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30日間の革命 #毎日小説48日目

 橋田は手崎とは違うクラスだったため、放課後に接触することにした。そして、授業が終わると図書室へ向かった。

 図書室に訪れると、そこには数人の生徒しかいなかった。そして、その中に手崎の姿を見つけることができた。噂通り、図書室の隅で一人将棋を指していた。

 (ほんとに一人で将棋やってんじゃん。家に帰ってからやれば、誰かに変な噂言われなくても済むのに、頭悪いのかな)

 橋田は心の中でそう思った。そして、さっそく話しかけることにした。

 「手崎さんだよね?」

 橋田の呼びかけに、手崎は反応を示さず、そのまま将棋を指していた。

 (……え? 無視された?)

 橋田は戸惑った。そして、もう一度話しかけてみた。

 「ごめん、聞こえてるかな? 手崎さんだよね?」

 相変わらず、手崎は将棋を指す手を止めない。

 (あれ、この子手崎さんじゃないのかな? いやそれにしても、こんな間近で話しかけてるんだから、例え違っても反応くらいしてくれてもいいんじゃないかな)

 橋田はだんだんとイライラしてきた。そして、机に手を叩き、

 「ねえ、ちょっと聞いてる? 私話しかけてるんだけど!」

と、少し声を荒げた。

 すると、手崎はビクッと体を震わせ、驚いた表情で橋田を見た。

 「す、すいません。今大事な場面だったので、あ、後で返事をしようと思っていました」

 焦っているような表情で答える手崎に、橋田は強めな口調でこう答えた。

 「あのね、聞こえてるんならまず返事くらいしようよ。こっちは無視されたんじゃないかって思うよ」

 手崎は少しうつむいて、

 「す、すいません。そうですよね。私昔からそういう癖があって、熱中すると周りが見えなくなるっていうか、そ、その決して無視をしている訳ではないのですが……」

 と、どもりながら答えた。

 (なるほど。普段からこれじゃ、そりゃ周りから敬遠されるのもしょうがないね)

 橋田は少しため息をついて、心の中でそう思った。その様子を見た手崎はさらにこう続けた。

 「ご、ごめんなさい。本当に私ダメですよね。あ、謝ります。本当にすいません。許してください……」

 手崎はかなり焦っているようだった。今までなら、ちょっと強く言われただけでここまで焦ることはなかったが、「視線」のせいで手崎の心が不安定になっていた。

 今にも泣きだしそうな表情を見せる手崎を見て、橋田は

 (ちょっと、これじゃ私がこの子をいじめているみたいじゃない。こんな状況で江藤さんのこと話したら、本当に泣いちゃいそうだよ)

 と思い、とりあえず今日は江藤のことは話さないことにした。

 「……はぁ、もういいよ。だからそんな泣きそうな顔しないでよ。まるで私が悪いことしているみたいじゃない」

 「……す、すいません。私が悪いんです。……本当にすいません」

 手崎は既に少し泣き出していた。

 「ちょっと! 本当に泣かないでよ! もう何なのよこの子は……。ほら、誤解されちゃうから、こっちにおいで」

 橋田は、周囲に気づかれないように、手崎を図書室から連れ出した。

 (今、手崎を泣かせたところを誰かに見られたら、確実に噂になる。そして、その噂が江藤さんの耳に入ったら、確実に私が目をつけられるよ)

 橋田は頭の中で、色々と考えながら、人目のつかない場所を探した。そして、学校の屋上へとたどり着いた。しかし、放課後の屋上は人気のスポットでもあり、既に4、5人の生徒がいた。

 (ここも、人目につくわね。どこかいい場所ないかしら)

 橋田はそう思い、周囲を見渡した。すると、屋上の隅に扉があることに気づいた。普段、屋上へあまり来ない橋田は、こんなところに扉があることすら知らなかった。試しにその扉の前まで行ってみると、扉の取っ手には「立ち入り禁止」の看板がぶら下がっていた。

 橋田は興味本位でその扉を開けてみると、なんと扉が開いた。そして、その先には更に上へと続く階段があった。

 念のため、周囲を確認して、誰にも見られていないことを確認してから、手崎の手を引き、橋田は階段を上って行った。


▼30日間の革命 1日目~47日目
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