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グローバルで通用する、というより、グローバルで魅了しよう。――書評『グローバル・モード』

知り合いに身長190センチの男性がいる。彼は初めて会う人に必ずと言っていいほど「スポートはやられていましたか?」と聞かれるという。文学少年だったご本人、「名刺に『バスケットボールもバレーボールもやってませんでした』と書こうかな」と笑っている。

かくいう僕もそう聞いた一人かもしれない。悪気はないのだが、これだけの身長だったらスポーツで活躍しただろうな、と勝手に想像してしまう。転じて、その想像の前提には「スポーツってやったほうがいい」という先入観があるのだが、スポーツが好きな人もそうじゃない人もいるという現実にバイアスをかけてしまう。

これは『グローバル・モード』という本を読んで真っ先に思い出しことだ。
副題「海外の相手を動かすビジネス・ミーティングの基本」が示す通り、本書は海外の人と仕事でコミュニケーションをとる際に必要なマインドを解説したものであり、実際に使える英語のフレーズも多く紹介されている。「英語の本」と括るなら他にも優れた本があるかもしれないが、そもそもの、僕らが常識として疑わない会話の前提を覆してくれる点を指摘してくれる本として、はっとさせられることばかりだ。

著者は「文化の違い」として一括りにするのではなく、一貫して僕らの無意識のバイアスという根深く厄介な問題を俎上に載せる。それは分かっているようで、実は無意識に出てしまう厄介さだ。
冒頭に挙げた背の高い人はスポーツをやっていたというのもバイアスである。本書では、インド人は数学が得意、ブラジル人はサッカーが好き、というステレオタイプなものの見方を否定し、夫婦茶碗を贈るのも「女性は男性より少食」という価値観の押し付けだと誤解されると解く。

日本人だから、アメリカ人だからという発想は文化の違いを前提にするといえば聞こえがいいが、それは目の前の人を国籍とそこから生まれるイメージでしか見ていない現れである。日本人でも生魚が嫌いな人がいるように、インド人にも数学が苦手な人もいればイギリス人でもフィッシュアンドチップスを食べない人もいる(僕はかつてこの失言をした)。

本書は、目の前の相手をしっかり見て、きちんと仕事相手と対峙することを主張しているのだ。それは相手が海外の人だから「あうん」の呼吸が通じないからとも読めるが、むしろ、この本で書かれていることは、日本人相手でも強力な武器になるのではないか。そう感じることの方がはるかに強い。

本書の主張を、勝手に解釈すると以下の6つになる。

・目の前の相手と一人の個人として対峙すること。
・自分の仕事でリーダーシップを発揮すること。
・相手を尊重してよく聞くと同時に、自分の意見をきちんと主張すること。
・事実と通説を分けて、論理的に話すこと。
・ビジネスの目的からブレないこと。
・人としての信頼関係を築こうとすること。

どうだろう。こんなビジネスパーソンを目指したいし、こんなビジネスパーソンと是非とも仕事をしたいと多くの人が思うのではないだろうか。コミュニケーション力、仕事の遂行力、そして人間関係構築力とも一流である。

言語や文化の違いは確かに大きいが、それらに仕事がうまく行かない要因を押し付けすぎてはいないだろうか。基本的にビジネスは人と人との間で作られる。一緒に働きたいと思う人の条件の多くは、文化が違えど共通点が多いはずだ。笑顔が素敵な人と一緒にいると楽しい。ダメな理由を語る人より、どうしたらうまくいけるかを前向きに語る人と一緒に仕事をした方がワクワクする。会社名や肩書きで見られるより、目の前の私という個人で見てもらえる方が嬉しい。

相手が海外の人かどうかは関係ない。強いていえば、阿吽の呼吸や社会の空気感を共有しない相手だからこそ、このようなその人本来の仕事の力、あるいは人としてのチャームが際立ってします。逆にいえば、本書で主張している(と僕が解釈した)点を身につけると、相手が日本人であろうと、仕事が抜群に進むであろうし、一緒に仕事をしたいという人が多く集まってくるのではないだろうか。


このような魅力にあふれた人、あるいは日本企業はきっと仕事を一緒にしたい相手を世界中から集める。日本人と仕事がしたい、日本企業と仕事がしたい。こういう人が世界で増えれば、それは日本という国がグローバルで存在感を増すことになる。グローバル対応という起用さを身につけるのではなく、本質的に世界が魅了する人材像になろう。本書はそう呼びかけているに違いない。



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プロデューサー/編集者。ダイヤモンド社にてビジネス書編集者、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長などを歴任し2017年に独立。2018年3月からハノイに3か月在住し、6月よりラオスのビエンチャンに3か月滞在。現在は東京。書籍『シン・ニホン』などをプロデュース。
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