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『異なるアプローチ、結局は同じ結末説』⑩筋トレの収縮時間(TUT)2秒vs6秒

筋トレの世界は、数多くのアプローチが存在しますが、最終的には同じような結果が得られる。
それが「異なるアプローチ、結局は同じ結末説」です。

このシリーズでは、最低限の科学性を保ちながら、時には若干飛躍的な主張も交えつつ、読者がトレーニングを続ける意欲を高めるためのエビデンスを提供します。
目指す世界観は水戸黄門のような安心感。
筋トレ愛好家や初心者の方々にとって、本シリーズが新たな視点を提供し、トレーニングをより楽しく効果的にする手助けとなれば幸いです。

過去のシリーズ


10回目となる今回読み解く論文はこちらです。
Lacerda, L. T., Marra-Lopes, R. O., Lanza, M. B., Diniz, R. C. R., Lima, F. V., Martins-Costa, H. C., Pedrosa, G. F., Gustavo Pereira Andrade, A., Kibele, A., & Chagas, M. H. (2021). Resistance training with different repetition duration to failure: effect on hypertrophy, strength and muscle activation. PeerJ, 9, e10909. (CC-BY 4.0)


今回は、収縮時間、Time Under Tension(TUT)の影響です。
TUTは、筋肉に負荷のかかっている時間を指します。
同じ強度(%1RM)でトレーニングを行った場合でも、TUTが違えば実施可能な反復回数は変わります。

この論文では、6カ月以上筋トレをしていない男性10名を対象として、Within-subject design(被験者内設計)という研究デザインを活用して、2つの群を設けた上で筋肥大と筋力向上に及ぼす影響を検証しています。
したがって、参加者たちは、片脚ずつ違うトレーニングを行っています。

実験の概要は次の通りです。
トレーニング期間の開始前に形態、筋横断面積、筋力テストの測定が行われました。
その後、対象者は、14週間の期間で合計35回のトレーニングセッションを行いました。
グループは次のとおりです。
・2-s RD群(各局面の収縮時間:1秒・1秒)
・6-s RD群(各局面の収縮時間:3秒、3秒)
※各局面はコンセントリック局面とエキセントリック局面で構成

TUT以外の変数は次のとおりです。
種目:片脚レッグエクステンション
頻度:2.5回/週(トレーニング頻度は週5回だが毎回片脚のみ実施)
セット数:3-4
強度:50-60%1RM
休息時間:3分
オールアウトの有無:有り(コンセントリック局面が出来なくなるまで)


早速結果をみていきましょう。
筋肥大の指標である筋横断面積(大腿直筋と外側広筋)は両群ともに増加していましたが、群×時間の交互作用はありませんでした。

トレーニングの前(Pre)・後(Post)の大腿直筋(上)、外側広筋(下)の筋横断面積
Lacerda, L. T., Marra-Lopes, R. O., Lanza, M. B., Diniz, R. C. R., Lima, F. V., Martins-Costa, H. C., Pedrosa, G. F., Gustavo Pereira Andrade, A., Kibele, A., & Chagas, M. H. (2021). Resistance training with different repetition duration to failure: effect on hypertrophy, strength and muscle activation. PeerJ, 9, e10909.のFigure 3


また、動的筋力の指標である1RMはベースライン(トレーニング実験開始前)の数値に群間差があったため、それを考慮した上でトレーニング後の数値をみたところ、群間差はありませんでした。

これらの結果は、『異なるアプローチ、結局は同じ結末説』を支持するものです。


トレーニング負荷に関する変数を見てみると、TUTは当然に6-s RD群の方が有意に長く、反復回数は2ーs RD群の方が有意に多くなっていました(2-s RD群:14回、6-s RD群:7回、全セットの中央値)。
また、トレーニング中に計測された筋電図(EMG)は2-s RD群の方がほとんどの関節角度でより大きい振幅を示しました。

これらの結果を踏まえ、筋肥大の効果が同等であった理由として、論文の著者らは、「短い反復時間を用いたプロトコルが、より多くのトレーニング量(反復回数)とより高いEMG振幅を持つ場合、長い反復時間を用いたプロトコルと同様に筋肥大に繋がる可能性がある」と考察しています。
要するに、それぞれの短所と長所が異なるものの、トータルで見ると、結果は同等になるという見方です。

さらに、この論文では、異なる関節角度(30度、90度、膝関節伸展位を0度とする)における最大随意等尺性筋力(MVIC)も測定しています。
その結果、大腿四頭筋がより短縮している30度のトレーニング効果は6-s RD群の方が優れていました。
また、EMGの振幅のデータを細かく見ると、最後の10度(40度-30度)の範囲において、6-s RD群が高いという結果も得られています。
したがって、長いTUTを用いたプロトコルは、大腿四頭筋が短縮した状態でのMVICの増加を最大化するために適切な可能性があります。

このように細かい点を追求すると、効果は異なりますが、そこまで細かい点を追求しなくても良い人も多いと思います。
下記の見解はシリーズ6回目に記したものですが、今回も同じことが言えると思います。

筋トレでは、1回の収縮時間を長くすると、総反復回数が減る傾向があります(1回の収縮ごとの刺激は高まりますが、全体的な刺激は低下します)。
逆に、1回の収縮時間を短くすると、総反復回数が増える傾向があります(1回の収縮ごとの刺激は低下しますが、全体的な刺激は増加します)。
そのため、収縮時間についてはあまり神経質にならず、安全な範囲内で個人の好みを優先して良いでしょう。



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