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【豪州留学記】若者が変えていく社会 -2024年冬季講座振り返り-

こんにちは。メルボルン大学に留学中のイブキです!

先週から大学では授業が始まり、長らく静かだったキャンパスにも活気が戻り始めました!


序章 -束の間の休息、花粉症/乾燥と格闘中-

本題に入る前に、一つお話ししたいのはメルボルンの乾燥花粉症について。冬休みで体が休まったのは良かったのですが、束の間の休息も去ることながら、慣れない気候にここ数日は悩まされていました。

南半球のオーストラリアでは現在、冬真っ只中。私の住んでいるメルボルンではここ数日ずっと、摂氏一桁台の気温で朝を迎えます(起床時はいつも外気温との差で結露が出来ているので喚起しないと窓の外がまるで見えないほどです笑)。

ただ、私にとって一番厄介なのは乾燥と花粉症です。

私はオーストラリアの冬を迎えるのが人生で2度目なので、まだ体があまり慣れておらず、唇がぱっくり割れたり、まぶたの周りが赤く腫れたりすることもしばしば。友達も先週は、帰国後の疲れか風邪で何人もダウンしていました。

「冬なのに花粉症かよ!」「オーストラリアにも花粉ってあるの?」と思う方もいらっしゃったかもしれませんが、あるんです。

オーストラリアにはスギ花粉はありませんが、芝による花粉があるみたい。しかも、面倒なことに早ければ7月から年をまたいだ4-5月まで花粉症が流行ることがあるらしいです。

たまたま自分のハウスメイトが医学部生物化学専攻の卒業生だったのと、近くの薬局で話した薬剤師さんが親身に対応してくれたので、2人からアドバイスを仰いで、以下2つのお薬をもらってきました。薬が効いたおかげか、発症から2週間経った今は結構改善しています。

アレルギー止めの錠剤(左)と目薬(右)。錠剤を使い切る10日経ってもあまり状況が変わらず、「Telfast® For Hayfever Relief」という新しい薬を試したら一気に改善した。

今は本当に便利な時代で、ネットがあればすぐにこうした情報は手に入りますし(日本語でも英語でも)、もう留学生活も3年目なので、日常会話レベルであれば英語でのコミュニケーションにも問題がありませんでした。

ですが、これがインターネットも繋がらない時代に、言語も分からず留学した人だったら?お薬が買えないような経済状況で異国の地に来ていたら?それは自己責任なのでしょうか。公平と言えるでしょか。この状況を改善するために、留学者はどのようなアクションを起こせるでしょう。

今回の記事ではそうした、「正義」「公平さ」に焦点を当ててお話します。

本章 -冬季講座で教育社会学の授業を受けみて-

花粉症と乾燥と戦いながら、私は大学で7月15日から1週間、教育社会学に関する冬季講座を履修してきました。

授業のタイトルは「Youth Leading Change(若者が起こす変化)」。

留学生は半年間で最低でも4教科は履修しないとビザに影響が及ぶらしいので、先学期3教科のみしか取らなかった私はその埋め合わせでこの教科に挑戦することにしました(2024年6月記事参照)。

大学入学時当初の予定にはなかった教科でしたが、結論から言うと履修して良かったです。普通の学期中であれば12週間で学ぶような内容を1週間で教えるので、かなりインテンシブなスケジュール(以下参照)でしたが、かなり面白い内容だったので乗り切れました。

朝一に1時間半の講義を受けて、その後すぐ、2時間のディスカッション。
お昼休憩をはさんで、またもう1サイクルという、まるで小学校のようなキツキツの時間割(笑)

この授業では「Youth(若者)」や「Justice(正義)」といったトピックを学ぶことが特徴です。月曜朝の初っ端の授業で教授がいきなり、「正義とは何だろう(What does justice mean)?」と大きく書かれたスライドを背に生徒に聞いてきた時には驚きました(笑)。

ですが、まさにこうした「公平さ」や「平等」といった、普段忙しく過ぎる日々の中では考えられないようなトピックを、時間をかけてクラスメイトらと議論できたことに大きな価値があったと私は思っています。

問題の制定

この授業の特徴は、1週間の最後にグループで若者が社会を変えていくためのアクションプランを書いた研究計画書をプレゼン形式で発表しなければならないこと。

世の中にある多様な社会問題の中から、公平さに欠けるような不当なものを1つ挙げて、決められた枠組みに沿って、

①問題の提起(背景、重要度) 
②アクションプラン 
③そのプラグラムを実行することで得られるインパクト

の3つを挙げなければなりません。

なので、ディスカッション中心の2時間目の授業では最初に、オーストラリアの若者が抱える社会問題のブレインストーミング。とりあえず10個、思い付くだけ挙げて、重要度別にランキング分けしました。

グループでブレインストーミングをしている様子

どのグループも共通して、「物価高騰による貧困」や「AI(人工知能)による虚偽情報の拡散」、「メンタルヘルス」などといったテーマを上位に挙げていました。あと挙がっていたのは、性差別や人種差別といったところでしょうか。

私たちのグループはその中でも「孤独」、特にメルボルン大学生で学ぶ留学生の孤独に焦点を当てて、プレゼンを行うことにしました。孤独は留学生にとって多く見られる問題だし、その問題の不当さが顕著に表れているから。

研究によれば、オーストラリアで孤独を感じたことがある留学生の数は65%にも及ぶと言われています *1。第一生命研究経済所によれば、日本でも孤独を感じる外国人の方は約半数に上るそうで、特に若い世代・留学生に顕著な模様 *2。

孤独は免疫・認知機能の低下、鬱などに繋がる危険があり大変危険な状態であると言われています。

ですが、留学生は多くの場合、現地に知り合いもいないし、文化的・社会的な違いから友人関係を広げるのが簡単ではありません。また、オーストラリアでは、英米と異なり寮生活という文化が薄いので、例え誰かとハウスシェアをしていたとしてもあまり人と話さない、なんてケースはザラによく聞きます。

つまり、文化的・社会的な資源(この場合は人、グループのこと)が上手く彼らに分配されていない(分配の不当さ)。これによって、多くの留学生が萎縮してしまい、大学や寮で行われるイベントに参加するという決断に踏み込めなかったりする(参加の不当さ)。そうすると、「この人は社会的なイベントに参加しない」という軽蔑のレッテルが張られて、更にこうした知り合いづくりの機会に呼んでもらえなくなる(認識の不当さ)。

簡単に言うと、こうしたサイクルで多くの留学生は孤独に陥っているのではないかと主張しました。

ボトムアップ・アプローチ

なので私たちの研究計画書では、これを解決するために若者が取るアクションプランを考え出したのですが、ここで採用したのがボトムアップ・アプローチという手法です。

実はこの「孤独」解決のためのアクションプランを考えるにあたり、グループメンバーからアプリを作って学生同士が繋がれるようにするというような案が出ていました。ですが、これに対して教授から、

「それでは勝手に君たちが必要とされるかも分からないような道具を配っているだけじゃないか」

と一言、厳しくフィードバックを頂きました。

これの言っている意味が分からずグループメンバーも頭を抱え込んで、2-3日は悩んでいたのですが、授業の講義内容も踏まえてやっと理解できたのは、若者自身の声から発せられたニーズを元に提案書を作る必要があるということ。

気候変動やアラブの春、ベトナム反戦運動、親パレスチナ運動などの動きはかつて、現在の国際社会で権力を握る政府や大企業に対する若者の抗議活動が主な発端となって始まりました(2024年5月記事参照)。また、こうした革命運動には最近よく、XやFacebookといったSNSが重要な役割を果たしています。

そう。若者は、様々なツールを通じて自身の希望や失望の念を、声や行動にして表してきました。そして、ボトムアップ・アプローチとは、こうした若者の声を汲み上げ、権力者たちとの交渉材料に使うことでインパクトのあるアクションを起こす手法のことを指します。

私たちのグループでは、「メルボルン大学に通う留学生の孤独」という大きなテーマを解決するため、BBQイベントなどを通じて留学生らに集まってもらい、インタビューを実施。そこで得た知見をもとに大学にアクションを起こすための資金援助を要請。最終的なアプリ開発にこじつけるという形でアプローチを考えました。

問題の解決

なので、具体的なアプリの機能や性能はそのインタビューの結果によるところが多いのですが、いくつか仮の案として我々グループで挙げたのはクラブ活動の情報の宣伝や大学内イベントの広報、共通の科目を履修する学生同士で集まれるフォーラムの実施、などです。

大学のクラブイベントなどはよくSNSなどで広報されていますが見逃してしまうことが多く利便性に欠けるので、このアプリを使えば留学生はこれを解決して、学業と交友関係の両方の面で留学生が充実した学生生活を送ってもらえるようになるでしょう。

そんなことを言ってプレゼンは幕を閉じました。

最終章 -正義って何だ:2学期に履修する授業-

今回の冬季講座は、「正義」や「公平さ」に関して、世界の事象の身に関わらず、ある意味では自分の置かれている状況に関しても良く考えさせられるような内容でした。

身近なところで言うと、先学期はパレスチナ抗議活動をよくキャンパスで見かけましたし、あとは自分の大学の学費が留学生だけこんなに高いのって不当なのかなーとか思ったりもしました。でもそれって国内生はCSP (Commonwealth Suppported Places)という政府の援助によって学費が賄われているだけで、それってつまり彼らやそのご家族がオーストラリアに税金を納めたから可能になっているのか、じゃあ公平ではあるのかなー。

とか、考えるようになりました。

まあ、要するにこの授業を通じで自分の社会を見る目が変わって、社会の問題に対して「個人」と「社会構造」という共に流動的な枠組みを通して考えられるようになったことが、自分にとっては一番の成長でした。

メルボルン大学の教養学部では留学生の場合の学費は約400万円で、これは国内生の学費の約2.3倍。それでも留学する人が後を絶たないのは、この教育に意義を感じているから?

さて、という訳で今学期は主に専攻の人文地理学や政治経済の授業を通じてこうした「正義」とか「不平等」といったテーマをしつこく扱っていこうと思っています。

今学期に履修する予定の授業

一番楽しみにしているのは、インドのヒマラヤ地方で20年以上も実地調査を行われているJane Dyson先生による「Global Inequalities in The Anthropocene(人新世の国際不平等)」という授業です。

彼女はPre-figurative politicsという、先ほど述べたような若者によるボトムアップ的な社会変革について研究する学者さんでもありながら、いくつかドキュメンタリーも作って賞をもらっている中々アクティブな方です。

Youtubeにドキュメンタリーが挙がっていたので、興味がある方は一度ご覧になってみてください。

また学期が終わる半年後に、どんな人間になっているか楽しみです。

とりあえず花粉、治そっと。


今回の記事は以上になります。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

また次回の記事でお会いしましょう。

冬のメルボルンは乾燥や花粉症も大変だけど、
どの季節よりも朝焼けが綺麗なのでとても好き
大学近くを散歩していた時にパシャリ
左側に見えるのはエンターテインメント性が高くて人気な火鍋屋さん

参考文献

*1: Morris, A., Mitchell, E., Wilson, S., Ramia, G., & Hastings, C. (2021). Loneliness within the Home among International Students in the Private Rental Sector in Sydney and Melbourne. Urban Policy and Research, 40(1), 1–15. https://doi.org/10.1080/08111146.2021.2005017

2: 水野映子 (2023). 在留外国人の孤独感 ~孤独・孤立対策が進む中で~. 第一生命経済研究所. https://www.dlri.co.jp/files/ld/282957.pdf


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