肩書きはなんでもいい。ただ、いいものづくりをする人でいたい。
「いいものづくりができれば、それでいいんだよね。職種や立場は気にしない。やらせてもらえることなら迷わずやる。」
そう話すのは、「ninaruポッケ」や「michiru」といったプロダクトのオーナーを務める友保多栄子(ともやすたえこ)さん。
もともとデザイナーとして入社した彼女は、いまデザインの仕事をしていません。プロダクトオーナーとして、いかにユーザーのためにいいものを届けられるか、進むべき方向性や施策を考え、チーム全体をまとめる立場にいます。
この10月からは、事業部のマネージャーも兼任。あらゆる枠にとらわれず、軽やかにキャリアを重ねていく姿が印象的なメンバーです。今回は、こうした選択の裏側にどんな想いがあったのか、そして働く上でどんなことを大切にしているのか、あらためて話を聞かせてもらいました。
聞けば聞くほど、多栄子さんの考え方はとてもシンプル。
すべてにおいて変化の多いいま、働き方を見つめ直している方や迷っている方がいたら、前に進むための小さなヒントが見つかるかもしれません。
話し手:友保多栄子(「michiru」「ninaruポッケ」プロダクトオーナー)
聞き手:真辺藍(コーポレート)
デザイナーとして入社。ただ、いいものづくりがしたかった。
真辺 もともと社員になる前のフリーランス時代から、うちの会社の仕事をしていたんですよね。
友保 そうそう。フリーランスで仕事していたときに声をかけてもらって、ninaruのデザインを担当しました。なので、エバーセンスとの付き合いはかれこれ5年になるかな。
真辺 正社員になったのは、何かきっかけがあったんですか?
友保 フリーランスもよかったんだけど、子供が1歳になったこともあり、そろそろどこかで正社員として働こうと思っていて。エバーセンスを基準に、他にも何社か話を聞きに行きました。最終的に3社くらいに絞ったんだけど、結局はエバーセンスが一番合いそうだなって。
真辺 どのあたりが合いそうでしたか?
友保 いいものをつくりたい、という思想かな。他の会社ではなぜか、女性の働き方のロールモデルになってほしいと言われたんだけど、私がやりたいのはそこじゃないって思って…。私はただ、いいものがつくりたかったんだよね。
真辺 ちょうど女性の働き方が盛り上がりを見せていた時期だったのかもしれないですね…。いいものづくりという考え方は、まさしくエバーセンスと同じ!2016年に入社してからしばらくは、デザイナーチームの一員でしたね。
友保 そうだね。2年間くらいはプロダクトのデザインをひたすらやっていたな。一時期はほとんどのプロダクトに携わっていたんだけど…その辺りからやり切った感もあって、やりがいも減っていたかもしれないね。このままエバーセンスでデザイナーをやっていて、自分は楽しいのかなっていう気持ちが出てきて。
真辺 なるほど…それでデザイナーからプロダクトオーナーになりたい、と。
友保 いや、それは正直あんまり考えていなかったんだ(笑)
牧野さん(社長)から急にそんな話が来たんだよね。「michiruのプロダクトオーナーやってみない?」って。そこからトントン拍子に話が進んでいって、一日でプロダクトオーナーに決まったのを覚えてる!
真辺 てっきり多栄子さんが、やりたいと伝えたのかなと思っていました…!驚きの事実です。
友保 前々から軽く、やってみない?っていうジャブは入っていた気はする…。でも思ったよりもずっと早いタイミングで話が来たよ(笑)
私、職種とか立場はあまり気にしてなくて。いいものづくりができれば、なんでもいい。そこはずっと変わらないんだよね。
だからこの時も、いいものづくりができるなら何でもやります、という感じで引き受けたかな。
真辺 そこは入社した理由からも全くブレがないですね。
友保 そうなの、本当にそこは全然変わっていないところだと思う。
作る側から作ってもらう側へ。同じものづくりでも考えることが全く違った。
真辺 プロダクトオーナーになって、それまでのものづくりとどう変わりましたか?
友保 デザイナーのときとは全く違ったよ。最初の半年間くらいはめちゃくちゃしんどかった…。
真辺 具体的には何に苦しみました…?
友保 プロダクトオーナーになった瞬間に、メンバーからは何でもわかってる人っていう目で見られてしまったところかなぁ…。「ビジョンはなんですか?」「何をしたいんですか?」っていうことをたくさん聞かれて。そこでようやく、私がそれを考えなきゃいけないんだっていうことに気づかされたんだよね。
自分自身は全く変わっていないつもりだったんだけど、まわりから見たら立場が変わるってすごい変化なんだなと。
真辺 なるほど…。私、多栄子さんがmichiruのプロダクトオーナーになったとき、すごく多栄子さんの想いを伝えてくれているなぁという印象があったんですよ。全体会議でもこういう世界観を作りたい、ときちんと話してくれていて。でもそこにはそんな背景があったんですね。
友保 うん。夜な夜な泣きながら、家で考えまくっていた時期があるよ(笑)
あとは、プロダクトでやりたいことを実際にどういうロジックで作ったらいいんだろう、というのもわからなった。デザイナーのときは、プロダクトオーナーが作ってきたロジックになぞらえればよかったから、全く考えたことがなかったんだよね。ここはひたすらエンジニアに聞きまくって、教えてもらっていたな。
とにかくメンバーにもたくさん怒られながら作ってたよ。今も全部わかってるわけじゃないけどね(苦笑)
真辺 今までのものづくりとは本当に違うことだらけだったんですね。
友保 そうだね。これまではデザイナーとして作る側にいたけど、プロダクトオーナーは作ってもらう側。作ってもらうためには、こんなにビジョンが大切なのか、ということがよくわかったな。
どんな質問が来ても説明できるように、自分の理解を深めていく努力はいつもしてる。まだまだすぐに答えられないこともあるけど、ちゃんと根底のところは答えられるようにしないと、メンバーがついてきてくれないと思うから。
真辺 そんな時期を経て、今度は新規事業(ninaruポッケ)の立ち上げでもプロダクトオーナーに。そのときももしかして…急に話が来たんですか?
友保 うん、同じく(笑)私としてはなんで自分が選ばれたんだろうって思ってた。「michiru」でプロダクトオーナーになってからまだ数カ月しか経っていなくて、実績も全くなかったから。でもこの時も答えは同じだったかな。いいものづくりができるなら頑張ります、ということだけ伝えたと思う。
真辺 毎回話が来て、それを受ける形にはなってるけど、そこに多栄子さんの意思がちゃんと見えますね。
友保 そうだね。とにかく私は、いいものづくりがしたい。そのためなら職種や立場はなんでもいいし、やらせてもらえるものは迷わずやる、ということかな。
困っている人がいたら助けたい。表現方法が違うだけで、根底はそこにある。
真辺 多栄子さんが考える、いいものづくりって何ですか?
友保 みんながユーザーに向いていること、かな。ユーザーの課題を解決したり、ほしいものを提供できていたり、ユーザーのことを向いてるプロダクトがつくれたらそれでいい。
真辺 エバーセンスの思想と全く同じなんですね。もともとそういう考えでしたか?
友保 仕事に関係なく、困った人を助けたいっていうのはずっとあるかもしれないね。日頃の生活でも当たり前にやってることだと思う。ただそれが、仕事の上ではアプリやWEBサービスという表現になっているだけなんだよね。とにかく人の役に立つのが好き。どんな形でもいいので、困っている人に届けばいいなと思ってるよ。
真辺 仕事だけではなく、多栄子さんの人生そのものに通じてるんですね。
友保 たとえば私、どこに行っても道を聞かれることが多いんだよね(笑)人に声をかけられやすいタイプ。友人の悩みも日常的によく集まってくるし、察するのも早いかもしれない。私が話を聞くことで相手の顔が明るくなったりすると、それだけで本当に良かったなって思えるんだよね。人の手助けができればなんでも良くて、そこも昔から変わらないのかもしれないな。
真辺 ものづくりも昔から好きでしたか?
友保 それはもう小さいころから好きだね。手を動かすのはずっと好き。幼稚園の先生にも言われていたくらい。作ったものを誰かに喜んでもらえたらうれしいって、その頃から思ってたんじゃないかなぁ。自分が楽しいことを軸に、誰かを救えたり、役に立つことができたらいいよね。それがいまの仕事につながってると思う。
ただ、人の役に立つためには実力をつけなきゃいけないし、まだまだ経験を積まなきゃいけないなって思ってるよ。
文句言いながらでもいいから、一旦やってみる。やらなきゃ前に進まない。
真辺 それが、これまでの「いいものづくりができるならやります」っていう姿勢につながってるんですね。
友保 そう思う。よっぽど嫌なことはやらないと思うけど、嫌なことってほとんどないかな。チャンスが来たらとりあえず乗っかってみる、っていう気持ちが常にある。
真辺 そのフットワークの軽さ、多栄子さんにすごく感じます。
友保 全部経験だなって本当に思うよ。無駄な経験ってひとつもないから。とりあえず、失敗してもいいからやってみる、という気持ちでいつも動いてるかなぁ。
真辺 エバーセンスでも大事にしてる、「倒れるなら、前へ」の姿勢ですね。
友保 そうそう、ちょっとでもいいから前に進みたいんだよね。やりたいって言ってるだけじゃ進まないし、その前にやらなきゃいけないこともたくさんある。そこで止まってしまうのはもったいないなって。すごく文句言いながらやってるときもあるけど(笑)
真辺 そういうときもありますよね(笑)
友保 でも文句言いながらでも、やるかやらないかは大きな違い。成長させてくれるのは会社じゃなくて、自分だから。私の場合は、できないことよりできることにフォーカスしてるよ。ここはできないかもしれないけど、ここならできるな、やってみよう、という感じ。
真辺 できることを見つけて、積み重ねていく。それはすごくいいですね。
友保 そうして小さな手綱をたくさん持っておけば、大きな手綱にも飛びつけるようになるかもしれない。いつか大きなチャンスが来た時のために、できるだけいろんな武器を持ってる状態にしたいよね。
真辺 そのハングリー精神や、大変なこともちゃんと乗り越えていくところが、まわりからの信頼を集めてるんだろうなぁ。
友保 もしそうなら嬉しいな。私すごく負けず嫌いだしね(笑)昔から悔しいことがあるとめちゃくちゃ燃えるタイプなので…!
家族が一番大事。それは絶対に変わらない。でも私には私の人生がある。
真辺 ものづくりも好きだから、ずっとチャレンジし続けられるんでしょううね。
友保 そうだね。私の場合、仕事とプライベートはシームレス。だから、ずっと考えていられるよ。それが全く苦じゃないしね。
真辺 ちなみに、子育てとのバランスはどうしてますか?
友保 これもずっと変わらないんだけど、家族が一番大事。もし家族になにかあったら、何も考えず家族を優先するよ。
真辺 シンプルだけど、すごく大事なことですね。
友保 プロダクトオーナーになってからは、仕事量が増えた分、子供と過ごす時間は減ってると思う。でも私は、子供とは必要な時に一緒にいられればいいと思ってるんだよね。極端に減るのはもちろん嫌なんだけど。
私には私の人生があるし、子供にも子供の人生があるから。家族は大事だし、最優先なんだけど、家族がいるから仕事を犠牲にするという考え方はしたくないなと思ってるよ。
真辺 その気持ちが固まってると、仕事と家庭のバランスで悩むことがなくなりそうですね。
友保 あと私の目指してるところが、つまりはいい社会を作りたい、というところなんだよね。いいものづくりを通して、いい社会をつくる。それがまわりまわって自分の家族のためになると思ってるし、そこを担えたらいいなって。そのためにも、もっと実力をつけて、いい仕事をしていきたいなと思ってるよ。
株式会社エバーセンス 事業部
「michiru」「ninaruポッケ」プロダクトオーナー
友保多栄子
ナチュラルローソンのマーケティング企画部でHP担当になったのをきっかけに、WEB制作を独学で学ぶ。その後Yahoo!のWEBデザイナーを経てフリーランスへ。2015年「ninaru」のデザインを担当し、2016年6月から業務委託としてエバーセンスへ。同11月に正社員として入社。最近の楽しみは、来年小学生になる娘と「鬼滅の刃」の話をすること。
インタビューを終えて
「私ずっと考え方変わってないんだよね。私の働き方で参考になるのかな…」と心配していた多栄子さん。その変わらないところこそが多栄子さんらしい魅力的な働き方をつくっていて、このインタビューでそれが少しでも伝わったらいいなぁと思います。
エバーセンスには、いわゆるキャリアのレールがありません。会社としてこうしてほしい、というのもありません。メンバー一人ひとりが自分で幸せな働き方を考えて、それを正解にしていってほしいと考えています。
このインタビューを通して改めて、一人ひとりのメンバーが幸せに働けて、より進化していけるように、いい打席を用意できる組織でありたいなぁと思いました。
【取材・文】真辺藍 【撮影】鈴木満明