見出し画像

南仏の風に吹かれて―西国分寺のフレンチ ボン・マリアージュ(東京すみっこランチ その9)


Ⅰ 西国分寺の南仏でランチを


 JR中央線の西国分寺駅から5分くらい歩くと、クリーム色の壁のお店にたどり着く。何度目かわからないぐらい、繰り返し来ているお店で、家族、知人、友人と、ご一緒した方もいろいろだ。こちらのよさは、フレンチといっても、気取っておらず、リーズナブルで敷居が低いところ。中に入ると、年配のマダムたちのグループがおしゃべりに花を咲かせている。

お店の外観

 席に着くと、お店の壁の色と同じクリーム色のテーブルクロスがかかっていて、短く切ったお花が飾られている。今日は、グリーンとピンクのカーネーションにリンドウ。ちょっとしたことだけれど、気持ちが華やぐ。 

 オードブル、メイン、デザート、コーヒーか紅茶がつく、ランチコース(2200円)を注文する。 
 オードブルは、夏野菜のニース風サラダにする。注文したと思ったら、すぐに運ばれて来た。中央の部分がくりぬかれたガラスの器に盛られていて、見ただけで外の蒸し暑さから一気に解放されるよう。メカジキのコンフィ、レタス、ミニトマト、キュウリ、パプリカ、ズッキーニ、ナス、クスクスと具材はいろいろ。ビネガー入りのドレッシングの酸味が食欲を刺激する。見た目に涼しく、食べて満足の一品。

夏野菜のニース風サラダ

 サラダの器が下げられ、温かい自家製パンがサーブされる。オリーブオイルが練り込んであって、ちょっと塩気もあり、なかなか珍しいお味だ。パンの表面には、ローズマリーがくっついている。今は、近くにデリもできて、このパンを買って帰ることもできる。デリのなかったその昔、家族がこのパンを気に入って、テイクアウトをお願いしたこともあったなあ。

オリーブオイルの入ったパン

 メインは鮮魚のポワレにする。この日は、ヒラメで、オリーブとトマトのソースがかかっている。アサリと野菜も添えてある。ヒラメの白に、付け合わせのニンジンのオレンジ、ブロッコリーやクレソンの緑、揚げたカボチャの黄と、色合いを楽しんでから、ヒラメにナイフを入れる。下からキャベツとカブが顔をのぞかせた。契約農家から届く有機野菜が売り物の、このレストランらしい演出だと思う。
 フォークでヒラメを口に運ぶと、柔らかく崩れていく。揚げたカボチャはほくほく、ナスは油と水気を噴出させ、キャベツはシャキシャキと歯ごたえよく。一皿で食材それぞれの食感を楽しむことができる。

ヒラメのポワレ

 デザートは、ほうじ茶のブラマンジェ、ブルーベリーのソルベ添え。ブルーベリーのソルベは、ブルーベリーの果実感がしっかり残っていて、甘すぎず、おいしかった。ほうじ茶のブラマンジェにかかっていたブルーベリーソースは、ちょっと甘すぎる感じ。ブラマンジェは、以前来たときもデザートに出たけれど、普通に牛乳味だった。ほうじ茶を使ったところが新機軸で、海外からのお客様にも喜ばれそうだと思った。といっても、場所が西国分寺なので、インバウンドのお客さんも来ることはないだろうけど。

ほうじ茶のブラマンジェ
ブルーベリーのソルベ添え

 飲み物は紅茶にする。ガラスの器にアールグレイが入って登場。いつもたいてい紅茶にするけれど、茶葉で入れてくれるので、おいしい。

アールグレイ

 テーブルでお会計だったけれど、料理人の方が料理のサーブや会計もやっていることにびっくりした。そういえば予約するときも、人手が足りなくて電話に出られないことがある、といわれたなあ。コロナの少し前には、若いフランス人女性がサービスをしていて、座席のウェルカムカードをフランス語で書いてくれていたのだが。アルバイトでお店に来ていて、日本には建築を学びに来たといっていた彼女。今ごろ、母国で活躍しているのだろうか。

Ⅱ 南仏の海と日差しと

 パンにもオリーブオイルが使われているこのお店は、フレンチといっても、南仏寄りだと思う。このお店で食事をすると、かつて、南仏で過ごした日々のことを思い出す。

 30年近く前の春、語学学校の研修旅行で2週間ほど、南仏のアンティーブという小さな町に滞在した。ピカソの美術館のある町で、春とは思えないぐらい強い日差しを受けて、青く透き通った海が輝いていた。ピカソ美術館では、ピカソが手がけた陶芸作品が印象的で、天才がのびのびと制作していたことがよくわかった。

アンティーブの海(トラベル.jpより)

 週末になると、一緒に語学研修に来ていた、少し年上のお姉さんたちと一緒に電車に乗って、ニース、カンヌ、モナコ、マントンなんかに出かけた。ニースのマティス美術館では、明るい日差しの下、マティスが子供のように生き生きとしながら、切り絵の制作に取り組んだことが感じられた。

マティス美術館(成功する留学ホームページより)

 映画が好きだったから、カンヌ国際映画祭の舞台となるカンヌの地には降り立っただけで嬉しかった。ジャン・コクトー美術館のあるマントンは、街並みがカラフルで、日差しの強さとマッチしていた。それほど観光地化されておらず、猫がのんびり昼寝していたりして、こんなところに住んでみたいなあ、と思ったっけ。
 モナコだけは、町自体が人工的で、お金がないと楽しめない、というところが好きになれなかった。 

マントンの街並み(trip.comより)

 2週間の研修を終えて帰るころ、コーディネーターのフランス人男性に「2週間前と比べて、日焼けしましたね。」といわれた。この南仏体験はかなりのインパクトで、次はアルルやセザンヌが生まれたエクス=アン=プロヴァンスなんかに行きたいなあ、なんて思っているのだが、いまだに果たせないでいる。 

 肝心のフランス語は、語学学校で2年も学んだのに、その後、やらなくなってだいぶ忘れてしまった。昨日、トリュフォーの『終電車』(1980)を観たら、聞き取れるところもあったから、またやろうかなあ、なんて思うのである。


 だんだんと話が脱線したにも関わらず、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 お店の名前は、「よい結婚」という意味です。大切な方との食事にお使いになってはいかがでしょうか。ランチメニューとお店のホームページは、以下の通りです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?