大谷津紗和

大谷津紗和

最近の記事

悲しみのあとに…

悲しみのあとに選ぶものが パイナップルの缶詰でも、いいんじゃない?

    • 赤い科学

      花が綺麗だと思うわたしが綺麗だと 思う正午 魔法瓶は魔法じゃなく 科学 知ったあの日から 私は真実を求めた けれど小さく あなたは小さく 小さくて 遠くへ 血に似た何かは仕方ないほど温まらない まま 厚い皮膚を残す 守っているのか 諦めたのか 彼方で知ろう 遠くへ 行きなさい 少し急いで遠くまで 行きなさいもっと 遠くへ

      • この星

        いつかこの星は滅びるから 僕たちはさっき消えた 街灯の光とおんなじ でも僕はその光を見た 見ていた 覚えている いまも覚えている 反転した明暗 残像を覚えている 覚えていると言い切れないことを 覚えている もちろんあなたのことも 忘れてしまったけど 覚えている 僕の言葉? 僕の怒り? 僕の網膜? 大丈夫 ここにいる 僕はこの星にいる 依るべない夢の上に

        • 攻撃と防御

          刃物を振るわれたら 必ず防御をしなきゃいけない というのは 一体どこの誰が決めたんだろう 武術であれば防御も礼儀だけど 僕たちは素人で プロレスをしている人はいない 対話をしているんだ 君が刃を振り上げたときに 僕は攻撃だと思わなかった それは言葉だった 君の言葉だった 君からすれば 僕が攻撃だったんだろう 僕じゃなくても 誰にでも 君の刃は 僕には 眩しい告白に思えた はじめて君が口を開い瞬間だ 誰かが守れと言う 生き物なら守り生き延びろと けれども僕は 人間だっ

          激しい運動会のあと 全てのセットが消え去って 演者の誰も居なくなった風の吹く午後 目を閉じるとなぜか 混沌と静寂が矛盾なく成り立つ景色があった 少ない言葉しか持たない私は それを表す術を知らない 調べても仕方ないことは分かっていたから じっとして旗が倒れるのを待った 記号が落ち着くのを待った そのうち夜は 生者たちと添い寝する支度をして 皺をつけたまま乾いたシャツにまごころを思い出す ある真実は自分だけのものだと言い切るために買った切花が 小さくなってゆく 全部に土を混ぜたよ

          わたしは赤い、あなたは青い

          わたしは赤い あなたは青い 愛というものが天国の代物だとすれば みんな落ちぶれた天使で わたしたちはただ家に帰りたい 愛を手に入れるための法則を 丁寧に読む 本物の天使がわらっている ような気がする わたしはただ 地図を読んでいるだけだ 晴れた日のあなたの額の 素知らぬ肌色 の上を踊る繊維 あなたは赤い わたしも赤い 太陽のおかげで赤い 何かのおかげで青くなることはない わたしがそのとき 青かったというだけ あなたも青い わたしも青い プラスチック製で

          わたしは赤い、あなたは青い

          ふやけた飛行機雲

          時間の経ってふやけた飛行機雲は 下手くそなパイロットのせいだと思っていた やれやれ 下手くそのくせに空なんか飛びやがって ため息が出る 校庭で 途方もなく感じられる時間を走った 男の子の大きい声 女の子の小さい声 生まれてはじめての恋心は 砂ぼこりに隠れて静か でもだいたいは あいつが持っていく いいけど これだけはあげない その他はあまり怒らないけど これだけは お前にあげない

          ふやけた飛行機雲

          いいよね

          遣る瀬無い日が、続きますね もうノートに書かなくても、忘れないことが、たくさん、それが、魔法じゃないといいよね、それが、本当だといいよね そんなに急いで、大人にならないでね 待ち合わせの時間に、遅れないでね 格好悪くても、いいよね 格好つけていたいひと、もういないから、いいよね 行き止まりがある方が安心できること、あなたは気がついた、それが、道の途中だったらいいよね、それが、悲しかっただけなら、いいよね パジャマで出掛けても、いいよね 少し遠くても、いいよね

          人間のための街

          人間の用意してきたところの中に、鯛が泳いでいる筈がない、僕は人間のことが嫌いではない、信頼をしていないのだ、都市には昼寝をする場所などなく、立ち上がって歩き回るか、じっと座っている他にない、人間のための街に、葉脈の輝きは要らない、あったとしたら、人は正確に狂えなくなってしまう、人間のための街に、やさしい光は要らない、目が覚めてしまう、人間のための街に、蒼い香りは要らない、死臭に気が付いてしまう、人間のための街に、帰りたい家は要らない、僕が、僕になってしまう、この街で、僕が僕で

          人間のための街

          愛撫

          愚かであることを誰かと確かめたい 哀れであることを貴方とはしゃぎたい 静かであることを教室でも感じたい 幸せであることを帰路で知りたい ひとりであることを黙ったまま寝たい 欲しいものを隠さずに伝えたい 恥ずかしいことを1人だけに教えたい 寒がりであることを気づかれたい 無知であることを見守られたい 好きであることを許して乱れたい 嫌いであることを許して騒ぎたい 落とし物と死後で待ち合わせたい

          素直

          わたし達が素直に欲しがるものを、いつか愛せたらいいのに、いつかわたし達が、それに愛されたらいいのに、みんな同じことを願い、床の上で踊り続けては朝がきていた、そういう朝を、何度も繰り返しているのに、わたし達は素直になれなかった、そして別れ、軽蔑し、すがりついた、影を手で掴もうとした、答えを知るのは怖いから、握った手をひろげられなかった、固まったままの手でも良ければ、あなたを撫でたい、無造作に動かした方が綺麗なように、素直じゃないことも一つの自然で、気づかずに立ち去ってしまうほど

          数えて

          今日も死体が数えられた 多くの人が数字になる 毎日数字になる 1の次は2で 2の次は3 1、2、3で飛ぶ 灰が舞う アスリートが高く飛ぶ 風船が浮く 視線が上を向く 空を見る 雲や星が 月が見える 見えていても 姿はない わたしたちは見たつもりになる わたしたちはただ呆然としていた ただ黙りこんでいた 視界に収まりきらない色を 捕まえたつもりで 数えた なにか他の数を 数えたのだ 生者の明日 1と2の間の摩擦 なにかを1と決めて 簡単な数式に当てはめる 簡単なのに難しい わか

          わたしたちは裸で産まれてきた、だからいつかの今際の時に、薄いコンタクトでさえ天国へ持っていけない、持っていけては、わたしたちはきっと、くだらないものを選んでしまう、数十年をかけてわたしたちは、たくさん着込んだ、たくさん忘れて、たくさん食べて、たくさんを吐いた、たくさん見捨てて、たくさん甘えた、大抵のことは、必然だった、大抵のことは、適当で、あなたと笑っていた、あなたが笑っていた、わたしの話で、あなたは笑っていた、粘膜の向こうで、あなたは、例えば人かもしれない、木かもしれない、

          太陽

          目が覚めたとき、あのとき、起きていれば夢を見なかった、人を殺すような、幸せな夢、家には、両親が、出かけたあとの名残り、ぬるい温度、冷えきった紅茶、誰も来ない家、誰も寄り付かない場所に、ある思い出、足跡はひとり分、カバンはない、草のにおい、西陽を待つ、毎日暗くなる、太陽の弱音

          あたまのなか

          彼のこぶしの中で、くしゃくしゃになった私の髪の毛、鶏肉を、パリパリに焼きたい、そんな日 (下味はていねいに) ひとり言を言ったら、ちゃんとひとり言だったのかを確認する、だれにも聞かれていないからこそ、ことばは不死なのです (死なれては困るのです) 忘れた人の顔色、いくつかの順番、焦げた匂い、あの陰影、役に立たない記憶を、不思議な時間に思い出して、それをどうしたい? (忘れられないなら、一緒に踊ろう) 一緒に、踊ろう

          あたまのなか

          さみしさの岸

          こちらとあちら、足元の水は、海の方へ、私の方へ、行ったり来たり、しゃがんで、手を伸ばし触れた、海水に濡れた赤い手が、すっと色を失くし、海が帰ると、また赤くなる、色を失ったこの手は、美しく、代えがたい、もう一度、もう一度、行ったり来たり、何かを、飲みこみ、元来た道へ、向き直る

          さみしさの岸