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最近読んで一番面白かった漫画 『コーポ・ア・コーポ』

漫画BANKや漫画rawで違法タダ作品を読むのが若者の間では当たり前になってしまった昨今。
サブスク型サービスの台頭も相まって、紙媒体にせよ電子版にせよ、所有することの価値は下がってきている気がしますよね。

そんな中、未だに収集癖を抑えきれず、日々手元に置いておきたい漫画を模索するジャンキーたちに紹介したい作品がある。そう、表題の『コーポ・ア・コーポ』だ。

と言いつつ、ネットが出自のコミックなのでオンラインで気軽に(何話か無料で)読めます。面白れぇので単行本がおすすめですが、、、



まず、おれがこの作品に強烈に惹きつけられたのは、芥川賞作家の西村賢太が絶賛しており、何よりも自分が西村賢太作品の熱烈な愛読者であったからである。ちなみに先生が寄せてくれたコメントを以下に引用した。

「得体の知れぬ日常を底知れぬ生命力で渉(わた)る。そんな人たちが、ここにいる。」
コーポ・ア・コーポ単行本帯文より


正直この一文で的確に作品を表しているので、自分のレビューなぞ無粋なものであるが、やっていく。


舞台は大阪。かなりのボロアパートで暮らす住人と、その周辺の人物が、「豊かとはいえないまでも必死に、しかしながら飄々と日常を生き抜く」姿を描いた群像劇、というのが大まかな物語の概要になる。

第一話ではコーポ内の住人が自殺し、物語の幕が上がる。

第一話の巻頭ページ

下層生活とはいえ、人が亡くなっているので故人との生前のやり取りや、「自殺してしまう前に自分には何かできなかったのだろうか」的な月並みな葛藤が描かれる、と思いきや、、、

そんな様子もなく、物語は淡々と進む。
なんなら遺された電化製品を、コーポの住人でどのように分け合うかの話し合いが始まる。亡くなった山口さんは強迫観念にとりつかれた収集癖の持ち主だったのである。

そして、ガテン系の住人石田(女にモテる、でもなんやかんやDVしちゃう)は、山口さんが自分のところに金を借りに来たが、貸すのを断ってしまった。「殺したのは自分かもしれない」と後悔する。

それに対して、コーポの住人は

  • ユリちゃん(第一話の主人公)「病んではる。」

  • 宮地さん(コーポ最年長のおじいちゃん)「また女に慰めてもらうだろ。」

  • 中条さん(プロのジゴロ、ママが複数いる)「すぐ忘れるよ。」

とケロッとした様子。
第一話終盤に差し掛かると、ユリの心理描写が入る。「山口さん多分あの二人のところにも借金頼みに行ったやろ」「ほんで二人とも貸さんかったやろ」「まぁ私のとこにも来たけどな……」

このシーン笑顔で煙草ふかしながら終わるんですけど、最初読んだときはジメっとした不安が胸に広がったのを覚えている。えぇ…それで大丈夫なの……みたいな。

しかし、それでも変わらず生活は続くのだ。隣の住人が首を括ろうが、上階の住人が頻繫にDVをしようが、誰も下層を抜け出す気配はない。それでもストーリーが進むにつれ、登場人物を掘り下げられると、(大体みんな暗い過去を持っているが)愛着がわいてきて仕方がない。作者は各キャラクターの解像度の上げ方が上手い。リアルで「こういう人いるよね」みたいな共感ポイントが多いことも、登場人物たちの得体の知れない魅力につながっているのではないだろうか。

徐々に読み進めていくと感じたことがある。劇画風のタッチで陰鬱な出来事が多く描かれていて、全体的に重いんだけど、これってゆる~い人間賛歌だと思うんですよね。なぜなら、この作品は「まぁなんかひどいことあっても、生きてりゃいいっしょ」「人間なんて着飾らなかったら別にこんなもんだよな」という、良い意味で人間に期待しなくてもいいよという肯定を投げかけてくれる。

日銭を数え、諦念を漂わせながらもゆるりと生き抜く人達の、肉感的な生活。日雇いの現場仕事の描写も、実際に体験しているから描けるのだろう。と思った次の瞬間には、女性のコスメの細かい設定資料が載せてあったりする。一体、どんな人物がこの作品を描いているのだろうと困惑した。作者のTwitterをフォローしてしばらくたってから女性だということを知って、ある種納得がいきつつも、驚いた。質問箱とかでも作中の細かい設定とかを語ってくださっているので、ありがたい。
最近は、「煙草に火つけて炊飯器に座ろうとしたら、炊飯器開いてて後ろにこけた」らしい

あと記事冒頭でも出てきた西村賢太先生の小説も面白いので、リンク載せておきます。


勝手に締めに入ってしまったがとにかく、『コーポ・ア・コーポ』圧倒的オススメ作品なので、是非!!
今3巻まで出てて、2月末に4巻が出るづぉ~~~~!!


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