【前編】講演レポート「結婚に対する法的保障と契約による権利義務の設定について 港区のパートナーシップ制度」

みなさんこんにちは。
私たち一般社団法人Famieeは、「多様な家族形態が当たり前に認められる社会の実現」をミッションに、現在の法律では夫婦や親子と認められない人たちが、家族としての当然の権利やサービスを受けられるようブロックチェーン技術を使った「家族関係証明書」の開発を行っています。

去る2020年7月17日、私たちは「第3回民間によるパートナーシップ証明書検討委員会」を開催しました。
2019年9月、11月とFamieeは過去2回「民間によるパートナーシップ証明書検討委員会」を実施してきました。

①サービスを提供する企業・団体
②雇用する企業・団体
③当事者の⽅々
④弁護⼠
等のメンバーが集まり、さまざまなご意見やご指摘を賜ってきた次第です。

第3回目となる今回は、早稲田リーガルコモンズ法律事務所所属・弁護士の原島有史先生をお招きし、「結婚に対する法的保障と契約による権利義務の設定について 港区のパートナーシップ制度」をテーマとした講演会を開催しました。

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原島有史:弁護士。早稲田リーガルコモンズ法律事務所所属
過労死をはじめとする労働問題の分野で実績があり、多くの過労死や過労自死案件を解決してきた。セクシュアル・マイノリティを支援する法律実務家・専門士業の全国ネットワークである「LGBT支援法律家ネットワーク」にも所属。また、同性婚が認められる社会の実現のために活動を行うNPO法人・EMA日本の理事。「性のあり方に関わらず、誰もが結婚するかしないかを自由に選択できる社会の実現」を目指す一般社団法人・Marriage For All Japanでは監事を務める。

原島先生は、令和2年4月から東京都港区で施行された「みなとマリアージュ制度」の雛形となる「婚姻契約書」を作成した方でもあります。
今回の講演会では、渋谷区・世田谷区・港区型パートナーシップ制度それぞれの違い、そして同性パートナーシップ制度や同性婚が日本で当たり前に認められる社会を作るためにできることについて、詳しくお話頂きました。

※こちらの記事は、原島先生のファクトチェックを経て公開しております。後編も同様です。

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全国51の自治体が導入している同性パートナーシップ制度(2020年6月時点)

早稲田リーガルコモンズ法律事務所の原島有史です。本日はよろしくお願いいたします。

かれこれ5年、10年前は日本で同性婚を成立させるというのはまだまだ一般的ではありませんでした。しかし朝日新聞と東京大学谷口研究室が自民党支持層を対象に行った共同調査では、今や同性婚に賛成している人は46%にも上り、反対より上回っている状況です。

参考:(朝日・東大谷口研究室共同調査)賛成、自民支持層でも浸透 夫婦別姓54% 同性婚41%
※調査は2020年3〜4月にかけて行われ、5月に公表されたもの

今年か来年中に同性婚を実際に法制化できるかというと、もっと時間がかかる可能性もあります。とはいえ、その間に何もしなくてもいいということではありません。
同性カップルに対する法的保障は、日本国内にも現在進行形で必要としている人たちがたくさんいます。そういう人たちに対し、「同性婚の成立までは何もせず待っていよう」という対応では遅いのではないか、ということで生まれたのが、パートナーシップ制度です。

現在、東京都内では渋谷区・世田谷区・港区等で制度が導入されています。全国規模で見ていくと、同性パートナーシップ制度は2020年6月時点で全国51の自治体に広がっています。

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引用元:(c) 渋谷区・認定NPO法人虹色ダイバーシティ 2020 
地方自治体の同性パートナー認知件数 (2020年6月30日時点)


資料にもあるとおり、これは人口カバー率で言うと26.4%。政令指定都市に限っていえば半数以上が導入していますし、都心部だけではなく、人口50人以下の自治体でもパートナーシップ制度を導入している地域もあります。
日本全国で、同性カップルに対する法的保障の整備という機運は広がりを見せているといえるでしょう。

この流れは、恐らく不可逆的なものだと思います。同性カップルに対する法的保障を広げていこうという流れ自体は、世界全体を見ても先進諸国を見ても変わりません。私は、日本においてもこの流れは起こるべくして起こっていると考えております。

渋谷区・世田谷区・港区型パートナーシップ制度の違い

ではここから、渋谷区・世田谷区・港区型パートナーシップ制度の違いや詳細について、弁護士としての視点から解説していきます。

現在、様々な市区町村が導入している同性パートナーシップ制度は大きく以下の2種類に分けられます。

①条例方式
②要綱方式

同性パートナーシップ制度を全国で最初に導入した渋谷区が採用しているのは、①条例方式です。これは渋谷区の区議会が決議をして、「条例」として制定した形になっています。私が雛形を作成した港区のみなとマリアージュ制度も条例方式です。

対して世田谷区型は、②要綱方式です。世田谷区長の権限のもと、自治体職員の事務処理手順を示したマニュアルという形で作成したものが「要綱」方式。渋谷区形とは違って、議会で決定して制度として導入されたものではありません。
全国の自治体を見てみると、一番多いのは②要綱方式のようです。

では、①条例方式と②要綱方式の大きな違いは何か? 
あえていうなら、①条例方式には第三者に対する法的効果が定められているケースが多いことです。

たとえば渋谷区であれば、パートナーシップ制度に応じた取り組みを行うよう、事業者に「努力義務」を課しています。義務に違反し、かつ区からの度重なる是正勧告にも従わない場合は、事業者名を公表できるという制度まで導入しています。
港区も同様です。多様性推進の努力義務を区民もしくは事業者に課しているだけではなく、指導是正の要請も行える内容となっています。

一方、②要綱方式の場合は、第三者や事業者を名宛人としていないので、上記のような努力義務の規定すらないのが通常です。

「であれば、②要綱方式には法的効力がないのでは?」といわれることも多々あるんですが、そう言い切るには注意しなければならない点があります。

確かに、渋谷区や港区型の同性パートナーシップ制度には多様性への配慮や推進の努力義務が定められてはいます。しかし、それが実際に実行されているのかといえば、微妙な気はしています。判断基準が極めて抽象的なんですね。そのため、「具体的にこういう理由で事業者が違反している」と区の職員が判断することが、かなり難しい側面があります。

なので実際のところは、法的効果の面ではあえていうほどの違いはないのではないかな、と私は考えています。

それから、もうひとつ。同性パートナーシップ制度には「法的効果がない」という説明をされることがよくあります。
でもですね、それはここでいう法的効果が「何を指していっているか?」という観点から注意して見る必要があります。

そもそも、この制度を導入した自治体は、セクシャル・マイノリティも含む多くのマイノリティに対して「しっかり目を向けて配慮していこう」という姿勢そのものを表しているわけです。同性カップルに対しても当然、配慮しよう・仕事がしやすい・生きていきやすい区を作っていこうと宣言しているんですね。

そのため、区職員に対する結婚休暇制度や出産休暇制度を、同性パートナーに適用している自治体もあります。ほかにも介護保険の申請条件である「家族」に同性パートナーを含めたり、家族介護慰労金の支払いを同性パートナーにも行ったりしている自治体もあります。

ある意味、これって法的効果ですよね。渋谷区・世田谷区・港区はさらに踏み込んで、区営住宅に同性パートナーも住めるように制度を改正しています。

こういった観点から、一見①条例方式である渋谷区や港区の方が法的効果がありそうですが、私は実際のところはそこまで違いはないという考えです。

もうひとつ、渋谷区・世田谷区・港区型パートナーシップ制度の大きな違いを挙げるとすれば、申請に必要な書類です。

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画像提供元:早稲田リーガルコモンズ法律事務所

①条例方式を採用している渋谷区では「公正証書」、港区では公正証書もしくは「私文書」を提出することになっています。対する②要綱方式型の世田谷区では、とくにそういった書類の提出義務はありません。

また、世田谷区の場合は「当事者の関係」に関する法的な権利義務が発生するわけではありません。一方、渋谷区と港区は一定の権利義務関係が生じます。
当事者の関係については、後ほど(※記事後編にて)しっかりとご説明します。

「家族として扱ってほしい」同性パートナーの切実な訴え

ところで、自治体が発行する同性パートナーシップ制度の利用について、当事者の方々はどのように考えているのでしょうか?

2015年にNHKが行ったアンケート調査によると、同性パートナーシップ制度を「申請したい」と答えた当事者のうち、一番多かった理由は「医療を受ける際、家族と同等の扱いを受けたい」で50%を超えていました。

その次に多かった理由は「法律上、家族として認めてほしいのでその第一歩として」で、こちらも50%を超えています。

3つ目に多かったのは「職場で家族手当・慶弔休暇・介護休暇など家族と同等の扱いを受けたい」。
要するに、異性のパートナーと同じように同性のパートナーも「家族」として扱ってほしいという、当事者の切実な訴えがうかがえます。

参考:「LGBT当事者2600人の声から」NHKオンライン

では、こうしたアンケート調査から浮き彫りになった課題を自治体のパートナーシップ制度で解決することはできるのか? 
次は、その点を考えていきたいと思います。

後編はこちらから。



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