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もうずっと昔のあの出来事の真実がどっちだったのかなんて、今さら知りようもないんだけど。

「今日の夜さ、中田くんに告白しようと思うんやけど」

学校からの帰り道、私は友人のあづさと一緒でした。私の自宅前で自転車を止めて、あづさは言いにくそうにそう言ったんです。ここの曲がり角を左に曲がってあづさは家に帰ります。あづさは近所の昔からの友人でした。

私は「えっ」と言って、そのまま黙ってしまいました。

「ごめん、好きになったみたいやねん」

中田くんは付き合ってまだ4ヶ月くらいの私の彼氏でした。

彼は違う学校の子で、私が好きになって周りからも「きっと告白したらいけるよ」と後押ししてもらって、彼の最寄り駅のホームで思い切って告白したんです。

同じ路線の高校に通っていたのでその日は待ち伏せして一緒に帰っていました。私は自分の駅についても降りられませんでした。告白しようと思っていたけどなかなか言えなくて、だから降りられなくて彼の駅までついて行きました。彼の駅のホームでしばらく二人で何か話して、どうやって告白したらいいのかととても怖くてドキドキしたのを覚えています。

やっとの思いで「好きです。付き合ってください」とうつむきながら言った私を照れながら受け入れてくれました。電車で帰っていく私に大きく手を振ってすごく明るい笑顔をくれたことを今でも思い出します。

その中田くんです。その中田くんを好きになったとあづさが言ったんです。

あづさはモテる子でした。私より美人だし、ちょっと色っぽいというか、舌足らずな話し方も魅力的で小学校くらいからずっと誰かとの恋の話が聞こえてくるような子でした。

どうしよう、と思いました。

だけどそれよりも「あづさは私より中田くんをとったんだ。友情より男をとるんだ」とグサッときたのを覚えています。

私はともかく告白は待ってほしいと頼みました。3日くらい待ってくれないかと頼んだんです。

それでその3日間の間に、中田くんとたくさん思い出話をしました。あんなことあったよね、こんなことあったよね、私たちの絆ってあるよね? 私のこと好きだよね? ずっと一緒にいてくれるよね? とかそういうことをいろいろと言ったんです。

「あづさの気持ちには答えられない」って思ってもらえるように「二人の絆」アピールを一生懸命しました。あづさの気持ちを勝手に伝えるようなことはもちろんしませんでした。

それからすぐ、あづさに告白されたと中田くんから聞きます。

でも椿が好きだからあづさの気持ちには答えられなかった、と言ってくれました。

ホッとしたんですけどね

まぁでも、そんなうまいこといかないですよね。

あづさも引っ込みませんよ。常に男の子からモテてきた彼女のプライドとかもいろいろあったんだと思います。攻防戦が繰り広げられました。それから半年くらいその不安定な関係が続いたと思います。

クリスマスには中田くんは私に指輪をプレゼントしてくれました。そしてあづさにはネックレス。

あぁ、中田くんってひどい男ですね。青空がパーっと見えるような爽やかな笑顔の中田くんは歌を歌わせても福山雅治だし、顔もかっこよかった。でも私がいてもあづさを切ることができなかった。

「正直、すごく迷ってる」とクリスマス前後に言われました。

そりゃそうです。あづさは可愛いから。

結果的には彼はあづさとは完全に終わってくれました。「ちょっとあづさと付き合うのは違うなって思う。椿が一生懸命だったから」って私のところに戻ってくれて、そのあと私たちは2年くらい付き合いました。

「よかったよかった」というところで今日の話が終わるわけではないんです。

あづさとはそれからもずっと友達で今も交流があります。当時は裏切られたと思ってすごくショックだったけど、彼女とは中学のときに本当に仲良くなっていて、高校の友人より中学のグループで毎日学校帰りには集まっていたくらいとにかく仲が良かったんです。

いつもいつも笑っていた。本当に仲の良い友達だったんです。

だからそのあともずっと友達をしています。あのとき彼を取られていたらもう関係は無理だったのかもしれませんが、そうはならなかったし、それからも次々と他の男の子が彼女によってきていたので、この中田くんのことは見限ったんでしょうね。自分になびかなかった男なんていらなかったんでしょう。

そして中田くん告白事件をなんと昨年、あづさと話しました。あれから25年とかそのくらい経っているんですけど、あづさの家であづさの友達と3人でお酒飲みながら喋っていたときに昔の恋話に話が流れ、中田くんの話が出たんです。

そしたらあづさはこう言いました。

「あのときは中田くんから告白されて、なんか大変だったよ」

えっ、なんですと? すごく驚きました。

「違うやん。告白したのはあづさでしょ? あづさから告白したやん。私に『中田くんのこと好きになったから』って言ってきたのはあづさやん!」

と長い年月を経てすっかり都合良くなってしまったあづさの記憶を訂正しようと力を入れてそう言いました。

「えー、そうやったかなぁ? なんかネックレスとかくれて『好き』とか言われた気がする」

オーマイガー。

そこは確かに合ってそう・・・。ネックレスは覚えてるんだ。モテモテの記憶ばかりを彼女は残している。今だって彼女を大好きなご主人と幸せそうだもんなー。

きちんと説明して「あのとき中田くんは『あづさ』じゃなくて『私』を選んだんだ」とわざわざ強調しておきました。「椿、むかつく〜」」とか言われ「だって事実やん!」とかって盛り上がりました。

それから私はしばらくしてふと思ったんです。

え? どっちが真実?

もしかして都合良く記憶を入れ替えたのは私ってことはない?

いやいや、あの自転車を止めて彼女から言われたシーンは鮮明に記憶に残ってるよ。あの記憶は塗り替えたものではないはず。

そんなふうに頭をフルフルと振ってあづさの「間違った記憶」を消し去りました。

#エッセイ #記憶 #思い出 #高校時代 #告白 #裏切り

※ 名前は仮名です。

そういえばいま思い出しましたが、私が中田くんに告白したとき、中田くんは別の女の子と私のどっちを選ぶか迷っていたそうです。周りから「椿はお前のこと好きらしい」と聞いていて、私の気持ちを薄々知っていたので迷っていたと。それで先に告白してきたほうと付き合おうと思っていたと後から言われました。私が告白したあとにその子からも告白されたと聞きました。タッチの差だったんですね。


お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨