戦略的モラトリアム【大学生活編】①

時:2001年4月初旬         場所:関東のどこか

気分:鬱蒼としたもどかしさと浮足立った高揚感のブレンドコーヒー

 入学式を控えて、早回しの人生スピ―ドがゆっくりとなった。家財道具を揃え、生活の拠点を大学周辺の地域に移した。基本的に自炊をするが、街中探索をするのが何よりも楽しかった。専門学校の寮がある場所よりは田舎だったが、40分くらい電車に揺られれば、東京のど真ん中にたどり着く。そんな閑静な住宅街に自分は4年間身を置くことになる。一人暮らしに何の不安もなかったが、久しぶりにレールの上に自分の人生が置かれているような気がして、もどかしかった。普通なら「高校⇒大学」と順調に進学をするはずであり、自分のような「高校⇒中退⇒大検取得⇒専門学校⇒大学」なんて経歴はめったにいない。言うなれば、

脱線した列車がもう一度レールの上に乗ったようなもの

そんな感じだ。自由に左右に進むことはできない。しかし、安定した前進はすることができるのである。自分のモラトリアム精神とはかけ離れたような状況だが、とりあえずレールの上で出来ることはやってみようと固い決心をした。社会の暗部にいた生き物がもう一度日の光を見ることになろうとは夢にも思わなかった。4年間でどんな心境の変化があるのだろう。自分自身がどのように変わっていくのか今から不安でたまらない。単なる就職マシーンとなって、大学生活を流れる車窓のように見逃したくない。毎日毎日を心に刻む何かを噛みしめたい。

佐野元春の「十代の潜水生活」じゃないけれど、自分の記念すべき20代ははれて浮上した潜水艦の如く、群衆の中で孤独を楽しもうと思う。

新入生ガイダンスはそんなに退屈ではなかったけれど、2歳しか違わないのに現役生がやたらと子どもっぽく見えた。

騒がしい。

キャッキャッとしているが、どことなく不安を紛らわすように知り合いと行動を共にする。やたらと辺りをきょろきょろと見回す。

不安なんだろうな。

少し心の中を覗いたような卑猥さに、ほくそ笑み、自分も空いている席に腰を下ろした。

「今から英語クラス分け試験を行います」

行動にマイクを通して、教員の声が響き渡る。ああ、そうか。TOEICだったけかな。会場は騒めきから一転、しんと静まり返った。

自分は全国模試を月に2回以上受けていたので、こういった試験には慣れている。というか、場慣れしている。あえてメイト生になって、模試慣れしていて良かった。周囲の動揺とは対照的に自分は落ち着いた様子で試験に臨んだ。

まるでヒヨコの群れに飛び込んだように、辺りは動揺と高揚、そして試験の戸惑いが混ざりあった不思議な空気があたりを包み、自分はそれに呑まれないように必死に平静を保って試験に臨んだ。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》