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お星さま

「ライトが消えてますよ」

コンビニでチョコレートを選んでいるときに、そんな女性の声が耳に飛び込んできた。

「あ、ありがとうございます」

店員らしき男性がそう答える声も聞こえた。

レジのほうを見ると、入り口に向かって歩いている男性店員の後ろ姿が見えた。入り口には小さなクリスマスツリーがある。ツリーにはライトのついたコードがくるくると巻かれているけど電気が消えている。

彼はしゃがんでコードがコンセントに差さっていることを確認した。どうやらちゃんと差さっていたようだ。後ろ姿の彼が少し首をかしげた。それからコードを抜き差ししてツリーのほうを向いた。彼の横顔が見えた。あかりはつかない。まじめな表情でツリーを見つめる彼。

立ち上がってツリーに近づき、巻かれているコードを引っ張ってみたり巻き直してみたりしている。また後ろ姿になったけど、さっき見た横顔を思い出しながら彼の背中を見つめる。首を右に左にと傾ける彼の後ろ姿からハテナマークがふわふわと浮かんでくるようでちょっとおかしくなった。

彼がツリーをあれこれといじっているうちに、ツリーの一番上に乗っていたお星さまがはずれて落ちた。

コロコロコロ。星型のそれは偶然にも、うまく立った状態でフロアーを転がりはじめる。私のほうに向かってコロコロと転がってくる様子を私はじっと見つめた。

お星さまは私の右足のつま先にぶつかってコロンと一回転して止まった。

お星さまを拾おうと私はかがみこんで手を伸ばす。

拾いあげて彼のほうを見たとき、彼がまっすぐにこっちを向いていたから彼の顔がはっきりと見えた。

「すみません」

そう言いながら私のほうに歩いてきた彼を見つめつづける。

この人、私、知ってる。

彼も私に近づきながら表情を変えはじめた。知らない人を見る目から、知り合いを見る目に変わっていく。頬が少し緩む。それから彼の口元がゆっくりと動いた。

「あそこの図書館の人ですよね?」

小さくうなずいた私に彼はふっと微笑んだ。

毎週火曜日に私が勤める図書館に来て本を借りていく人だ。

「ありがとうございます」

そう言って手を伸ばしながら彼は優しい笑顔を作った。その笑顔が思った以上に心に響いて一瞬、時が止まる。

そのとき彼の肩越しにツリーのライトが明るく点灯した。

私の頭のなかでクリスマスソングが流れる。

次の火曜日は24日。

なんだか胸がドキドキする。

これはきっと恋のはじまり。


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