大宮戦の備忘録-2周目-

前回対戦

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スタメン

ロングボールから殴りかかる大宮

 開始早々40秒で仲間のクロスからヨンジェのヘッドで惜しいシーンを作った岡山。柏、愛媛と内容の良くない連敗を喫してしまい、そこからの脱出に向けての意欲を早速見せる。

 立ち上がりの5分間は岡山、大宮ともに後方でのボール保持は控えめに、最終ラインから前線へのロングボールが主な前進手段。やり方は若干違いがある。岡山はヨンジェをサイド奥(大宮WBの背後スペース)に走らせるロングボール、大宮はシモビッチを競らせるロングボールからそのセカンドボールを回収した後WB(奥井・シノヅカ)またはシャドー(茨田・奥抜、主に奥抜)が仕掛けて前進を図る。

 立ち上がりのボール前進が上手く行ったのは大宮だった。岡山はロングボールのターゲットとなるシモビッチに対してCB(主にジョンウォン)とCH(喜山or関戸)の一枚がサンドして競り合う(→シモビッチに満足に飛ばせない狙い)形を取っていたのだが、セカンドボール隊との距離が良くなく、ゾーン2に落ちるセカンドボールをほとんど大宮に回収されていた。セカンドボール隊との適度な距離が徐々に掴めるようになってきた20分頃までは、全体が下がってしまって押し込まれる形が続いていた。組織として崩されていたというわけではないが、個々の質的優位で運ばれるシーン、シュートまで持って行かれるシーンは多く、一森の数々のビッグセーブが無かったら過去2戦の再現となってしまう可能性もあった。

 セカンドボールを回収した後の大宮は、小島や石川がオープンサイド(=競り合い・セカンドボール回収とは逆サイド)へ展開し、そこからのスピードアップでゾーン3まで侵入し、岡山のペナ内にボールを送り込んでいく。これはシンプルにWBに展開してのクロスが多かった。大宮にはシモビッチというJ2における反則行為が存在するので、シンプルな攻めでも十分脅威になる。9:30、12:13と奥井のクロスからシモビッチがマーカーを抑えてシュートまで持って行くシーンがあったがいずれも一森がセーブして岡山は難を逃れる。
 クロス以外の形では11:50、岡山の右SB(椋原)とCB(田中)とのチャンネル間で浮いた奥抜が小島からペナ角付近で縦パスを受け取ってターン⇒カットインでチェックを剥がしてシュートまで持って行ったシーンも見られた。多分大宮としてはクロスだけでなくこういうのを増やしたいのだろう。

中盤の組み合わせと仲間の前線起用の意図

 立ち上がりは523の第一ラインから強めにプレッシャーに来ていた大宮だったが、岡山がセカンドボールを回収できるようになってきた20分を過ぎたあたりから523(541)でブロックを作って中央を閉じる形にしていた。恐らくこちらが通常型。というわけで岡山は、田中とジョンウォンに一森を加えて後方でボール保持を行う時間が長くなる。あえて上田を右SH、関戸をCHとしている中盤4枚の組み合わせを見ると、列移動(=SHが一列下りる動きやCHのサリーの動き)やSH-CH間のポジションチェンジを行いながら大宮の第一ラインの背後で受ける形を増やしつつ、ミドルゾーンでボールを保持時間を長くしたい岡山。

 20:30付近には、岡山の狙いとするボール保持からゾーン3侵入に成功したシーンが見られた。①喜山のサリーの動きでCBからボールを引き取る⇒②久保田が一列下りて小島を引き付ける⇒③大宮第二ラインの背後で浮いた仲間がパスを受けて起点化、一度廣木に戻す⇒④中央レーンにフリーランした上田に展開、自ら運んでクロスという形で前進に成功した。

 岡山のこの試合の中盤の組み合わせの狙いは恐らく、普段左SHの仲間を一列上げることで、2トップの一角というよりは実質的なフリーマン(≒シャドー)として起用すること。ヨンジェが大宮の最終ラインと背後を取る駆け引きを行い、中盤の列移動やポジションチェンジで大宮の第二ラインの引き付け、その中間ポジションを仲間が取ることで、中央のより高いエリアで仲間をプレーさせたい狙いがあったのだろう。

 ただ、前半岡山のボール保持からのこれらの狙いが上手く行ったシーンは少なかった。しっかりとハーフスペース~中央スペースを閉じている大宮の523(541)ブロックに対して、CBが広がって横幅を取ってボールを動かしたり、バックパスを増やしたりすることで大宮の前線~中盤を引き付けてブロックを広げようとする意図があったのだろうが、中盤4枚がボールを受けに下がりすぎるシーンが多く、大宮のブロックを広げてからCHの脇スペースにボールを入れる形(=中央を使う形)を作ることができていなかった。その結果後方でボールは動くが、前進の手段としては結果的にヨンジェへのロングボールとなってしまうことが多かった。

 一方前半の大宮のボール保持について、立ち上がりは3バックでの保持(というよりも櫛引・河面からのロングボール)が多かったが、ゲームが落ち着いてから(=20分過ぎたあたりから)は石川を最終ラインに落としての415へシステムを可変してのビルドアップを増やしていた。どちらかといえばミシャ式と言ってもいい。立ち上がりに比べるとシャドーが高い位置で受ける回数は少なくなり、サイドから安全に運ぶシーンが多く見られた。

 徐々に両者のボール保持でのにらみ合い、我慢比べになりつつあった(というよりは中央に入れるリスクを考えた)前半はスコアレスで終了。

大前元紀が千両役者になれた理由

 後半の立ち上がり、一気にギアを上げてきたのは大宮。シモビッチへのロングボールからのペナ内スクランブルから奥抜、シモビッチと立て続けにシュートを放ったのが45:27。後半立ち上がりの大宮のボール保持は石川を一列落とした415。システム自体は前半と変わらないが、前半以上にWB(奥井・シノヅカ)を前半よりも高くポジショニングさせることで、岡山の非保持時の442ブロックを縦横に広げ、シャドー(奥抜・茨田)が岡山の第二・第三ライン間に再び入りやすくなった。またロングボールも、シモビッチへのダイレクトな形が減り、WBに展開する形が増えるようになった。

 また大宮は非保持時でも変化を付けてきた。例えば岡山のSHがサイドに一列下りる動きを見せたら大宮はWBを縦に上げてプレッシャーをかけるというように、岡山の中盤がボールを受けに行く時のプレッシャーを強め、早めに蹴らせるように追い込むことで岡山に後方でボール保持をさせない意図を見せる。岡山は大宮のWBが高いポジショニングを取った時の背後を狙うべく、ヨンジェや仲間がサイドに流れる動き⇒ロングボールを増やすのだが、セカンドボール隊が少なく、中央3枚を動かさない大宮の最終ラインに跳ね返されることが多かった。

 後方で時間を作ることができなくなり、単発のロングトランジションでしか攻め手がなくなってきた岡山。55:40にはヨンジェがロングトランジションから単独でシュートまで持って行くシーンがあったが、ボールを回収してもすぐに大宮ボールになる展開が増えると、徐々に我慢できなくなってきたのか、ネガトラでのファールが増えるようになる。

 そんな岡山のファールが仇となったのが64:55。久保田がシノヅカを倒して20m付近でのFKを与えてしまうと、茨田に代わって投入された大前が直接決めて大宮が先制。交代してからのファーストプレーが直接FKとか代打ホームランかよ。川藤幸三かよ。

 直接の原因となってしまった久保田のファールについて、シノヅカのドリブルの方向には岡山の選手(恐らく喜山だと思う)がいたので、無理に止めに行く必要のないシチュエーションだったのは確か。GKの一森に関しても、壁を信じて壁のない方を優先的に守っておけば良かったのかもしれないが所詮は結果論である。

勇気を持って前に運び・・・(by影山雅永)

 0-1となって66分に岡山は久保田→三村。ゴールを決められる前から準備していたのである程度予定通りの交代だったのだろう。仕掛ける選手を増やして盤面を変化させたい意図の見える交代。

 先制してからの大宮は全体のプレスラインを下げ、第二・三ライン間を閉じることを特に強調した非保持時の振る舞い。ボール保持でも中央にボールを通す形が減り、安全にサイドから運び、無理して縦にボールを入れなくなっていた。夏場ということもあって上下動を増やして終盤に体力切れになるよりも、ある程度このままゲームを終わらせたい意図が見える。撤退しても、大宮の最終ラインならばヨンジェや仲間に質的優位を与えることなく守り切れるという自信があってのことだろう。河本が負傷交代してもベンチに菊地がいるのは高木監督にとっては心強い。

 失点を喫してからも、なかなか岡山は後方から運んでいく形を作ることができず、大宮の準備が整っているゾーンにボールを入れるしかない状況が続いていたのだが、74:15にようやく一つボール前進の形ができる。右SB(椋原)を起点に、列を下りようとした上田を掴まえに行ったシノヅカの背後をヨンジェが取り、そこからクロスを入れる形。後半になってより迎撃志向の強くなった大宮のWB・第二ラインの背後をヨンジェと仲間で突いて行きたい岡山。

 80分に岡山は廣木→中野。仲間が左SHに下がり、三村が左SBになる。甲府に逆転勝ちして以来定着しつつある終盤の攻撃に偏った布陣。

 81:17には、左SBの三村が奥抜が寄せてきたところを1枚剥がすドリブルから奥井と石川の注意を引き付け、仲間がその背後を取ってターン~中央に入ってペナ内に侵入する形が生まれる。このプレーを契機に、岡山は大宮の第一ラインの脇(シモビッチ、83分にフアンマと交代)からボールを運ぶプレーが増えるようになる。終盤になって大宮がさらにプレスラインを下げたのもあって、中央にボールを入れてからクリーンにサイドのより高い位置に展開する形ができるようになると、右サイドの椋原から惜しいクロスが立て続けに2本。

 しかし最後までフィニッシュの部分で岡山にプレーをさせなかった大宮。田中のパワープレーも、ATの一森の攻撃参加もシュートにまで持って行くことができず、後半放ったシュートは55:40のヨンジェのシュート1本に終わった岡山であった。

雑感

・前後半ともに立ち上がりにラッシュを仕掛け、その後は慎重にゲームを運んでいこうとする大宮の周到ぶりが目立つ試合となった。特にネガトラの面で、岡山にトランジション攻撃をさせまいと徹底していたように思う。今の岡山で一番危険な攻撃はヨンジェと仲間によるオープン展開からのトランジション攻撃なので、そこを封じられてかつ先制を許してしまい、岡山にとってはとても厳しい展開でゲームを進めなければならなくなってしまった。

・高木監督は熊本、長崎時代からシティライトスタジアムの恐怖を監督会見で語っているので、ここまで慎重に戦ったのは個人的なトラウマ(?)があったのかもしれない。

・一方で岡山。80分以降を除いて、ボールを保持している時の中央スペースの使えなさぶりがそのまま大きな枷となってしまった。4222対523(541)なので、①横に広げつつCHの脇スペースを突いたり(そして迎撃に向かったCBの背後を取ったり)、②第一ラインの脇からボールを運び、第二ラインを引き付けた背後にパスを通したり、という形をどれだけ作れるかという試合で、結局そういったシーンができたのが数えるほど。

・せっかく相手にとって危険なスペースに上手くポジショニングできても、そこにボールを入れられなければそのスペースは消されてしまう。後方から運んで相手を引き付けられる確信、中央にパスを入れられる確信、寄せてきた相手をいなせる確信を持てるようになっていければ、今の有馬監督のチームはきっともっと強くなれる。そういう未来を見たいと思うのですがどうでしょうか・・・?

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