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短編小説|空飛ぶストレート

 男は今宵も闇カジノでポーカーをしています。手札の示す役はストレート。とりわけ強い役ではありませんが、膨らんだ借金に焦り、ここで大きく勝負に出ることにしました。

 ところがその時、手札が宙に浮いて外へ飛んでいってしまいます。男も外に出て必死に追い掛けますが、手札はどこかへ向かって頭上を滑らかに進んでいきます。繁華街を抜けてしばらくすると、やがてぱたぱたと地面に落ちました。男は息を切らしながら拾い、顔を上げます。

 そこは男が住む家の前でした。窓から明かりが漏れています。男は今日、泣いてすがる妻を振りほどいて家を出ました。それでも彼女は男を待っているのです。きっと二人分の夕食を作っています。ふいに窓の明かりが愛おしく思え、そのまぶしさに目をつむります。

 目を開けると、男はいつものカジノにいました。手札の役はストレート。

 男は勝負を降りてカジノを後にします。まっすぐに、まるで空を駆けるように家へと帰って行きました。



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