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【マネジメント連載企画vol.8】マネジメントできないマネージャーたち~介護経営の陥穽(おとしあな)~」

第2章 陥穽(おとしあな)に落ちないために➃ 


多分業化~介護助手を活用する➀


介護助手はひとつの業務改善手法

社外の介護助手導入プロジェクトに関わるようになって3年目になる。大阪市が手掛ける「介護の職場担い手創出事業」というモデル事業のアドバイザー、というのが筆者の役どころだ。毎年、3つの介護老人福祉施設や介護老人保健施設に対して、1年間かけて介護助手導入を支援している。※このプロジェクトでは、介護助手のことはアシスタントワーカーと呼称している。

介護助手という発想は、病院で看護師をサポートする看護助手からきていると思われるが、福祉業界でいうところの身体介護も行う看護助手とちがって、ケア周辺業務のみ限定的に行うのが介護助手の特徴だ。その主な業務は、入浴介助の準備、食事介助時の配膳・下膳、清掃・消毒、シーツ交換などである。筆者が実際に経験してきた内容も、大半はこれに類するものだった。

介護助手は、近年ようやく一職種として認知され始めたものの、未導入の施設もまだまだ多い。そういう施設が、初めて介護助手という職種を設け、自分たちで切り分ける業務を定め、実際に雇用するまで伴走するのがアドバイザーの仕事だ。この2年間の実績としては、6施設中5施設で導入に成功しており、導入できなかった施設でも、導入準備のプロセスを通じて、それまで手がつけられていなかった業務マニュアルの作成や、プロジェクトメンバーの人材育成などの成果があがっている。居住系サービスの業務改善で、いま最も現実的な手法、といっても差し支えないだろう。 


介護助手を雇用することで、介護現場の分業化をはかる

介護助手は裏のマンションに住んでいる

「切り分ける業務は現場に埋まっている、それを担う人材は裏のマンションに住んでいる」が、このプロジェクトを進めるにあたって筆者が掲げているビジョンである。
新しい取り組みには誰でも懐疑的なものだ。「いま行っている業務を分類して新しい分担を生み出し、それを担う人材を新たに雇用できますよ」といきなりいわれても、介護現場の職員の大半は信じない。プロジェクトを推進する各施設のリーダーたちでさえ、当初は半信半疑だ。だからこそ、実際に導入を経験した者が、プロジェクトの初日にこのようなビジョンを示すことが重要になる。

ビジョンとは、強い実現の意志を込めた未来の姿なのだから、具体的な絵が浮かんだ方がいい。このプロジェクトでは、①介護助手の仕事の切り分けと、➁その仕事を担う介護助手の雇用がカギになるため、①も➁も実は近くに在ることを示す意図で、毎年このビジョンを掲げている。現場に埋まっているのだからあとは掘り起こすだけ、近所に住んでいるのだからあとは声をかけるだけ、ということである。手が届くビジョンであることを、できるだけわかりやすく言語化するのだ。

実際に、介護助手の仕事は現場から見つかり、その担い手は近所の方が圧倒的に多い。このビジョンは、その事実をシンプルに文字に起こしているに過ぎないのだが、スタート段階で完成形をイメージできた事柄は、間違いなく実現性が高くなる。「絵」の力は侮れない。
 

まずアレルギー反応の「壁」を越える

絵が浮かぶビジョンは、プロジェクトを推進する各施設のメンバーに明確な方向性を指し示し、勇気づける。だが、彼ら彼女らはすぐに最初の壁にぶつかる。新しい取り組みに対して、大半の職員がアレルギー反応を示すことに変わりはないからである。まず、この壁を越えなければならない。

介護業界に限らず、あらゆる現場は保守的なものだ。なぜなら、自分たちの慣れたやり方を変えられたくないからである。それはなるほど一理ある。慣れたやり方の多くはある程度効率的で、何よりもいま現場をまわしている実績がある。この事実は軽視できない。

ただ、慣れたやり方というものは、状況変化への対応力が弱い。たとえば、かつて専門職の世界では、「背中を見て学べ」が人材育成の〝慣れたやり方〟だった。この教えは、仕事の習得における自主性の大切さを説くという意味では、教育の本質を突いていて決して間違いではない。だが、もはやこれだけで現代の新人を育てることができなくなったのは、ご存知の通りだ。

私たちを取り巻く状況も大きく変わりつつある。既に人口減社会になっているこの国で、介護業界の人材不足は悪化の一途を辿っている。処遇改善に加えて、現場でも何らかの形で慣れたやり方を変えていかなければならない。

介護助手はそのひとつの方法なのだ。そう説明することから始めて、プロジェクトのメンバーたちは最初の壁を越えていく。その姿は、真摯で逞しく、心強い。
 
次回も引き続き「介護助手」の活用方法について解説します

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