震災クロニクル3/15(21)

軽自動車が山道に向かって走っていく、僕らを乗せて。楽しい雰囲気ではない。よく行ったスーパー、本屋、ガソリンスタンド、どんどん横を通り過ぎていく。少し寂しさを感じながら、その店は後方の景色に小さくなって飲み込まれていく。

どうしようもなかった。

僕らは地元を捨てたのだ。自分は決して『郷土愛』に満ち足りた人間ではない。どちらかというと『田舎』というものを心から軽蔑したいた。でも、どうしてだろう。今はこの街を捨てることに強い後ろめたさを感じている。

車の後方の景色に懐かしい建物が吸い込まれる度、苦虫を噛み締めるようなどうしようもない後悔にも似た感情に苛まれた。

「なんでこんなことに……」

助手席で同僚のスタッフが頭を抱える。自分は声をかけてやれなかった。何も言えなかった。いや、何を言うべきか自分には分からなかった。

山道に入り、細く蛇行した道が延々と続く。途中多くの自衛隊の車両とすれ違った。見たところ特殊車両だろうか。ジープを大きくしたような形をしている。きっと今さっき捨ててきた故郷に向かうのだろう。その車もバックミラーに小さくなって消えていった。

山間部の村にたどり着いた。歩いている人はいない。ただ、信号が無情に動いていた。途中のコンビニは営業していたが、駐車場は車で一杯。店内はほぼ食料を買い尽くされていた。飲み物も水やお茶はすでに売り切れ。甘いジュースだけ、辛うじて残っている。

食欲もあったもんじゃない。トイレだけ済ませ、僕らは県庁に急いだ。アクセルは踏みすぎないよう、ガソリンをできるだけ使わないように、運転にも細心の注意を払った。

故郷から避難して2時間30分後、僕らは福島県庁に到着した。

その場は異様な雰囲気に包まれていた。あちこちに駐車してある自衛隊車両。公園で途方にくれる家族。外の階段でうなだれている母親とおぼしき女性と子供。そんな途方にくれる人たちが散見される。

自分たちも受付に誘導されるまま避難所受付に向かった。

県庁の別棟一階。大急ぎで造ったであろう受付がそこにあった。とはいうものの、長机1脚かポツンと置かれ、そこに男性職員が二人座っていただけだ。

どうしてだろう。人の心地がしない。彼らの眼光が僕らを処理するという冷たさで、温度が自分の肌にも感じられるほどだった。

自分たちの前に数人の人がいた。受付の男性職員と話している様子を見ると、困った、困ったと話しているようだった。県庁の職員は淡々と言葉を連ねる。少し感情的になったかのか、女性は泣き出してしまう。

こんな調子だから順番がなかなか回ってこない。

やがて諦めにも近い雰囲気で、相談していた人が席を立った。少しずつ自分たちの順番が近づいてきた。気になるのはやはり男性職員の無表情さだ。明らかに僕らを不愉快にする無表情がやけに自分の鼻についた。


そして、やっとのことで自分たちの順番がきた。

福島県のどこかに住んでいます。 震災後、幾多の出会いと別れを繰り返しながら何とか生きています。最近、震災直後のことを文字として残しておこうと考えました。あのとき決して報道されることのなかった真実の出来事を。 愛読書《about a boy》