目を瞑るたびに浮かぶあなたを消したくて、音を聞いた。
雨がベランダの柵をコツコツと打つ音が聞こえる。黒くて硬質な柵の上に水が落ちる。白い肌がぼんやりと映し出される。私の白い手が柵に触れている。その手の小指に重なる少し太い小指。あなたの大きくて骨張った手が指一本だけ重なるように並んでいる。
あなたの手の気配を消したくて、鼓動を聞いた。
体のなかに意識を向かわせ、心臓の音を聞く。呼吸が整う。トクトクと規則正しく打つ振動が胸をわずかに揺らす。揺れる胸にそっと唇が触れる。あまいあまいあなたの唇が見えた。あなたの唇を指でそっと撫でた。空を切って、触れたのはやわらかい肌。
あなたが消えない。
あなたが消えない。
ねぇ、そばにいてよ。会いたい。
シーツに顔をうずめ、息を止めた。肌に触れるシーツは冷たくて硬い。洗い立てのシーツが好きだと言ったあなたが浮かぶ。
あなたが消せない。
こんな恋、したくなかった。
お気持ち嬉しいです。ありがとうございます✨