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「人生を左右する事」は見つけようして出会うものじゃない

と仰ったのは立石剛大(たていしごうた)くん、弱冠20歳。達観している…。
すらりとした長身で、作業着姿での初対面の感想「モデルみたい」。
物静かな印象とは裏腹に、熱いパッションを秘めている。彼くらい将来を考えている20歳ってどれくらいいるんだろう?って思う。
でもふとした時に見せる笑顔はあどけなさが残り、かわいい。

馬用の鞭で遊ぶ

ひつじとの出会いは乳牛の農場

大学では牛について学び、
バイトは牛の搾乳、the畜大生

立石くんは、埼玉県出身でひつじは身近な存在ではなかったそう。なぜ羊飼いを目指すまでになったのか聞いてみた。

高校で農場実習に行ったとき牛舎の横にひつじが1頭だけいたんです。実習中に世話をしたとかじゃないけど、なんだかすごく気になる存在で…。レポート課題が出されて、ひつじについて書こうと色々調べているうちにめっちゃ面白い!って。
ひつじ好きって、じわじわ好きになるっていうより、一気に振り切れますよね?羊飼いを志したのはその時です。沼にダイブしました。

運命的な出会い…牛の実習だったのにたまたまひつじがいるなんて。レポートのテーマがいくら自由とはいえ、世話を全くしなかったひつじを選ぶあたり、がっちりハート掴まれている感ある。

「何かが生まれそうな力」を感じる、葛尾村でのこれから

彼はこの春、帯広畜産大学を卒業し、4月から福島県葛尾村で就農する。
地域おこし協力隊として経験を積んだのち、自分の牧場を始める予定。この地を選んだのは理由がある。

立石牧場(仮)の羊舎予定地
牛舎を改築するところから始まる

親戚が肉牛を飼っていて、小さいときから遊びに行くのが大好きだった。葛尾は、自分のイメージする「田舎」そのもの。時間の流れがゆったりしてて、堆肥の匂いがして。自然がいっぱいで、夏はセミとかカエルの声がうるさいくらい…。笑
気づいたらここに住みたいって思うようになっていて、震災後その気持ちが強くなったんです。大好きな場所だから、原発事故で立ち入り制限区域になった後に、村を出ていく人が多いのが残念で。自分が羊飼いになって情報発信していく事で活気を取り戻せたらいいなって思っています。

親戚の牧場跡地

私の地元の宮古市田老地区も都市部に移る人は多く、震災をきっかけとした人口流出が起こるのはしょうがない事なのかもしれない。
葛尾村では今もなお放射線量が測定され、規制によりひつじを放牧に出すことはできない。
それでも立石くんは前向きだ。

乾草(牧草)は全部買わないといけないので金銭面の負担は大きい。でも、畜舎を自分で建てるのが楽しみです。理想通りにレイアウトできるし、建築には昔から興味があったのでワクワクしてます。
自分がひつじにできる事はいいエサと環境づくりだけって思っていて、だからこそ、こだわりぬいて作りたい。彼らの最高のパフォーマンスを発揮してもらうために、自分も最善を尽くします。


生涯「いい羊飼い」を目指し続けたい


いい羊飼いになるための、自分の中での大きな柱は2つ。
これから人生を共に歩むひつじと、自分を成長させてくれた羊業界。

子ひつじと。

羊肉のおいしさをもっともっと知ってほしいし、苦手な人に好きになってもらえるものを届けたい。でも、羊肉好きな人に満足してもらえる風味の強い肉も生産したいな。自分のこれだ!と思える肉生産のために色々なところの肉を食べて研究しようと思います。
羊毛は最近まであまり興味がなかったけど、自分の牧場の羊毛でジャケットを作った方がいて、衝撃を受けました。それがきっかけで、毛も活用できるような管理をしよう!って思いました。皮や血も、ムートンや研究用の培地として利用できる…ひつじって捨てるところがない、すごい動物ですよ。
僕にとってひつじは家畜でもあるけど、一緒に仕事するパートナーでもある。命を頂くからには肉も毛も皮も、全部活用したい。

土日や長期休みには道内各地の牧場で研修

業界へは、羊飼いを目指す人が研修できる場所になることで恩返しがしたい。これまでたくさんの先輩羊飼いにお世話になったので、自分もそんな風に次の世代を助ける存在になりたい。
日本はひつじが少ないので、近親交配になりやすいことが心配の種です。今は羊飼い同士で協力し、オスの入れ替えを行ったりして工夫しているけど限界がある。
海外から生きた羊を輸入する方法もあるけれど、コストや労力を考えるとそう頻繁には出来ないので…すぐに自分にできることをしたいと人工授精師の資格を取りました。新しい血統だとか、日本にいない品種を導入できたらいいなと思っています。

人工授精師講習会での一コマ
妊娠しているかエコーで確認している

羊飼いとして歩み始める立石くんにこれからの展望を聞いてみた。

今年の秋に、お世話になった牧場から少しずつ譲っていただき葛尾に連れていきます。大体10頭くらいかな。自分のひつじを飼えるって思うと楽しみな反面、緊張します。
将来的には、繁殖の母羊を100頭くらいまで増やしたい。でも、あくまで目安だと思っています。自分の生活が安定するのであれば70頭~80頭くらいを丁寧に飼いたい。成長が早くて肉づきもよいポールドーセットをメインに飼う予定です。

ジャコブ。2~6本ツノが生えている
士別市「世界のめん羊館」にて

でも、変わった種類も見ていて楽しいから…ジャコブ(ジェイコブ)も憧れ。ツノが何本も生えているところとか、羊毛がまだらで面白い。
羊毛に興味が出てからはハードウィックも気になっています。ぬいぐるみみたいな顔がかわいいし、顔が白いのに体がグレーなのも珍しくて。輸入が難しそうなのがネックですけど、いつか生で見てみたいな。

職業としての羊飼いって経営とか生活スタイルに、自分のひつじに対する姿勢がすべて反映されるような気がしています。人間的にも「いい羊飼い」でいられるようずっと成長し続けたい。

毛刈りをしているところ
自分の成長を実感できる時間なのだそう

羊飼いは群れないってよく言うけど

今、同世代で羊飼いを目指す人が多くて驚いていますし、運命的なものを感じます。何か一緒に取り組んだら面白いんじゃないかって思う。
僕はヒップホップ好きなんですけど、普段は個人で活動してる人たちがチームを組んで曲を出したりするんです。
羊飼い同士でも各々の羊毛をブレンドして製品を作ったり、共同でひつじの魅力をアピールするイベントしたり出来たらすごく面白いものになるんじゃないかなと思う。
「ひつじは群れるけど羊飼いは群れない」ってよく言うけど、たまにはいいんじゃないかな。お世話になった皆さんとずっと繋がっていきたいなって考えてます。

とある牧場にて。すごくいい写真

確かに、同年代の羊飼い見習いさんたちは個性豊かな人たちばかり。
ぜひ、イベントだとか製品づくりを実現してほしい!!


彼のとても印象に残っている言葉がある。
「もし、羊飼いを諦めたとしても、絶対に後悔しない。今までの出会いや牧場で過ごした時間は僕にとって宝物です。」

ずっと応援しています、いつか葛尾に遊びに行くね。

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