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アメリカンドリーム的なものに中指を突き立てる/『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』レビュー

スポーツものの感動秘話なんかじゃない。
近い印象としては、多くの人が挙げている『ペイン&ゲイン』で間違いないでしょう。
実話をベースにしながらブラックな笑いに昇華しつつ、それでいて主人公=トーニャ・ハーディングへの優しさも滲ませ、そして映画自体がトーニャそのものに近いマインドを持った出来上がりになっているという面白い映画です。

※いつも通りネタバれありです。

■『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』--------------
あらすじ:
アメリカで史上初めてトリプルアクセルを成功させながら、「ナンシー・ケリガン襲撃事件」に関わったとしてフィギュア界を追放されてしまうトーニャ・ハーディングの、その事件に至るまでを子供時代から描く。


冒頭、“キャストを本人と見立ててのインタビュー映像”から始まる。
これ、私が結構苦手な手法。
だって、キャスト=本人ではない、って分かりきってる中で、インタビュー式っていうリアリティを狙う撮影方法との矛盾が気になってしまうから。

だけどこれがだんだんと聞いてくる。
ああ、これはそこも含めて狙ってやってるのねと。

とにかくトーニャ本人含め、その周りには(言葉は悪いですが)バカとアホとクズしかいない。
潔いまでのホワイトトラッシュ大集合。
実話ベースで本人が存命の中で、この描き方はなかなか凄い。
愚かさを重ねに重ねた犯行の顛末をブラックコメディに仕立ててるんだもの。

DV夫のジェフ。実質首謀者のショーン(一番やばい)。
ジェフが考案し、ショーンが勝手に膨らませた襲撃事件の真相は、あんまりにもお粗末すぎて、笑うしかない。
そしてそれを知らなかったという無知が招いたトーニャの悲劇。

この作品が上手いなーと思うのは、トーニャの無知もまた罪であるという部分でブラックコメディにしつつも、彼女を愛すべき人物としても描いているバランス感。
毒親ラヴォナによる幼少期からのスパルタ教育、そして暴力。
このラヴォナを演じるアリソン・ジャネイがまためちゃくちゃうまい。
毒親なんだけど、首の皮一枚で嫌悪感まではいかない位置にいる。

そしてその経験で、自らを「殴られてもしょうがない人物」と考えるようになってしまった事によるDV夫との恋愛・結婚。
そしてある意味それが招いた事件。

だけど彼女は、とにかく「スケート」という才能にだけしがみついてそんな出自や環境から脱出しようとする。
いくら審査員に「品がない」と言われようと、ひたすらにしがみつく。
だけど、都合が悪ければ「私のせいじゃない」と迷いなく言い逃れる。
なんなら、画面の外の私たちに向かって言い訳さえする。
その絶妙に愛しすぎない距離感が、とても良い。

冒頭から、随時挟まれるインタビュー映像が、ラストで“本当だった”事が分かった時の衝撃が凄まじい。
ショーンさん、まじで諜報員なの?(笑)
この趣旨での本人映像の使い方なら大歓迎。
そのブラックコメディっぷりが、しっかり根を下ろす感じ。

映像として特筆すべきはやっぱりスケート場面の撮影。
あれ、どうやってるんだろう。。。

本人の動きにハンディカムで迫るようなカメラワークはさすがの臨場感。
そして、本人の表情にカメラのフォーカスを合わせてジャンプ前などの表情を見せる演出がまた、静と動のふり幅があってよい。

マーゴット・ロビーはスケート場面以外でも、本当に見ごたえのある演技で主演女優賞ノミネートも納得なんだけど、このスケート場面でも(撮影アングルなどの効果もあって)トーニャの心情をぐいぐい伝えてくる熱演。
3か月特訓したらしく、(当然回転とかはボディ・ダブルでしょうけど)ある程度のスケートシーンは本人なのかな。
エンディングでも一部流れるけど、当日の映像との比較が面白くって。
体形(特に太ももの筋肉の感じ)なんかまで、本人そっくり!

マーゴットはこの企画をアートハウスものとして実現させたくて、自身で製作会社を作ってプロデュースにも関わっているとの事。
ブラピのプランBをはじめ、ハリウッドスターはこういった形でのクリエイティブへの参画に凄く積極的なのが素敵です。

そんなマーゴットの意欲、そして作品自体の持つ迷いのなさがトーニャ本人ともうまくリンクした面白い映画でした。

全国公開中!!

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