マーケティングを上手くワークさせる、数字の把握の視点

マーケティングを実行するにあたって避けては通れない「数字」の話です。マーケティングを上手くワークさせるためには、どんな数字を把握するべきでしょうか。自分自身の経験も踏まえ記載してみます。

①自社(自ブランド)視点でみる数字

最近は「ファン度」「熱狂度」「ロイヤルティ度」というような概念も出ていますが、商売である以上、最重要なのは「売上」だと思っています。商品別や(店舗型の場合)はエリア/店舗別にみる場合もあるでしょう。ですが、それだけではマーケティング活動として戦略を組み立てづらい場合も多いです。「売上」を、マーケティング戦略を組めるように分解する必要があります。戦略とは「リソースをどこに(何に)使うか」の選択であるからです。

当たり前ですが、「売上」は「購入人数」×「単価」に分けることができます。「売上」が上がっている/落ちている場合、そのどちらが関与しているのかをまず把握する必要があります。片方が落ちているがもう片方が上がり、結果として昨年と同じ売上になっている場合もあります。

「購入人数」に関しては「新規」と「リピート」に分けられます。「新規」の場合はさらに、「潜在顧客数」×「認知率」×「配架率」×「購入率」である程度の大枠を把握することができます。この辺りは調査をするしかないですが、調査結果と実態の数字を取り続け、モデル的に関連が作れれば最高です。「顧客数」に関しては、より細かくして「性年代」などで見る場合もあるでしょう。マーケティング戦略を組む場合は、これらを俯瞰して見た上で「新規か?既存か?」「認知率か?購入率か?」「カテゴリ自体の需要創造か?競合からのシェア奪取か?」「20代か?40代か?」「男性か?女性か?」など「何をすべきなのか?」を考えていきます。この時の視点は「どこがドライバーになり得るか」=「影響力があり、最もコントロールできる部分はどこか」です。経験的には、認知or購入率に手を入れる、という結論になる場合が多いですが、これは僕がこういった方面の仕事をしている事によるバイアスかもしれません。古くは井村屋の中華まんや伊藤園のホットドリンク什器など、配架を大きくして伸びた事例は存在します。
※上記の数字分解はあくまで一例で、サブスクリプション型の商品・サービスの場合や、店舗型の商品・サービスの場合はまた違う切り口になります。

②消費者視点で見る数字

これをどこまでやっているかは企業によります。そして個人的にはやる意義は大きいと思います。「企業から見た風景」と「消費者から見た風景」が全く異なることが結構あるからです。そもそも消費者の多くは、企業や商品のことはそこまで考えていません。企業は商品を買ってもらうことがゴールですが、消費者は自分の生活をよくすることがゴールで、そのために企業の商品を利用するだけです。代表的なものは「5セグ」です。自社ブランドやカテゴリにおける①未認知(そもそも知らない)②認知未購入(知っているが買ったことがない)③経験あり非ユーザー(かつて買ったことがあるが今は買っていない)④ライトユーザー(低頻度で買っている)⑤ヘビーユーザー(高頻度で買っている)の割合を把握します。ほとんどの場合、④⑤に比べ①②③の割合が大きくなります。一般的に企業が「お客様」として捉えているのは④⑤だけですが、①②③も踏まえてみることで、新規獲得~既存維持の中で、どこに投資をすべきかの判断材料になります(時系列で見ればなおさら)個人的には①②③まで含めて数字を把握している例は思ったより少ないのでは、と思います。今流行の「データ分析」でも、1STパーティーデータ(自社顧客のデータ)は④⑤分しかありません。なお「5セグ」に関しては、自社だけでなく競合も合わせて見ておくと自社との比較ができますし、カテゴリレベルで見ても発見がある場合が多いです。

もう一つ見ておくとよいのは、消費者のカテゴリ利用に対する定量的なデータです。例えばですが、自社が洋食器を作っている企業だとしましょう。消費者調査をやるとなるとつい「洋食器にこだわりがあるか」「どんな洋食器がよいか」など「洋食器」を中心に聞いてしまいますが、生活者が「食器」を使っているのは基本的には「食事」のためであり、「お椀」や、「手づかみで食べれるサンドイッチ」なども実は競合です。なので「普段の食事でどのくらい洋食器を使いますか」「普段の食事は和食ですか、洋食ですか」「家で週にどのくらい食事をしますか」等、生活者がブランドを使う際のより広い文脈の把握もできるとよいでしょう。特に「消費者の選択」において自社のブランドが選ばれる確率を把握しておくと、これをどの程度のばすか、どうやって伸ばすか、を考える基礎データになります。

※蛇足ですが、洋食器の場合は普段づかいのものを買い足す、もしくはスイッチさせるは容易ではなさそうです。なので「特定シチュエーション用の専用食器」「贈り物としての食器」「新婚や新生活時に初めて買う食器」「子供がいる家庭用」など、何らかのポイントを作りその中で想起No.1を築く戦略もありますし、特定の強い商品ベネフィット(極端ですが例えば『油汚れが付きにくく、食器洗いの時間が1/3になる食器』など)が作れれば、それをテコに普段使いの食器をスイッチさせる、という戦略もありえます。市場規模と、実現可能性、自社の強みを踏まえてどの戦略をとるかを考える必要があるでしょう。

③市場で見る数字

ここを見ている企業は多いと思いますが、自社ブランドのカテゴリに関する市場の規模や伸長率は見ておいた方がよいでしょう。最大で売上がどのくらいいきそうか、今後展望がありそうかを確認する視点ですね。ただ市場というのは難しいもので、目にみえる市場が全てではありません。一見関係なさそうなものが実は競合だった、ということは良くあります。先ほどの食器の例だと、「普段使いの食器」ではもちろん「食器市場」を見ることになります。一方「贈り物」文脈でみた場合は「贈り物市場」をみることになるでしょう。市場というものが存在しているわけではなく、消費者が選ぶものの総体が市場、というわけです。

以上、ざっと書かさせてもらいましたが如何でしたでしょうか。

色々かいてしまいましたが、異論反論あるかもしれません。個人的にはこれらの内容自体より「考える際の視点」の方が重要で、「今見えているものだけを見ない」「より広い視点での現状把握につとめる」と言う点が大事かと思います。またカテゴリや時代によって消費者の選択や購入の仕方が変わる可能性もあり、僕自身もさらに現状把握の方法については磨きをかけられればと思っています。

参考文献:
米田恵美子著「リサーチ&データ活用の教科書」東洋新報社
西口一希著「顧客起点マーケティング」翔泳社




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