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【散文詩小説】時代遅れの寵児⑧決意

同じ船に乗る。
同じ方角に向いて、
同じ目的地を目指す。

それが出来なくなっら、
船を降りるしかない…。

5年間勤めた会社を辞めた。

先の事を決めるよりも、
先に辞めることを選んだ。

想像以上にあっさりとした
幕切だった。

そっと肩を叩く人。
激励する人。
涙ぐむ人。

それぞれいろんなパターンで
見送ってくれた。

でも、引き留める人は
いなかった。

「出世する迄顔出すな」

上司は決して尊敬できる人ではなかったが、最後にまともな言葉で送り出してくれた。

退職金は70万円。
あてにはしたなかったが、
軍資金としては心許ない。

それでも、ないよりマシだ。

とりあえず、
近所の電気屋に行き、
月賦でパソコンを買った。

当時はまだ
一人一台PCを支給する
時代ではなかったから、
キーボード入力から
覚えなくてはならなかった。

不慣れな手つきで、
履歴書を作る。

就職情報誌、業界誌の求人を
隈なく漁る。

合間を縫って、
失業保険の手続き。

内定か?失業手当か?
どちらを先に手に入れるか?

ゼロから始める再就職は
全くの未知数だったが、

不思議技なくらい、
不安はなかった。

自信があったわけではない。

それよりも、
ただ漠然と前に進むことを
楽しんでいた。

俺はひたすら前向きだった。

失敗することなど、
微塵んも想像していない。

それよりも、
自分を試す絶好の機会を
惜しみなく味わえる喜びを、
只々噛み締めていた。

(つづく)




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