【後編】講演レポート「結婚に対する法的保障と契約による権利義務の設定について 港区のパートナーシップ制度」


前編の続きです。

※こちらの記事は、講演者である弁護士・原島有史先生(早稲田リーガルコモンズ法律事務所所属)のファクトチェックを経て公開しております。前編も同様です。

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「当事者間で契約を結ぶこと」が必要な渋谷区・港区型パートナーシップ制度

条例方式型を採っている渋谷区や港区の場合には、手続の際に必要となる提出書面の中に、「公正証書」または「私文書」があります。
この制度を利用する当事者は、契約によって当事者間に法的な権利義務を設定する必要があるわけです。

本来、当事者が契約を結ぶ際には、公序良俗違反(殺人など)」に抵触しない限り、誰でも自由に契約内容を決定することができます。

また、契約成立には法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成やその他の方式の具備も必要としていません。

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画像提供元:早稲田リーガルコモンズ法律事務所

つまり、これから共同生活を送りたいという当事者は、二人の関係について自由に決めることができますし、その合意に法的効力を与えたいときにも、公正証書などの公的な書面を作成する必要は本来はありません。

しかし、渋谷区の場合は、最低でも以下の2点を規定した公正証書を作成する必要があるとされています。

①「同居協力扶助義務」
(※参考:民法 親族 第752条【同居、協力及び扶助の義務】「司法書士合格クレアール司法書士試験攻略サイト」
②2人の関係が真摯な信頼関係に基づくことわかる情報

港区ではより踏み入った仕様となっており、契約の内容についてかなり具体的な提案が行われています。

では、渋谷区と港区ではなぜ公正証書の提出が必要なのか? そもそも公正証書とはなんなのか。

公正証書を作る意義・メリットとは?

公正証書を作る意義やメリットを、以下の資料にまとめてみました。

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今回とくに言及する必要があるのは、ひとつめと3つめの項目です。

ひとつめの項目は、「その契約の当事者が作成したもの」という強い推定が法律上働くことにメリットがあります。「他人がなりすまして作った契約書ではないこと」を、公正証書は強く推定させるのです。

3つめですが、こちらは法的な効果というよりも、事実上の効果という側面が強いです。公正証書が信頼の担保になるといったニュアンスです。このため、4つめの項目とも連動する部分がありますね。

こうして挙げてみると、公正証書作成の意義は「契約を結びたい本人が作った」ことに対する証明力を与えることだけ、です。法的効果を発揮させるというよりは、事実上の意味合いが強いといえます。

となれば、渋谷区にせよ港区にせよ、区の窓口で本人確認をしっかり行えば必ずしも公正証書だけにこだわる必要はないわけです。
では、なぜあえて公正証書の提出を求めているのか?

公正証書の提出は「関係の安定性」の証明になる?

各自治体が制度を導入する際にどのような議論があったのかについて、不勉強のため私は把握していません。そのため、ここから先のお話はあくまで私なりの理解です。
それは、公正証書発行に付随するデメリットから出発する考え方です。

先ほどの資料にもあるように、公正証書には費用と手間がかかります。
そのため、「そこまでして作るからには、パートナーシップを結ぶことに対する意思がしっかりあるのだろう」ということが第三者に伝わる、というのが考えられる理由でしょうか。「費用と手間をかけてまで作るならば、その人たちの関係は安定しているだろう」と。

結婚って、まさに「関係の安定性」が重要ですよね。そもそも、なぜ同居している恋人同士には認めない権利等を結婚している人たちには認めているのかというと、2人の関係が安定していることが前提となっているからです。

一般的には、結婚した場合は当事者間の関係は永続的かつ安定しているとみられることが多いですよね。例えば、結婚に付随する福利厚生や遺族年金といった制度は、安定的な関係性の上に設けられているわけです。
夫婦は、お互いの扶養に対してお互いが義務を負う必要があります。お互いの関係が安定しており、生活を見守り合っているという関係が前提となっているからこそ、遺族年金をはじめとする制度が受けられるんですね。

では、現在の日本では法的な婚姻が認められていない同性カップルには、どのようにして関係の安定性を証明してもらえばいいのか? 
という観点から、費用も手間もかかる公正証書の提出を要求しているのではないかと、私は位置付けています。公正証書は簡単にそう作ったり破棄したりできるものではないので、「これを作るからには安定しているだろう」という想定があるのかもしれません。

公正証書に代わる「婚姻契約書」のポイント

以上の理解を前提として「では手間も時間もかかるものを用いなければ、安定的な関係性は証明できないのか?」というと、私はそうでもないのではないかと思っています。

私が作った港区型同性パートナーシップ制度の「みなとマリアージュ制度」で適用される契約書の雛形は、まさに上記のポイントを押さえたものでした。

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画像提供元:早稲田リーガルコモンズ法律事務所

婚姻した夫婦間に認められている権利義務を「契約書」にすると、どういうふうになるのか? という視点から作ったのが、この「婚姻契約書」です。こちらの契約書は、私が理事を務めているEMA日本(※国内で同性婚が認められる社会を目指す活動を行うNPO法人)で作ったものになります。

婚姻契約書を作る際にとくに重視したのが、当事者の関係が悪化したときの清算の方法でした。一般的に、契約ってお互いに仲が良かったり関係が安定していたりするときには使わないんですよ。契約が最も効力を発揮するのは、当事者間で話し合いがつかないような関係になったときです。だからこそ、そうした場面をしっかりと規定しておく必要があります。

この点を踏まえて、「もし当事者間の関係が壊れたとしても、夫婦の同居協力扶助義務の観点から、この契約書が破棄されるまでの間はしっかりと責任を持たなければならない」という内容にしました。

まとめると、
・契約上で結ばれる権利義務の関係を確認すると、簡単に破棄したり関係を解消したりするのは、明らかに難しい
・お互いの生活に対し、お互いが責任を負う義務がある

という内容に仕上げることで、当事者間の関係の安定性を証明できる契約書となっています。

とはいえ、婚姻契約書でできることには、限度もあります。法律婚によって発生する法的効果って、たくさんあるんです。例えば配偶者の帰化申請など、当事者間ではどうしようもできない領域に対し、法律婚が保障してくれている部分はたくさんあります。

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婚姻契約書の締結ではどうしても足りない部分は、まだ色々と残っているのが現状です。

だからこそ、我々は契約で当事者間で認められる部分はあるとしても、法的な保障や法的な婚姻制度を同性間にも広げるべきだという主張をしているわけです。

ジェンダー平等を達成している国ほど、同性婚を認めている

また、同性パートナーに関する法的保障というのは、男女の平等ともリンクしている概念だと思います。

世界経済フォーラムが発表している、世界各国の男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」を見てみましょう。
資料は2018年版のものですが、男女平等を達成している上位15か国のほとんどは、同性婚を法制化しています。

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逆に、下位10か国はどうでしょうか。

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同性カップルは結婚を認められないどころではなく、死刑という国すらあります。

資料を鑑みると、男女の平等指数とセクシャル・マイノリティに対する法的保護というのは、ある程度の関連性はありそうだと私は考えています。その理由については、議論し始めるとかなり長くなってしまうため、今回は割愛いたします。

日本はどこにいるかというと、2018年時点では110位です。
最新の2020年版では、121位にまで下降しています。

参考:「共同参画」2020年3・4月号 | 内閣府男女共同参画局

日本だって、上位を目指したいですよね。そのためにも、同性パートナーに対する法的保障を拡充していくのは、とても重要なことだと思います。

現在、全国各地の自治体では同性パートナーシップ制度が広がっています。
これの副次的な効果は、社会全体に認知が広がることです。

また、当事者が「社会から自分たちが受け入れられている」「社会において自分たちの存在が可視化されている」「自分たちもここにいていいんだ」という安心感を覚えられるようになることも、副次的効果として大変重要だといわれています。

私はこちらの「民間によるパートナーシップ検討委員会」に第1回目から参加させていただいていますが、最後に、Famieeさんにメッセージを。

Famieeさんの活動内容は、まずは草の根的に民間において同性パートナーシップ証明書を広げることで、国や社会全体のセクシャル・マイノリティに対する権利保護を推進していくことですよね。

今は民間企業や病院などの機関に対してアプローチしている段階でしょうが、民間で制度の導入や使用が広がるとどうなっていくのか? というと、同性パートナーシップ制度を導入する企業が増えれば増えるほど、そして大きな企業が参加すればするほど、「自分たちは社会において認められているんだ」「社会に受け入れられているんだ」という当事者の安心感も広がっていくでしょうし、社会に対する認知も拡大していけると思います。
広がれば広がるほど大きな効果が出てくるでしょうから、今後とも応援しております。

以上で、講演を終了させていただきます。ありがとうございました。

ーー原島先生、お忙しい中ありがとうございました。


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