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短編小説|せっかく帰ってきたのに

 せっかくあなたのもとへ帰ってきたのに、私は部屋に入れてもらえません。窓の前で声を上げたら、カーテンを閉められてしまいます。部屋から出てきたところに近付いたら、見向きもされません。あなたは、まるで人が変わったよう。

 年季の入った薄暗いアパートですが、ここで一緒に暮らした日々は明かりに満ちていました。眠るときも、私を置いて出かけるときも、あなたは明かりを消さずにいてくれます。それは暗くなると、寂しがり屋な私が声を上げるから。

 あの日も、病気で動けなくなった私をいつまでも抱きしめてくれました。次第に目が開かなくなると、目蓋の裏にはあなたの温もりが灯るので、安心して眠りにつきました。それからどれぐらい時間が経ったでしょう。目を覚ませば、私がいたのはどこか見知らぬ土地。

 きっと私がなかなか帰ってこなかったので怒っています。長かった道のりを、あなたに会いたい一心で歩き続けました。それなのに、優しかった眼差しが嘘のように無視をされ、私はどうしたらいいかわからなくなります。

 何日も経って、氷のように冷たい風が吹く夜。今日も無視される私は、部屋の前に小さく座っていました。こんな寒い日はあなたの膝で暖をとり、一緒にテレビを見たものです。扉の隙間から漏れた明かりが、彼方となった私たちの日々を淡く照らします。

 もう、私は見限られてしまったのでしょうか。厳しさを増す寒さに気力も体力も奪われ、そのまま眠ってしまいそうになると、急に扉が開きます。眩しさに目を細める私はそっと浮き上がり、明かりの中へと運ばれていきました。

  蒸したタオルで私の身体を拭くと、ご飯を用意してくれます。お腹が減っていた私は夢中で器に顔を埋めました。以前のように優しい表情を見せるあなたは、もう怒っていないようです。

「どうして俺の周りをうろちょろする。最期は辛いだけだから、もう二度と猫は飼わないって決めたのに」

 食べている私の背中を撫でながら、何やら不思議なことを言います。お腹が膨れて満足していると、あなたは布団に入ろうと明かりを消すので声を上げました。

「わかったから鳴くなって。お前、あいつに似てるな」

 そう言っていつものように、小さく明かりを灯してくれます。やっぱりあなたは少し変です。あいつだなんて、いったい誰のことでしょう。これまでも、これからも、私はあなたとずっと一緒なのに。

(979文字)

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