見出し画像

第4話 般若の面

海斗と清乃は露店街を離れて、毎年一緒に食べている、
年越しそばの店に来ていた。

二人の住んでいる町は、由緒正しき神社が有名だった。
だからいつも一緒に行っていた。

人も溢れんばかりにいて、お祭りのような賑わいを見せていた。
地元のテレビ局も、その盛況ぶりを実況しながら、
神社に並ぶ人達を流しながら撮り、最後は目的の秘蔵品を映して
年の終わりを告げていた。

この神社の秘蔵品、『般若の面』を公開していた。
年の瀬にだけ、一般公開されていた般若の面だったが、
地元に住む二人には、特別何ら関心もないものであった。

その年越しそばの店の小さなテレビに映されていた画面が
突然地面に落ちて、人のざわめきが一気に大きくなった。

普段は聞かないテレビ関係者の声から真剣さが伝わって、
すぐにカメラで神社を映した。

賽銭箱の少し奥に、ガラスケースに入れられて展示されていた。
そのケースは壊され、『般若の面』が消えている映像だった。

人の多さと悲鳴にも似たざわつきで、何を言っているのか分からない
状況になっていた。

二人が先ほどいた場所で大騒ぎになっていて、二人ともそばを食べる手が
止まっていた。

清乃が不安そうな顔つきをしていたので、海斗は彼女に話しかけた。
「ここはもう遠いから大丈夫だよ」
彼女はテレビを見ながら頷いたが、テレビを見続けていた。

清乃は不思議そうな顔をして「何であんなもの盗んだのかな?」
地元ではあったが、二人とも『般若の面』の由来を知らずにいた。

自分の住む時の事を知らないのはよくある事だった。
でも、いざ、自分の町で問題が起これば話は別だ。

二人はそばをささっと食べ終わると、店を出て、『般若の面』の事を
調べてみようと話して、海斗の家は近くだったが、清乃が帰り道に、
もしもが起こらないように、清美の家に向かった。

「ただいま!」
「おかえり! 海斗君と一緒だから安心してたのよ」
ニュースを見たようで、清乃の母はほっとしていた。
「お父さんと会わなかった? 心配だから清乃たちを迎えに行ったのよ」
母親は携帯を取り、父親に電話して何やら話していたようだった。

海斗も清乃もすぐに帰るだろうと、浴衣には財布を入れる場所はあったが
携帯を入れる場所は無かった為、持っていっていなかった。

二人は清美の部屋に行くと、ノートPCをベッドに持って行って、
地元の般若の面の事を検索した。
見た目から二人は、何か怖い事しか思い浮かばなかったが、全く違う内容だった。

『般若の面』は智慧の粋を越え、真理を納めた意味を持っていた。
二人は何も怖いものではないと安心した。

安心すると笑いが出た。そして気づけば、二人は自然にくっついていた。

そして自然と今度はゆっくりと長い時間、KISSを交わした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?