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花粉と涙と光る森

花粉は暗い森から飛んできます。
その森には光が届きません。
鉛筆のように細くまっすぐな幹が寒々とつづく、人間の手でむやみに植えられ、そして忘れ去られた杉の森。
針にも似た葉を食う虫はなく、それを追う鳥とてこず、獣のけはいもまれな暗く静かな森なのです。

杉の木に罪はありません。
杉の木はかなしいのです。
真っ暗な静けさのなかに立ちつくし、ひたすらさびしいのです。
こもれびが自分を透かして下草を照らし、そこかしこで花が笑い、枝さきに小鳥が歌う。
そんな明るく豊かな自然の森で、循環する生命のひとかけらとして生きたかった。
そう嘆いているにちがいありません。
けれどその思いをどうやって伝えられますか。
せめて風にたのんで、花粉という命の微粒子を送りだすしかないのです。
どうすることもできなくて泣きたい杉の木の思い。
かわりにわたしたち人間の目から涙がこぼれます。
この涙は森が泣いているのです。
緑なす広葉樹の波間から、ところどころ針葉樹の嚴が突きだしているような、本来の植生の森にもどしてくれと。
自己の利益のために花粉症を恒久化したい連中や、山河は人間のものと疑わない連中には、こぼれる涙の意味がわかりません。

森に光あれ

森に光さすとき、病いは消えます。
森に光さすとき、命は輝き、あふれます。

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