怒りを抑えるのにも才能がある
そもそもの話。
もはやセルフコントロールの一つとして市民権を得た「アンガーマネジメント」だが概念自体は実は紀元前から存在しており、あのアリストテレスも怒りという感情のコントロールがいかに困難なものかということに言及していたりする。以下はその言葉である。
「怒ることは誰にでもできる。ただ怒るのは簡単なことである…しかし適切な相手に、適切な程度に、適切な場合に、適切な目的で、適切な形で怒ることは容易ではない。」
……これを聞いてグサっとくる人も多いのではないだろうか。。(僕はくる)
なんだかんだ先人たちも「怒りの扱い」については手をこまねいていたようで、これが「アンガーマネジメント」という形で心理療法のカテゴリとして加えられたのは今から約50年前になってようやくの話である(心理学自体が若い学問と言える面もある)。
ただしアンガーマネジメントは、近年では「心理療法」のような専門的な治療形態をとるものではなくあくまで「自己コントロールのトレーニング」のようなライトな意味合いで用いられることがあるように感じる。
※実際皆さんの中でも「怒りを抑えるコツみたいなもの」と考える方も多いだろう。
正直僕は後者のトレーニングについてはしっくりきていない。
怒りを抑えるコツのような意味合いでアンガーマネジメントを捉えたとき、かなりの数の人が「合わない」からだ。
理由を述べていく。
まず前提として、本来怒りの感情とは当事者の経験やバックボーンによって大きく発現率が異なるものなのだ。
ちょっとイメージすればわかると思うのだが、富豪の家に生まれ子供のころから両親の愛情を一身に受け友人にも恵まれたAさんと、貧しい家に生まれ常に親がピリついていて挙句に周りにはいじめられているようなBさんがいたとき、両者比べたらどっちが感情のコントロールができず怒りっぽくなってしまうだろうか。
どう考えても後者である。
ではこの二人に巷で考えられているような「アンガーマネジメント」(例えば「怒りそうになったら6秒待つ」とか「相手の立場を考えるようにする」とか)を適用したらどうなるだろうか。
なんとなく想像がつくと思うが、恐らくAさんはこのメソッドで怒りを鎮めることができるがBさんはできない。多分「怒ったら6秒待つ」とかそんな悠長なことはBさんは全くできないと思う。
これはなぜか。ずばり自己肯定感の違いが原因である。
巷で考えられるアンガーマネジメントには隠れた前提がある。
それは「トレーニーはあくまで一定の自己肯定感を持っていること」である。
そもそも怒りの原因の話についてだが、怒りは理想と現実のギャップが生じたときに発現するものだ。以下のような例を見ると分かりやすいと思う。
・あの人に頼んだことをやってくれなかった
・買った物が値段の割に大したことなかった
・夫が家事をしてくれない
つまり他人や物事に勝手に期待して、それが達成されないと怒りにつながるのだ。
ではこれが自己肯定感とどのように関係するかについてだが、ここからは持論で、ずばり自己肯定感が高い人は外部環境に精神が左右されにくく、逆に自己肯定感が低い人は外部環境に依存する傾向が強いからだと思う。
自己肯定感の高い人は、たとえ納得のいかない状況に直面しても「まあ、自分が正しいし良いか」と余裕をもった精神でいられるが、自己肯定感が低い人は自分の存在価値すら外部環境に依存する傾向があるため(俗に言うメンヘラはこの典型だ)、他者などに期待を裏切られればそれはもう一大事なのである。よってそのギャップを受け入れることができず怒りが発現しやすいと考えられる。
ここでアンガーマネジメントの話に戻ると、そもそも自己肯定感が低い人などに「相手の立場を考えろ」とか「怒りそうになったら一旦飲み込んで落ち着く時間を作って」などと言っても無駄なのだ。そんな余裕彼らにはない。
「巷で考えられるアンガーマネジメントは、トレーニーはあくまで一定の自己肯定感を持っていることが前提」と述べたのはこういった背景からだ。
つまり、「アンガーマネジメントの素質」が存在する。
これが私が巷で考えられるアンガーマネジメントにしっくりきていない理由である。
…
……
………
ちなみに、自己肯定感が低い素質のない人はどうすればいいか。
実はちゃんと改善の方法はある。
それが冒頭で述べた心理療法としてのアンガーマネジメントである。
こちらは海外では盛んにおこなわれており、社会人や小学生にも広く適用されている。行われる治療は認知行動療法に基づく「長期間に渡る怒りを抑えるタスクの慣習化」やポジティブ心理学に基づく「自己啓発を用いた自己肯定感の向上」など、根本的な部分に対して目を向けている。
アンガーマネジメントトレーニングを試してうまくいかなかった、という人は、もう少し深い領域として心理療法を受けてみるのもありだと思う。怒りを抑えるどころかもっと人生そのものが豊かになるかもしれない。
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