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さながら受験前夜

昨年末から眼病を患っており投薬治療を行なっているのだが、その薬には副作用が生じる。
具体的には、脂肪の沈着(脂肪の代謝障害が起こるため顔とお腹が特に太ってしまう)、免疫が下がり風邪を引きやすくなる、などなど。

たまに完治する未来が見えなくてやってられなくなり、昨夜は床に就いた瞬間「投薬始まってから太るし風邪引きやすくなるし最悪だよ、ずっと続けてても治る保障ないし」とぶちぶち愚痴をこぼしてしまった。

アー、言っちゃった!愚痴なんて言ってもひとつもいいことないのに!と思いつつも、彼は「それでも夜は症状が楽になってるんだから、少しずつでも回復しているんだよ。いっしょにゆっくり治していこう」と励ましてくれる。

単純な私は「それもそうだね〜」とケロリと元気になり、あっという間にぐうぐう眠りに就いた。つくづく、眠ればすべてを忘れる性分でよかった。


夢を見た。Cちゃんの夢だった。それで、過去のことをふっと思い出した。

私は中高一貫の私立女子校に通っていたのだが、その場所がひどく苦手だった。有名私立大学進学を目指す「特進クラス」なる学級に意気揚々と進級したものの、絵に描いたような「真面目」がはりついた空間はとても息苦しく、ビニール袋を頭からすっぽり被せられ、首元までぎゅっと締め付けられているような日々が続いた。

そんな日々において「予備校」は私の希望だった。受験対策のために通うと決めたそこは男女和気藹々として活気づいており、第2の高校、もとい、第1の青春の場だと感じた。

高校の授業が終わったらすぐ、狭苦しい駅の汚いトイレで膝下丈のスカート、きっちり校章が縫い付けられたカーディガン、靴下をばっと脱ぎ捨てる。

膝上まで切ったスカート、イーストボーイのカーディガンと靴下に履き替え予備校まで向かう私は、ジップロックでぎゅっと凝縮された「タカハシマリナ」ではなく、本来の「高橋まりな」でいられる気がした。心地よかった。

共犯者は、他クラスながら馬があって仲良くしていたCちゃんだ。いつも放課後に待ち合わせて、一緒に着替えるのがルーティンだった。

私とCちゃんは、休憩室で顔見知りになった浪人生と仲良くなった。現役生とは異なるフロアで、どこか陰鬱な空気とタバコのもわりとした煙が立ち込めるあの暗い空間が好きだった。

どこにも吐き出せない気持ちの吹き溜まりになったようなその場所でよく他愛もない話をした。皆、恋愛においても勉学においてもどちらかといえば希望的観測よりも絶望的観測を抱いており、なぜだかそれにほっとした。

よく、喋りすぎてチューターに注意を受けた。「わあ!」と叫んで笑いながらそれぞれのフロアに戻ってはまた性懲りも無く集合して、ひどく怒られたりもした。

時はあっという間に流れ、いつのまにか受験前夜になった。

前日はあまりどう過ごしたか覚えていないのだが、Cちゃんと勉強していたと思う。確か、朝6時にマクドナルドに集合した。浮浪者らしき人がもさもさとハンバーガーを頰張っていて、少し怯えた。朝マックのソーセージマフィンがじんわりとしょっぱかった。


「卒業しても定期的に会おうね」なんて話していたけれどそれから数回会ったっきりで、Cちゃんが今何をしているのかわからない。風の便りで、もう結婚して子どもがいるのだと聞いた。

幾度も会って「きっとこの関係性は永遠に続くのだろうな」と思っていても二度と会えなくなってしまう人はたくさんいる。
そう考えると、ずっと一緒にいられる契約が紙ペラ一枚で結ばれるのって奇跡的だな、などと思う。

わたしはこれから、どんな人生を過ごしていくのだろうか。
なぜだか今日は、受験前夜のあのときの匂いがする。

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