見出し画像

スポーツ界での「エビデンス」の存在:格闘技界の水抜きを事例に

最近、総合格闘技やプロボクシングの界隈で、計量時の体重超過関連のトラブルが多発している。
具体的なデータ(年間の発生回数や比率など)を見たわけではないので、確かなことは言えないが、そういったニュースを目にする機会が増えたように感じる。
例えば、国内で最も大きな総合格闘技団体のRIZINでは、今年開催された4大会のうち2大会で計量失敗が起きている。
また、それ以外の国内主要団体(DEEP、修斗、パンクラス)でも、今年に入ってから計量失敗が相次いで発生している。
今年に入って開催されたRIZIN、DEEP、修斗、パンクラス、プロボクシングの計量失敗を扱ったニュースを下記する(全てを掲載しているわけではない)。


こういった計量失敗が発生する要因として、水抜きが主流になってきたという主張もよく見聞きするようになった。
水抜きとは、体重の50%以上を占める体水分を試合直前に一時的に減らすことである。
その手段としては、半身浴、サウナ、暖房のきいた室内やサウナスーツを着用した状態での有酸素運動などが挙げられる。
こういった水抜きの方法論についてはここでは省略するとして、五輪競技以外の競技団体に所属する選手やその関係者の中には水抜きに関する知識を持っている人が少ないように見え、単に感覚で行っているように思えることもある。

また、こういった水抜きを含む過酷な減量に関して、スポーツ科学がどう関わっているのかと言うと、日本国内では、エビデンスがないことを前提として話が進められることが多い。
例えば、先日開催されたプロボクシングのJBC(日本ボクシングコミッション)とJPBA(日本プロボクシング協会)の合同主催の医事講習会でも次のようなことが語られている。

桑原氏は、水抜きのメカニズムと、その弊害、そして塩抜き、ウォーターローディングなどの具体的な減量方法を指南しながら、「水抜きは健康に悪い危険な行為。決して勧められないが、プロボクシングという規格外の世界で戦う人たちが減量する上では必要悪。何もエビデンスはないが、普段から節制して、まず体脂肪を落として、水抜きに頼るのではなくうまく活用すること」と訴えた。

RONSPO 「穴口選手の命を無駄にするな」事故検証委員会が報告した結論とは…再発防止の第一歩としてJBCとJPBAが合同で医事講習会を実施
https://www.ronspo.com/articles/2024/2024071003-2/


ここで、思うことがある。
本当に何もエビデンスはないのだろうか?
私は、ここ数年、スポーツ科学に関するエビデンス(論文)をもとにしたコラムを数多く執筆しており、その中には水抜きをテーマにしたものも複数ある。

読めばわかる通り、いずれのコラムもエビデンス(論文)をもとに書き記したものだ。
また、ここに記載したコラム以外の観点からも水抜きや急速減量を扱った論文は沢山存在し、その中には現場に示唆を与えるような研究も存在する。

もちろん、エビデンスにはレベルがあるし、エビデンスがあったところで、現場の試行錯誤は必要不可欠である。
その一方で、エビデンスはあるのに、それをひたすら無視し続け、失敗を繰り返すこの界隈にも、問題があると思う今日この頃である。

執筆家としての活動費に使わせていただきます。