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30日間の革命 #毎日小説45日目

 日常とは、何も変わらないようで確実に変化しているものである。白の会が発足してから、メンバーたちの生活も、少しずつではあるが、確実に変化していた。それは加賀のように、良い方向へ変化する場合もあるが、全員が必ず良い方向へ向かうとは限らない。

 手崎はもとより地味で目立たない存在だった。それに加えて、毎日一人で将棋を指していることで周囲からバカにされることも多かった。ただ、それくらいなら手崎も気にしていなかった。自分に友達が少ないこと、クラスに馴染んでいないこと、そして変わり者だということは十分自覚できていたからである。

 しかし、白の会の最初の集会が終わったころから、手崎も小さな変化を感じていた。その小さな変化とは「視線」だった。

 それまでは、朝登校して教室に入っても、特に誰からも注目はされなかった。しかし、今は教室に入ると、確実に誰かからの視線を感じるようになっていた。登校時だけではない。例えば、教室移動のときだったり、体育の時だったりと、学校生活のあらゆる場面で「視線」を感じるようになっていた。

 そして、その視線は決して気持ちのいいようなものではなかった。

 

武蔵中央高校には、女子バレー部が存在する。女性限定でありながらも部員数は多く、部活動も活発に行われている。部内での上下関係は厳しく、「先輩を見かけたら自ら歩み寄ってあいさつをしなければならない」という独自のルールまで存在するようだった。

 同じ厳しさでも、野球部とはその様相は異なる。野球部の場合は、監督が頂点にいて、その下に部員がいるといった関係だ。しかし、女子バレー部の場合は、顧問よりもキャプテンが一番の権力を持っていた。そして、部員だけでなく他の女子生徒からも、「女バレのキャプテンに目を付けられてはいけない」と恐れられるほどであった。

 現在、女子バレー部のキャプテンを務めるのは「江藤 香奈枝」である。クラスは3年1組で、坂本や加賀と同じクラスであった。そして、女子バレー部のキャプテンであることから、坂本や加賀、森下と同じくらい校内でも有名であり、加賀とは日常生活でもよく話す間柄であった。

 江藤にとって「女バレのキャプテン」になることは、高校生活での目標であった。高校に入学したとき、歩くだけで皆がかけより挨拶をされる女子バレー部のキャプテンの姿に憧れた。それから、女子バレー部に入部し、とにかく厳しい練習や先輩からのいびりにも必死に耐えた。そして、自分自身も厳しくあることで、周りの生徒からも一目おかれるようになり、昨年の秋に「女子バレー部のキャプテン」へと任命された。江藤にとっては、やっとの思いで掴んだ栄光であった。

 女子バレー部のキャプテンになってから、江藤の厳しさは更に増していった。後輩のみならず、同級生にも日常生活での挨拶や身だしなみを徹底させ、前任のキャプテンよりも厳しく指導した。そうして、歴代でも類を見ないほどの権力をもった「女バレのキャプテン」となっていた。

 そんな時に、耳に入ってきたの「白の会」だった。なんでも、坂本を中心に学校で革命を起こそうとする会と聞いて、江藤は興味を持った。江藤であっても坂本は一目おく存在であり、自分よりも影響力があることを認めていた。そして、そんな坂本が率いる白の会には加賀も参加していると聞き、自分も参加しようと思っていた。

 江藤は部活のため集会へは参加できなかったので、後輩を一人偵察へ向かわせた。後日話しを聞くと、坂本や加賀に加えて、野球部のキャプテンや、1年の馬場も参加しているということで、江藤自身も、そのメンバーに名前を連ねたくなった。しかし、その時気になる情報も聞いた。

 「なんか、2年の手崎っていう地味な子もメンバーに入ってましたよ。私はクラスが違うんですけど、なんでも将棋同好会を一人で続けているらしくて、毎日放課後に図書室で一人で将棋をやってるちょっと変わった子なんですって。それにもう一つ気になったのが、加賀先輩とも仲が良いらしくて、放課後一緒に将棋をしている姿を見た子もいるらしいですよ。なんかちょっと気に食わない感じですよね」

 「……そう。わかったわ。教えてくれてありがとう」

 江藤は言葉少なく答えた。その様子に、後輩は彼女が不機嫌になっていることを察知した。

 そうして、この日から江藤は手崎に目をつけたのであった。


▼30日間の革命 1日目~44日目
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