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ヨーロッパ的なるもの:小話16 コーヒー大好き、ヨーロッパ人

【コーヒー大好き、ヨーロパ人】
 ヨーロッパ人はコーヒーが大好きです。英国では朝の出勤時、人々はサンドイッチ屋などでテイク・アウェイしたコーヒーを片手に職場に急ぎます。職場では、缶コーヒーと言うものはない(少なくともヨーロッパでは見たこと無い)ので、コーヒー・マシーンのお世話になります。キッチンがあって湯が沸かせるなら、自分で入れる人も多いでしょう。

 ヨーロッパのコーヒーは、何故か非常に美味しい。ノルウェーやドイツで会議をすると、大抵の場合、会議室にポットに入れたコーヒーが用意され、自由に飲めます。小さなペットボトルの水が用意してあったとしても、多くの人は一息を入れるにはコーヒーです。これは、結構、濃いのですが美味しく、気がつくと一日に何倍も飲んでしまいます。

 街中でも、カフェが至る所にあります。しかしそれはスターバックスを意味しません。スターバックスはヨーロッパではメインプレイヤーではありません。英国と言えば紅茶と思っている人が多いかもしれませんが、実は、ヨーロッパで一番スターバックスの店が多いのが英国で、約900店舗あります。最近は、紅茶の英国でも、若者がコーヒーを好むことの表れです。それを年配の英国人は、若者がテイク・アウェイする大きなカップを、「あんなに飲むなんて」と奇異な目で見て、ついでに「全ての悪い習慣はアメリカ人が持って来た」とつぶやきます。「英国人が昔より太ったのも、声が大きくなったのも、みな、アメリカ人のせいだー」とも。

 英国を除くと他の国にはスターバックスは浸透していません。フランスにはぐんと減って230店舗ほど、スペインやドイツは150店舗、ポーランドなど東欧の国々ではわずか各50店舗ほどしかありません。

 ヨーロッパでは、まだまだ伝統的なカフェが主流です。フランスに滞在していてとにかく重宝するのが、カフェです。あの小さなコーヒーを頼めばかなりの時間粘っても何も言われません(トイレも使えます)。コーヒーを注文する時、”アン・カフェ、シルヴプレ”と言いますが、それは”アン・エクスプレス”、要するにイタリアのエスプレッソのことです。
 
 コーヒーの飲み方には各国で流儀があります。イタリア人はバーのカウンターでエスプレッソを頼めば、立ったまま一口か二口で飲んで一分ほどで出て行くのが”作法”としています。イタリア人にとっても、大きな紙コップのコーヒーは宇宙人の世界です。面白いのは、フランスでは同じ小さなエスプレッソで、座って長居できる事です。そこで書き物でもすれば、作家ではないかと、かえって尊敬のまなざしが頂けるかもしれません。
 
 イタリアと言えばエスプレッソに加えてカップチーノですが、これにも作法があります。午後に頼んではいけません。これは朝や午前中の飲み物です。午前中とか11時までとか言います。知合いのイタリアの大学を出た人が、「イタリアで午後にカップチーノを頼んではいけない。嫌な顔をされるか、不愉快な目に会います」とアドバイスしてくれました。
 
 オーストリアではコーヒーを頼むと、銀色の盆にコーヒーとチョコレート、それに水が出て来ます。ヨーロッパでは、ミネラルウォーターを注文しない限り、水が勝手に出てくることはまずありません(水道水なら飲まない方が良いことも少なくない)。そこにコーヒーと水が同時に盆に乗って出てくると一瞬戸惑います。「この水は何の意味だ?」 ウィスキーがチェイサーの水と一緒に出てくるのと似ていますが、こっちの方は、コーヒーを飲んだあとの苦みを水で取ってねという意味かと、勝手に思っています。
 
 ベルギーでもコーヒーと一緒にチョコレートが一切れついてきます。これが美味しい。さすがにベルギー・チョコレートの国です。コーヒーのおかげで、思わずベルギーチョコレートを1箱買って帰ることになります。
 
 ドイツ人は、客をもてなすには良いコーヒーを出せなくてはいけないと思っている節があります。ある会社のオフィスを案内してもらった時のこと、案内してくれたドイツ人はわざわざ新装した待合室に設置したコーヒー・マシーンを見せびらかしました、「これはイタリア製だ!」 。また展示会で自社製品のブースを設ける時、ブースデザインの打合せ会議では、予算に接客用カウンターにコーヒー職人のバリスタを呼ぶ余裕があるかかどうかが、大真面目な議論になります。「バリスタも置けないと、会社として信用されない」ーと。真剣なのです。

ヨーロッパではたかがコーヒー、されどコーヒーです。

新著紹介:「絵の中に絵」のおもしろさ

写真集紹介:
【ヨーロッパ的なるもの:アルバム1 街角と博物館で見るクラシックカー(その1)】
ドイツ、イタリア、英国の博物館や路上で見かけた車の写真集(有料)です。歴史的意味のある車、著者が美しいと感じた車を集めています。

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