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『異なるアプローチ、結局は同じ結末説』⑧休息時間の長短

筋トレの世界は、数多くのアプローチが存在しますが、最終的には同じような結果が得られる。
それが「異なるアプローチ、結局は同じ結末説」です。

このシリーズでは、最低限の科学性を保ちながら、時には若干飛躍的な主張も交えつつ、読者がトレーニングを続ける意欲を高めるためのエビデンスを提供します。
目指す世界観は水戸黄門のような安心感。
筋トレ愛好家や初心者の方々にとって、本シリーズが新たな視点を提供し、トレーニングをより楽しく、効果的にする手助けとなれば幸いです。

過去のシリーズ


8回目となる今回読み解く論文はこちらです。
Hill-Haas, S., Bishop, D., Dawson, B., Goodman, C., & Edge, J. (2007). Effects of rest interval during high-repetition resistance training on strength, aerobic fitness, and repeated-sprint ability. Journal of sports sciences, 25(6), 619–628. https://doi.org/10.1080/02640410600874849


この研究では、18名のレクリエーショナルにアクティブなチームスポーツの実施者18名を対象として、筋力やRepeated-Sprint Ability(反復性スプリント能力)が均等になるように、ペアリングした上で次の2群に分けました。
・短時間休息群(20秒)
・長時間休息群(80秒)

トレーニングの内容は次のとおりです。
期間:5週間
頻度:3回/週
反復回数:15-20回
セット数:2-5
強度:50-70%1RM(後半セットになるにつれて強度減少)
種目:パラレルスクワット、ベンチステップwithダンベル、レッグプレス、ダンベルランジ、ニーエクステンション、レッグカール、ベンチプレス、シーテッドロー、ラットプルダウン、ダンベルショルダープレス、アブドミナルクランチ
休息時間(セット内、セット間):短時間休息群→20秒、長時間休息群→80秒
平均セッション時間:短時間休息群→24分、長時間休息群→46分

つまり、休息時間、セッション時間以外の変数は同じです。
通常、休息時間を長くとった場合には2セット以降でも高い強度を維持できます。
しかし、この研究では、短時間休息群の強度に合わせているため、長時間休息休息群では短時間休息群よりもキツさが軽いトレーニングになります。

結果をみていきましょう。
筋力の指標として測定された3RMのレッグプレスは、長時間休息群の方が著しく増加しました(短時間休息群:20%、長時間休息群:46%)。

一方、Repeated-Sprint Abilityの指標である5×6秒最大サイクルスプリントのトータルパワーは短時間休息群の方が著しく増加しました(短時間休息群:13%、長時間休息群:5%)。

この結果は『異なるアプローチ、結局は同じ結末説』を支持していません。


短時間休息群において、Repeated-Sprint Abilityが顕著に伸びたのはイメージしやすいと思いますが、なぜ筋力の向上が優れなかったのでしょうか?
あくまでも推察ですが、この論文の著者らは、

  • 短い休息時間による水素イオンの蓄積が、神経学的適応や筋肥大に関連するミオシン重鎖発現の調節を阻害する可能性

  • 短い休息時間によるトレーニングの継続が、神経系の疲労を引き起こし、筋肉の最適な活性化が妨げられた可能性

の2点を挙げています。

もしも球技スポーツを行っている人の場合、休息時間が短く代謝的負荷の高い筋トレにはメリットがあると思います。

一方で、筋力向上を目的としてトレーニングを行っている人の場合、あえてキツい思いまでして、代謝的負荷の高い筋トレを行う必要はないのかもしれません。

ちなみに、一般に代謝的負荷の高い筋トレは筋肥大の刺激になり得ると思われています。
しかし、この研究では両群ともに、体重、皮下脂肪厚に加え、大腿の周径囲にも有意な変化がありませんでした。
ただし、超音波、MRI、二重エネルギーX線吸収法など、筋肥大を測る指標として妥当性の高い測定はされていなかったため、この点については深く追求できません。


忘れてはいけない視点として、この研究の短時間休息群は、極めて時間効率の良いトレーニング方法であるということです(短時間休息群:24分/セッション、長時間休息群:46分/セッション)。
また、筋力の向上は確かに長時間休息群に比べると劣っていましたが、増加はしていました(群内のトレーニング前後の比較、P値=0.060、効果量=0.60)。

得られる効果(ポジティブ要素)と失う時間(ネガティブ要素)のトータルでみると、どっちもどっちと言えるのかも知れません。




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