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トーキョー・スイートフォンデュ

「ファカセ!ファカセ!」
助手が大荷物を持って、研究室に飛び込んで来た。
「ファカセの、言ってた、ことが、フォントだったんですよ」
「志摩くん、落ち着きたまえ」
「見つかったんです、新島で」
助手は息を整えたあと、机の上に汚いカバンを置き、ファイルを取り出した。
「現在の掘削場の写真です」
そこには地面に掘られた広い穴と、むき出しの地層が映っていた。周りの作業員は腰に手を当て、それを見ている。
「え? この茶色いの?」
「はい!ジュラ紀の地層の中に、硬いチョコレートの層があったんです!」
写真では、五十センチほどの茶色い地層が、横に伸びていた。

私はすぐさま調布の飛行場から現地へ飛んだ。
確かに私は以前、妻と新島を旅行しているときに、甘い匂いを嗅いだことがある。それから旅行の話題になると、決まってその話をしてきた。助手にもおそらく喋ったことがある。「チョコの地層があるんだよ」と冗談交じりに。
それが、まさか……。

到着すると地層まで案内され、まずは肉眼で確認した。写真に映っていた部分は汚れが落とされていて、光沢があり美しい。それ以外の部分はくすんでいて、長年に渡り野ざらしにされていたのを物語っていた。
続いて嗅いでみると、ほんのりビターチョコの匂いがした。旅行のとき、風の中で感じたのもこの匂いだ。
どうやら本当のようだな……。
触ってみるとほかの部分より柔らかく、爪に茶色がめり込んだ。さらにライターで炙ってみると、茶色はとろけて、手に乗った。
そして、舐めてみる……。
完全にチョコレートだ!!
世紀の大発見ではないか!
なぜもっと早く調査しなかったか!
アメリカ人学者モースは車窓から貝殻を発見したあと、すぐに現地を調査し、大森貝塚を発見したではないか!
偉人を見習え、バカ!

私は再び大学に戻り、一週間かけて事実関係を整理したあと、記者会見を開いた。
「カカオの層は大昔、日本がまだ大陸とくっついていたころ、熱帯に属していたことを示しています」
私は人生で1番のフラッシュの嵐を浴びた。
「この層は地面に向かって斜めに伸びていて、続いていれば、東京本土の地下でも見つかるでしょう」
カカオ層の発見とそれに基づく私の見解は、従来の学説を覆すものとして世界に発表された。

私は有識者を招いて会議を開いた。
まずは本当にカカオ層が東京地下まで続いているか、調査をすることになった。
そこでチョロQほどの大きさの車の先に、ドリルを付け、新島のカカオ層に突っ込んだ。
すぐに丸く穴があき、車は斜め下に潜っていった。
ドリルは柔らかいカカオ層は砕けるが、硬い地層は砕けないので、カカオだけを掘りすすめる。
もちろんGPSを搭載し、現在地はわかるようにしてある。

観察すること二週間。
チョロQはどんどん東京に近づいてくる。
そして最終的に止まったのは、足立区の地下だった。
研究員たちは大いに湧いた。
地球最大の板チョコだ!

さらに有識者会議は、取り出す派と取り出さない派に分かれて議論を重ねた。ここには私たち地質学者のほか、考古学者、農林水産省の役人、ブルボン・森永・ゴディバなどの役員も名を連ねた。
扱っている課題と立てた仮説、一つ一つの設定に慎重になる。
最終的には、板チョコを取り出すことに決まった。
過去を知るための有力な手がかりになるかもしれないからだ。
もし恐竜がチョコを食べていたとなれば……。
そんなことを考えるとドキドキして夜も眠れない。

あとは取り出す方法を考えるだけだったが、まずはチョコレートを溶かさないといけない。
そこで政府の協力のもと、公共事業としてのボウリングが台東区・蔵前で行われた。
地理的にもカカオ層が潜っていそうで、都内一深い大江戸線が通っているからだ。
そして特殊な機械で下へ下へと掘りすすめること三日、搭載されたカメラがチョコレート層の表面にたどり着いた。
火炎放射器で炙ると確かにチョコは溶けたが、微々たるもの。化石を発見するほど大規模に取り出すのは、気の遠くなる作業だ。

「や、焼け石を放り込んだらどうですか?」
作業を見ていた助手が言った。こいつは、いざという時に頼りになる。
私たちはその意見を参考に、真空管を作ってチョコに刺し、上から焼け石を放り込んだ。すると数分後、液体になったチョコは体積を増し、真空管を吹き上がって来た。実験は成功だ。蔵前駅のホームの地下に作られた実験室は、チョコで溢れた。

そして今日、半年にわたったカカオ層との格闘も終焉を迎える。いやフィナーレと言った方が、お祭りのようでふさわしいかもしれない。

私たちは東京スカイツリーの協力のもと、そのど真ん中をくり抜いて真空管をぶっ刺したのだ。これでより高いところから、数百の焼け石を同時に落とせる。
いよいよカウントダウンが始まった。

5、4、3、2、1

「0」と同時に湯気を吐いた石が真空管を降る。チョコの形状が地下でどのようになっていたとしても、この高さから落とせば、芯までたどり着くだろう。

それから数十分後、地層の中で溶けたチョコは勢いよく真空管を駆け上がった。
昇り竜ならぬ、登りチョコ。
みるみるうちに頂点に達す。そしてスカイツリーの側面を勢いよく流れ落ちた。

私は向かいのビルの上、双眼鏡をのぞいて恐竜の化石が流れ落ちるのを待っている。

助手はスカイツリーの真横、近所の子供たちと一緒に、串に刺したイチゴをチョコに浸していた。

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