計×漆みたいなコラボレーションを実現したら社会から漆に対して注目やお金が流れる機会が増えるんです。これは私たちがお茶を軸に実践してきたことなので、他の文化でも同じことが起きます。一度タッチポイントができると、次も違うプロダクトで…といった流れができる。協業が進むと、面が広がります。

サプライ側に、事業を継続できるマネーと、協業できる物語(ナラティブ)を作れる人間が必要です。分野の越境に活路があるんです。離れている分野を繋ぐほど意外性もあって注目度も高まります。例えば、エアコン×漆とか(笑)。漆って湿気で固まるんですよね。亜熱帯の地域で地域創生みたいなプロジェクトができるかもしれません。

最近、アーカンソー州が注目されているのですが、ここは米の産地として有名だったということで、日本の米を中心とした街づくりをインストールしようと、酒蔵や醤油製造所などが次々に入っていっています。これも、一見関係のないようなもの同士をナラティブで繋ぐことで、文化のタッチポイントができる実例です。

佐宗:今の話とも絡むかもしれませんが、他の分野との接点をもち、枠を超えることの必要性を感じている文化産業関連の方が増えてきたと感じます。

岩本:そうだと思います。ですが、やみくもにコラボをすればいいわけでもないのです。工芸だと、他分野とコラボしても出荷数量が少ないので儲けになりにくい場合が多いようです。

まずは文化産業側のマインドセット自体を変える必要があります。1つのイシューでいいので、描く未来に対して社会のマクロのムーブメントを知り、全く関係のない分野の方々に話を聞き、理想と現実の間を埋めるために、法整備なり規則にアプローチすることで補っていく。

社会とのタッチポイントとして、その産業と近すぎず・遠すぎない中間地点を探さねばならないことが課題です。今の時代、特に若い世代は70億人、全世界を対象にして、必要な方に会わねばいけません。どんな人と出会い、協業すべきなのか、戦略的に動いていく。そんなマインドセットに切り替えていくことが重要です。

佐宗:日本文化に注目が集まる背景や強み、キーパーソン、マインドセット…といった多くのトピックが上がりましたね。全3回に及ぶインタビュー、大変興味深い議論ができました。岩本さん、ありがとうございました。


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