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世界の結婚の今【PART3:フランス共和国編】フランス版のパートナーシップ制度であるPACSは、今や“婚姻”と肩を並べるほどの存在に!!

「世界の結婚の今」も、3回目を迎えることになりました。PART1では、民族や宗教により結婚生活のありようが大きく異なるアメリカ合衆国を、そしてPART2ではカトリックの影響もあり離婚制度が存在しないフィリピン共和国を取り上げましたが、これに続くPART3では、フランス共和国(以下、フランス)を取り上げます。今回も、まずはその婚姻制度を紹介した上で、日本在住のフランス人2名にインタビューを行いました。

フランスの婚姻制度は一夫一婦制で、2013年以降は異性間のみならず、同性間の婚姻も認められています。年齢的には、原則として18歳以上であることが求められます。またフランスには、婚姻に加えてPACS(Le pacte civil de solidarité)というパートナーシップ制度が設けられており、さらには法的契約を伴わないユニオンリーブル(事実婚)のままで一生を通すカップルも少なくないそうです。

まずは婚姻について見てみましょう。フランスは子育て支援先進国として知られており、子育て中の世帯に多くの支援策を提供しています。これを享受するためには両親が結婚していることが原則なので、結婚することなくこれを享受するためには子供の出生時に生物学的な父親を明確にしなくてはなりません。この手続きを通して父親は夫であると見なされ、子供にはデフォルトで父親の名字が与えられます。また結婚することにより、夫婦いずれかが元配偶者との間でもった子供たちとの養子縁組も容易になります。

加えて税金面でのメリットも無視できません。フランスでは結婚後の資産は、特別な契約をしない限りはきっちりと折半されます。この考え方に基づき、所得税も夫婦の合計所得に基づいて計算され、これを2で割った金額に決められた税率が課される形であり、一般に未婚のカップルより少額になります。加えて、未成年の子供(21歳まで)を扶養している場合には、2人までは1,570€/人、3人目からはその倍の減税を受けることができます(金額は2021年時点)。

また、夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者は、故人の子供の人数に応じた相続の権利を得ると共に、向こう1年間にわたり、夫婦の住居に無料で住み続けることができます。この期間の終了後、残された配偶者はそこに住み続けるか、あるいはそれを貸し出して、新たな住まいを構えることもできます。このほか、亡くなった配偶者が保険に加入していた場合には、残された配偶者および元配偶者は、所定の条件に則り、被保険者の年金の一部を受け取ることができます。

このように多くのベネフィットがあるフランスの結婚ですが、その手続きは複雑で、事前に複数の書類提出や証人の手配、担当官によるヒアリング等が求められることに加え、市役所の入り口に配偶者の氏名など必要事項を10日間に渡り掲示して異議申し立てがないかを確認するなど、何ヶ月も要することがあるそうです。こうしたプロセスを経て、夫婦いずれかに縁のある市庁舎内で、市長や副市長立ち会いの下で宣誓することにより婚姻が成立し、その翌日には、結婚証明書のコピーが請求できるようになるとのこと。教会などにおける宗教上の結婚式は、市役所での儀式が終了した後に行うことになります。

なおフランスでは、婚姻後も姓を変更する必要はありません。夫婦ともに旧姓を維持することもできれば、配偶者の姓を用いる権利も有しています。それぞれの配偶者は、旧姓のみを使い続けることもできれば、配偶者の名字を使用することもできれば、両者を好きな順番で組み合わせ、間にハイフンを入れたり、入れなかったりして使うこともできます。いつになっても夫婦別姓が認められない日本の実情と比べると、雲泥の差と言っても良さそうですね。

一方、離婚するに当たっては、①相互の合意が得られている場合、②離婚の合意は得られても条件面で折り合いがつかない場合、③夫婦関係が変化している場合、④過失による場合などにより手順が異なります。①については2017年以降、一部を除いて裁判官なしに手続きすることができるようになりましたが、お互いに弁護士を立てなければならないため、2~3ヶ月を要します。また②~④については、それぞれに応じた調停のプロセスが必要になります。離婚費用は複雑さに応じて幅があり、①の場合は弁護士1人当たり2,200€(2016年以前の費用は1,500~2,000€)、④の場合は1万€を超えることもあるとか(金額は税抜き)。固定費に加えて、配偶者の財産に応じた報酬が加算される場合もあるそうです。

次にPACSは、同性間のパートナーを対象に1999年に発足した制度ですが、その利用者は異性間のカップルが同性間のカップルを上回っているとか。PACSは成人したカップルが必要書類を市役所もしくは公証人に提出すれば世帯が成立。税金などにおいて婚姻とほぼ同様のベネフィットを得ることができます。また、関係を解消するに当たってのお互いの合意は不要であり、一方が別れたいと思った時点でいつでも、最初に登録した市役所等に届け出ればOK。相手には後日、裁判所の職員から連絡がいくようですが、いきなりそんな連絡が来たら、ビックリですね。

人々の自由を尊重し、多様な選択肢を提供した結果、家族の複雑化が進行

次に、フランスにおける婚姻数、離婚数、PACS数を見てみましょう。

2019年におけるフランスの婚姻数は22万4,740件で、このうち異性間が21万8,468件、同性間が6,272件でしたが、コロナ禍のもとにあった2020年における婚姻件数は15万4,581件と大きく減少し、このうち異性間が14万9,983件、同性間が4,598件だったそうです(図表1)。またフランスでは、婚姻に先駆けて半年~1年間にわたり“お試し期間”を設けるカップルが多いことや、PACSやユニオンリーブルで結ばれていたカップルが晩年になって婚姻に踏み切るケースも少なくないことなどから、平均婚姻年齢が性別や異性間VS同性間の別により30代後半から40代前半と高いことで知られています。

※平均婚姻年齢 出典:Institut national de la stastistiques et des études économiques

図表1 婚姻数とPACS数の推移

注 ピンク/同性間のPACS数、グレー/異性間のPACS数、イエロー/同性間の婚姻数、ブルー/異性間の婚姻数
出典:Institut national de la stastistiques et des études économiques

一方で離婚件数は、2017年より前述の4分類における①(相互の同意が得られている場合)が裁判官の手を煩わさずとも可能になったことから、2017年には裁判による離婚が9万613人で、2016年の12万8,043件から大きく低下。その後は2018年が6万2,317人、2019年が6万6,081件、2020年が57,437件で推移しています。ちなみに過去の離婚件数を見ると、2010年には13万3,909件、2015年には12万3,668件となっていました(図表2)。

図表2 離婚件数の推移

(1) Divorces directs et conversions de séparations de corps. *Suite à la loi n°2016-1547 du 18 novembre 2016, les procédures de divorces peuvent être également enregistrées par un notaire. Celles-ci ne figurent pas dans les statistiques enregistrées ci-dessus et les chiffres de 2017 et suivantes sont donc incomplets. n.d. non disponible

出典 : L’évolution démographique récente. Population, 4, 2021. Calculs et estimations à partir de données Insee.

次にPACS数を見ると、2019年には19万6,370件で、このうち18万8,014件が異性間、8,356件が同性間、コロナ禍の下にあった2020年には17万3,894件で、このうち16万5,911が異性間、7,983件が同性間となっています(図表1)。PACS件数は、1999年9月に制度が発足して以降、特殊事情のあった2011年を除いて概ね増加傾向にあり、2020年にはコロナ禍の影響で減少したものの、その減少率は婚姻数を下回っています。このようにPACSが増加傾向にある背景には、前述した通り婚姻とほぼ同様のベネフィットが受けられるにも関わらず、婚姻に比べて契約の締結・廃止が手軽に行えることが指摘されています。

このほかデータは古いですが、INSEE ANALYZES によると、2016年には人口の20%がユニオンリーブルの関係を結んでいたとのことです。

1945年以降、婚姻件数は減少傾向にあるものの、多くの人々にとって結婚は必要な制度にほかなりません。しかしその傍らで、離婚や再婚の件数が多いことなどから、婚姻制度の重要性が改めて問われている面もあります。婚姻、PACS、ユニオンリーブルなどさまざまなスタイルで結ばれて子供をもうけ、一方では離婚・再婚などを通じて再編成されていく複雑な家族模様は、フランス社会の現実の姿そのもの。今なお家制度の影響下にある日本のそれとは大きく異なっていると言えるでしょう。

日本在住のフランス人たちは、「日本人は家族との時間を大事にしない」と口を揃える

【日本人の妻とパリで結ばれ、今では東京で結婚生活を営むAさん】
大学でフランス文学を教える日本人の妻と2人で東京に暮らすAさんはフランス資本の食品メーカーに勤める男性。大学時代に研修のために日本を訪れ、1年間暮らしたことがあるというAさんは、フランスに帰国した後に、当時、フランスでPHDを取得していた現在の妻に出会い、結婚することになったとのこと。当時は日本に住むことは考えていなかったものの、結婚後も両親との関係を大切にしていきたいという思いのもと、自然な流れで今日に至ったそうです。

Aさんによると、フランス人が今日のように結婚にフレキシブルな考え方をするようになったのは、1968年の五月革命の影響が大きいとのこと。五月革命はいわば“自由のための戦い”だったわけですが、これを機にパートナーシップのあり方にも個人の自由が尊重されるようになったということです。実際にAさんの周りには、PACSで結ばれて子供をもうけている友人もいますが、社会的ステイタスの高い友人たちは結婚を選択する傾向にあるとか。また、結婚に当たって個別の契約を結び、離・死別に当たって資産をどのように分けるかを取り決めておくカップルも目立つそうです。

一方、日本の婚姻制度は同性婚も認められていないし、フランスと比べると自由が制限されている感があるとか。さらに勤務時間が長ければ、通勤にも時間を要し、有給休暇も限られていることから、特に大都市での生活にはゆとりがないと感じているそうです。またフランスでは、日本とは比べものにならないほど子育て支援策が充実していますが、これも家族の生活にゆとりをもたらす一因となっているようです。

また夫婦間での家事の分担については、女性が料理を担う一方、男性が洗い物や掃除を担うケースが多いとか。Aさん自身は掃除機を掛けることと飼い犬の散歩を担っているそうですが、休日には配偶者のためにチーズ入りオムレツを作ったりすることもあるようです。また、Aさんには子供はいませんが、子供のいる家庭では、父親が子供の宿題の面倒を見る家庭が多いとのことでした。

さらに日本では、フランスに比べると映画・オペラなど文化へのアクセスポイントが限られており、前述したゆとりのなさも相まって、夫婦で一緒に取り組める趣味が限られているように見えるとのこと。Aさんご夫妻も、パリに住んでいた頃にはよく一緒に映画などを観に行ったものの、日本に来てからは、せいぜい年に2~3回になってしまったそうです。また日本では、お正月とお盆を除くと、両親や兄弟と一堂に会する機会が少ないとか。そんな中でもAさんは、仕事と趣味の両面でお互いが希望する道を歩み、目標達成に向けて歩んでいきたいと、その抱負を語ってくれました。

【ファッション・クリエイターを目指して日本留学中のBさん】
フランスはブルターニュ出身のBさんは、日本に来て3年強になる20代の女性。日本でのキャリアを生かしてファッション・クリエイターになるべく、現在は専門学校でメイクアップの勉強をしています。母親が病気がちだったことから、料理も掃除も洗濯も一手に担う父親の元で育てられたというBさんには、インタビューを通して、自立した女性であることへのこだわりが感じられたのが印象的でした。

BさんにはLGBTの親戚や友人がいることもあり、フランスの婚姻制度が同性カップルをも対象にしていることを高く評価しているとか。またPACSは結婚に比べると気軽に利用できる点が評価され、若者の人気を博しているとのことでした。さらに、フランスの結婚式については、市役所で婚姻の宣誓をするだけのカップルもいれば、その日の夕方からお城を借りて大々的なパーティを開催するカップルもいるなど人それぞれ。またPACSの結婚式は、よりカジュアルに行われる傾向にあるとのことでした。

Bさんによると、日本人の夫婦は、男性は家事が任せられるから、女性は収入面で依存できるから、結婚しているかのようだとのこと。また、夜遅くまで働いたり、飲みに行ったりと、家に帰りたくないかのような男性が多ければ、家族みんなの母親であるかのような女性も多いと感じているようです。これに対してフランスでは、夕食時は大切な家族のための時間であり、男女共に家に帰るのを楽しみにしているとか。とは言え、子供がいないフランス人夫婦は、相手がイヤだと思ったらすぐに離婚を考えるそうで、今や若年層には、離婚経験やシングルマザーを悪いイメージで捉える人はほとんどいないとのことです。

結婚生活については、フランスの家庭は共働きが大半なので、シェアアカウントを設けて、折半、もしくは収入が多い方がやや多く出す格好で、家計をまかなっているケースが多いそうです。また、Bさんと同世代のカップルは、家族で家事を分担しているとか。朝食はパンと飲み物ぐらいなので、子供を含めて自分の分は自分で用意するものの、朝食以外では妻が料理を担い、夫が後片付けを担うケースが多いようです。

Bさんは、付き合って3年になる日本人のボーイフレンドと半同棲状態にあります。彼は結婚したいようですが、Bさんには今のところそのつもりはありません。Bさんの悩みは、自立した女性でいることと、結婚して家族を持つことの折り合いをどのようにつければ良いのか。この解が見えない中で結婚することは、ある意味“敗北”のように感じられるそうです。一方でBさんは、以前は自分が不自由になるから子供はいらないと思っていたものの、今ではいつか自分の子供が欲しいと思うようになったとか。そんなBさんに理想の結婚について尋ねてみたところ、家事が得意な夫や子供たちと、お互いにとって心地よい時間を過ごせることという答えが返ってきました。

以上、PART3ではフランスを取り上げましたが、その婚姻・パートナーシップのありようは、日本とは大きく異なっていました。国レベルでの同性婚やパートナーシップ制度の存在、夫婦、中でも子供がいる世帯への手厚いベネフィットには、少子高齢化の中、将来に不安を抱える日本が学ぶべき点が多いように感じられます。しかし、こうした取り組みは、一方では離婚率、婚外子率の高さ、さらにはその結果としての家族の複雑化を招いています。この分野では後進国とも言える日本は、多様な施策の中から何を選択すべきなのか、軽い気持ちで始めたこの連載が、実は日本の未来を左右する一大イシューにかかわっていることを、ここにきて改めて痛感させられました。

★世界の結婚の今は、【PART4 台湾編】に続きます。

執筆:
コラムニスト/西村道子 Famieeプロジェクトメンバー
マーケティングリサーチ会社でダイレクトマーケティング等にかかわる調査・研究に従事した後、1989年に「お客さまとの“対話”を重視した企業活動のお手伝い」を事業コンセプトに(株)アイ・エム・プレスを設立。インタラクティブ・マーケティング関連領域の出版物の発行&編集責任者を経て、2015年に「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」を立ち上げ、編集長に就任。現在はB2Bを中心としたコンサルティングを行う傍ら、マーケティングや異文化コミュニケーションに関するコラムを執筆している。2021年よりFamieeプロジェクト・メンバー。

一般社団法人 Famiee
https://www.famiee.com/





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