30日間の革命 #毎日小説47日目
橋田が江藤に近づくのは、女子バレー部の次期キャプテンになるためだった。キャプテンに選ばれるためには、現キャプテンに指名をしてもらうことが、最も確実な方法である。下手に近づけば、キャプテンに目をつけられるリスクはあるが、少しでもキャプテンに近づくため、橋田はこの方法を選んだ。
そして、橋田がキャプテンになりたい理由は、他の学生とは異なるものだった。女子バレー部のキャプテンになりたい者の多くは、江藤のように強い権力を持ちたいという理由からキャプテンを志望する。そうして、女バレのキャプテンになった者は、その権力までも引継ぎ、現代の江藤までその構図は続いている。橋田はその歴史を変えようと思っていた。
橋田が1年生のとき、当時女子バレー部のキャプテンだった3年生と廊下でぶつかってしまい、制服を汚してしまうということがあった。キャプテンは怒り、それ以降橋田に目をつけて厳しく指導をするようになった。バレー部でもなかったのに、廊下ですれ違うときは必ず近寄って挨拶をしなければならなくなり、服装や髪型も細かく注意をされるようになった。
その指導は女子バレー部よりも厳しく、橋田はだんだんと学校へ行くのが億劫になっていた。そんな時、当時3年生だった深瀬涼子という学生が橋田に手を差し伸べた。
いつも通り、橋田が廊下を歩いていると、キャプテンが橋田を呼び出して、服装や挨拶について細かく注意をしていた。その時、深瀬が間に入って、
「ちょっと、いくらなんでもやりすぎでしょ。この子はバレー部じゃないんだし、それにあんたにぶつかったことに対する腹いせでしょ? 女バレのキャプテンだからって、何でもやっていいわけじゃないでしょ」
と、キャプテンに向かって一喝したのだった。
他の学生が多く見ている中で恥をかかされたキャプテンは、かなり怒り、それ以降、同級生であった深瀬をターゲットにして、徹底的に指導を始めた。それは指導の域を超え、もはやいじめと言っていいほどだった。
深瀬は女子バレー部に所属しており、キャプテンに逆らうことは深瀬自身も目をつけられてしまうことは分かっていたはず。それなのに、ためらわずに橋田へ手を差し伸べてくれたのだった。そのおかげもあり、橋田はキャプテンからの指導もなくなり、橋田に関する噂も消えていた。しかし、その分深瀬に対する扱いは、ひどさを増していった。
そんな状況を見かねて、橋田は先生へ相談した。しかし、先生は
「ただ服装とかを注意してるだけだろ? 良いことじゃないか」
と話を聞いてくれなかった。
自分で解決するしかないと思った橋田は、深瀬に直接話しに行った。
「私のせいで先輩まで大変な目にあっちゃって、本当に申し訳ありません。先生にも相談したんですけど、取り合ってもらえなくて。今からでも私がキャプテンに止めるように言ってきますよ」
深瀬は少し笑って、こう答えた。
「いや、いいよ。私は大丈夫だから。私もバレー部に所属していて、キャプテンがこんなに自由奔放に振舞うのはおかしいってずっと思ってたんだ。私がキャプテンになって変えてやろうと思ったんだけど、結局なれなかった。でも、だからと言って、バレー部に関係ない人までほっとけなかったから。こうなることもわかっていたし、あなたが普通に生活できるなら、私はそれで十分よ」
そう言い、深瀬はその場を去っていった。
そして、このいじめとも言える指導は、深瀬が卒業するまで続いた。深瀬は時折つらそうな表情を見せていたが、誰にも相談することなく、卒業をしていった。
橋田は、2年生になってからバレー部に入部した。もう橋田がバレー部キャプテンから目をつけられていたことは、他の部員も忘れていたので、入部してからも、特に問題はなく過ごせていた。
橋田は、絶対に自分の代でこの悪しき制度を変えてやろうと決心していた。そして、それは、どんな手を使ってでもキャプテンになろうという決意でもあった。
▼30日間の革命 1日目~46日目
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