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NEST LABの源流 ロボティクスラボはなぜ生まれたのか?

リバネスの藤田大悟です。『好きを究めて知を生み出す』をコンセプトに小中学生のための研究所『NEST LAB』を運営しています。設立10年を区切りに私たちの活動の思想について紹介しています。

まず1回目は、NEST LABの源流でもある小学生向け本格ロボット教室『ロボティクスラボ』をなぜ立ち上げたのか、「小学生でも好きを究められるようなサポートをすれば、ゼロからロボットを開発できるエンジニアを育てることができる」という仮説をたて、実際に行ってみてどうだったのかについて、お話しします。

高校で筋電義手の研究で世界大会で賞を取った大学生との出会い

  ロボティクスラボは2010年12月に設立しました。その時のリリースの文章はこちらです。

2020.12.1
リバネス ロボティクス研究所設立
~未来を創る工学の研究開発・教育プログラム開発・人材の育成を行い、世界へ発信~

 株式会社リバネス(本社:東京都新宿区)は、2010年12月1日より、「リバネスロボティクス研究所」を秋葉原に設立し、スタートしました。「ロボティクス研究所」は、ロボット工学や情報工学など、広く工学に関する研究開発・教育プログラム開発・人材育成をめざします。
 「ロボティクス研究所」では、「研究開発」、「教育プログラムの開発」、「人材育成」を3つの大きな柱として展開します。「研究開発」では企業などと連携しながら、若手人材を活用し、既存の工学分野にとどまらず、医療やエンターテイメントなど様々な分野と融合した技術の研究開発を行います。「教育プログラム開発」では学校現場や教育支援を行いたい企業と協力し、若手の人材がインターンシッププログラムの一環として、工学の魅力を次世代に魅力的に発信できるような本格的な教材や授業プログラムを開発します。「人材育成」では、工学離れが日本全体の問題となり、優秀な人材がアジア各国に移ってしまっている中、新しい技術を創造できる人材を育成するために、大学生・大学院生のインターンシッププログラムを実施し、社会に出て世界で活躍できる人材を育成します。
 研究所長には、筑波大学理工学群工学システム学類1年の西田惇氏が就任します。西田氏は2010年度高校生の世界の科学技術コンテストである「Intel International Science& Engineering Fair」にて工学: 材料工学・バイオエンジニアリング部門(ENGINEERING: Materials & Bioengineering)で世界3位を受賞だけでなく、他2つの賞のトリプル受賞を成し遂げました。西田氏はリバネスにインターンシップとして籍を置きつつ、様々な研究開発に挑戦していきます。リバネスでは彼のような若い人材を応援し、新しい技術を生み出して参ります。今後の発展に期待ください。  

 設立時のポイントは2つ。

 1つは場所が秋葉原であること。ロボットエンジニアを育てる理念を考えた時、とても大切になポイントとして「本物のが目の前にあること」。自分自身も小学校の時、電子工作の部品を購入しに親と秋葉原に行って感動した記憶もあり、作るならば多くのロボットエンジニアの聖地でもある世界の電脳街「アキバ」に拠点を作りたいと考えました。2020年夏に作るときめて、秋葉原の空き物件を探し続け、ようやく見つかったのが「東京都千代田区外神田5-6-15」の元文房具屋。アキバのメインストリートは治安的も子どもが通うのに抵抗あることもあり、そこを通らずに安全に通えて、かつ、5分も歩けば、ロボットに必要なものが全て手に入るリアルな場がある場所になりました。

 2つ目は初代所長が高校時代にIntel ISEFで賞を受賞した、エンジニアの西田惇さんであること。2010年夏にリバネスの代表の丸さんが講演で共に登壇して出会ったことをきっかけに、「彼のような人をどのように育てることができるのか」という問いを立て、西田さんが経験したことを追体験できるようなプログラムを作ることにしました。2010年から開校して1年間は彼にアドバイスをもらいながら、本物のロボットエンジニアを小学生から始められるステップを組み立てていったのです。なお、彼はその後着実に研究者のキャリアを進めており、2018年にはForbesJapan『世界を変える「30歳未満30人の日本人」』に選ばれ、現在はシカゴ大学の研究員として研究開発をしています。

ロボットエンジニアの方と話したブロックを使ったロボット教室の違和感

 西田さんとの出会いと同時に、ロボティクスラボを設立したきっかけがもう1つあります。それは、関西の工場ラインのロボット開発を手掛けられている会社の関連会社からの相談でした。彼らはホビー用ロボットの専門店を運営しており、塾のようなスクール事業を行いたいという依頼があったのです。ちょうどリバネスでも小学生のための塾の構想があったため、共にカリキュラム開発をすることになりました。開発にあたり、実際にロボット開発の方とロボットエンジニアに必要なステップについて議論しました。その時のキーワードは以下のようなものでした。

1. ロボットにプログラミングは必要だがそれが全てではない
2.材料や機構などの手触り感をもって実感、想像できないとつくれない
3.ロボットは必ず誰かの役に立つために作っている

 その頃、いくつか『ロボット教室』が日本で設立しはじめた時期なのですが、ほとんどがレゴ(R)ブロックをはじめ、ブロックで組み立て、パズルを組み立てるようなプログラミングをする教室でした。それに、僕らは大きな違和感があったのです。「ブロックはあくまで教材で、本物のロボット開発はその延長線上では作れない」ということでした。そこで、ロボットエンジニアに必要な要素を全て洗い出し、小学生であろうと、大学の機械工学科で学ぶような学びも遠慮なく導入しました。その結果、一通り自分でロボット開発ができるようになるためには月2回2時間ずつで、4年間必要なプログラムになりました。

ロボティクスラボ企画

どうしたらロボットを作れるエンジニアになれるのか?ーカリキュラムで意識した「手触り感」

 具体的なカリキュラム開発を作る際には先に紹介した西田さんや、ロボット開発のエンジニアの方にヒアリングをし、以下のようなことを意識して行いました。

①ものづくりは実際に経験が全てなので、何かを作る
②必ず工夫してオリジナルにしてもらうための材料を教室に準備
③つくった成果物より、つくるプロセスを重視する
④難しくても必要であれば遠慮せずに大学の内容も入れる
⑤カリキュラムなので、1年後により深い内容を行う
 (モータ→電磁石→モータ制御部品の電子工作→モータ制御プログラム)
⑥学校の学習指導要領と連携させる
⑦工夫した点を発表して、仲間の良いところを学ぶ
⑧学んだことがどう社会に生かされているかの例を紹介
⑨受講生には勉強とは絶対に言わない。遊びに来た結果学びを得て帰る
⑩工具やソフトウェアも難しかったり危険でも本物を使わせる

 毎回の教材準備など、色々課題はたくさんありましたが、試行錯誤しながら4年間のプログラムを作りました。その結果、ロボット開発に必要な「材料加工」「機構設計」「電子工作」「プログラミング制御」の知識だけでなく、「目的(課題)を明確にする」→「必要な要件(機能)を定義する」→「仕様を決める(設計)」→「つくってみる」→「検証して改良する」というプロセスを毎回のものづくりを通じて、小さく経験してもらう形になりました。

<4年間のカリキュラム(2016年度パンフレット抜粋)>

パンフレット

小学生でも4年間でロボット開発ができた!

 2011年にスタートしたロボティクスラボには色々な受講生がきてくれました。

「ものづくりが好きで親が手に負えなくて連れてきました」
「学校でロボット好きと話したら、引かれてしまい閉じこもりがち」
「ロボットに興味があるけど、同じ女子にそのような友達がいない」
「ガンタムのようなものを作りたいと言って聞かない」
「プロの研究者のかたに、小学生の時から本物を教えてもらいたい」

 結果的に、学校の公教育ではサポートしきれない、ひとクセある子が多く集まりました。当時はSTEM教育などが話題になる前ではありましたが、保護者の方も「予定調和の学びではなく、答えがない問いについて、何か熱中できるようなことをさせたい」という思いの方が多い印象ではありました。そのような期待を、ブログで紹介いただいた保護者の方もいて、応援してくださいました。

 10年間「子どもには研究開発はできない」「小学生に大学生レベルのことは無理」という大人の勝手な思い込みを排除し、毎回カリキュラムを改良し続けていきました。その成果は、毎年の卒業発表会の受講生たちの内容を見ていただければわかります。過去の一例を以下の動画とWebページでご覧ください。大人顔負けのロボット開発が小学生でもできることが証明されたのです。もちろん、荒削りで完璧なものができたわけはなく、開発途中で卒業を迎えた子がほとんどではありましたが、好きを究めて、遠慮なく彼らに開発の方法を伝えていったことで、大学レベルのことも感覚で理解してロボット開発ができるようになったのです。この結果はリバネスの教育プログラムを開発する上でも大きな自信に繋がりました。

ロボティクスラボは、2020年にNEST LABに統合するまでに73名の生徒が卒業しました。

卒業生のその後とロボティクスラボの発展

 最後に、卒業した子たちはその後を紹介します。何名かは、その後もリバネスの中高生の学会「サイエンスキャッスル」で発表したり、「サイエンスキャッスル研究費」に応募して採択され、次なる挑戦をし続けています。こちらは、別の記事で詳しく紹介します。また、昨年初期に卒業した受講生が大学入学の報告に来てくれました。彼は、立派に大学でロボット工学を学ぶようです。

 また、ロボティクスラボで作ったカリキュラムは、リバネスのエンジニアリング教育の基礎にもなっています。こちらは別の記事に書いているのでぜひご覧ください。

<英語版>

 NEST LABに繋がる源泉であるロボティクスラボでは、まさにロボットエンジニアを育てるカリキュラムを開発する「研究所」だったのです。10年間一緒に学び合うことのできた受講生の皆さん、応援してくださった保護者の皆さん、講師の皆さんに感謝です。

 次回は、ロボティクスラボから発展したNEST LABの名前の由来でもある「NEST教育」とはなにか、STEMやSTEAMと何が同じで何が違うのかをご紹介します。リバネスの根幹をなす教育事業の中心の思想となります。


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