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#2 女神からのお願い『マイクラクエスト物語』

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#2-1 現実として受け入れるしかない現実

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伯爵家での出来事は、異常なことではなく、フツーのことなのだと受け入れるまで、Eurekaはだいぶ時間がかかっていた。

目の前にあるホネに飛びつきたい衝動にかられている愛犬の健気さは、Eurekaが知っている「いつも」の光景。しかし、モンスターと共存する世界なぞ知る由もない。

カボチャを届けてほしいと依頼してきた顔なじみにそれとなく尋ねてみても、家人には気を付けることは常識と言わんばかりだった。

魔除けの呪物をもっていかなかったEurekaが悪いらしい。

そもそも魔除けの呪物とは一体…?

マイクラの世界にそのようなアイテムはあったのだろうか。

自室でゲーミングパソコンを開こうとしたが、いつも遊んでいたパソコンは忽然と姿を消していた。

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この世界がマイクラのような世界であるなら、まずはお馴染み素手で木こりである。

Eurekaは試しに、マイクラの世界のように手で木材を採取できるか試したみた。

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「おお…ゲームみたいに、手で木材がとれる…!」
妙な感動を覚え、Eurekaはトウヒの巨木をまるまる伐採した。

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一旦帰宅し、リビングの窓の先に視線を向けると、日陰で日光を避けるスケルトンと目が合った。
なんとエンチャント弓を装備しているスケルトンだった。

防具を何もつけないで挑むべきではない…。

明るい下での蜘蛛は敵意を見せなければ襲ってこないだろうが、蜘蛛の足音は気持ち悪く、正直一刻も早くスケルトンもろとも蜘蛛も退治したかった。

スケルトンの更に彼方へ視線を向けると、小さな洞窟らしき”くぼみ”が見えた。

木材を入手したら、次は石、石炭、鉄などを手に入れ、道具のグレードアップを図るのがだいたいのマイクラの攻略ルートだ。

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「よし…、あそこに行って、木材以外の資材を手に入れよう」

念のため木の剣もクラフトし、Eurekaは洞窟へ探検しに向かった。

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途中木の下で日光を避けていたスケルトンと対峙したが、なんとか弓矢の攻撃をかわし、隙をついてスケルトンを撃破できた。

乱れた呼吸を整えながら、Eurekaはゆっくりと洞窟へと近づいていく。

「モンスターはいないようね…」

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運のよいことに石炭が見えた。準備しておいた木のツルハシで石炭を回収し、そのまま石も採取していく。

「ゲームの中でもわかるくらいだったけれど、実際に石炭や石を採取すると、採取したいアイテムにかかる時間、ツール超しに伝わるブロックの感触ってこんなに違うんだ…」

マイクラの世界の”リアル”に触れたようで、Eurekaは少し感動していた。

ゲームの中に入ってみたいという願望は、ゲーム好きでなくても一度は抱いたことはあると思う。もしくは、小説や絵画、映画の中、好きな歴史の一幕でも、「そこにいたい」という純粋なキモチ。

Eurekaはいままさに、その中の人になっていた。

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この沼地の向こうに何があるのだろうかと、胸を躍らせていた子供時代。

誰も知らぬ財宝が眠る古代の遺跡、人魚が住まう秘境、巨人族が封印されている地下監獄…。

どれも他愛のない子供の空想ではある。しかし、いまは違う。思い描いていた世界が、ひょっとしたら現実のものになるかもしれないのだ。

――トクン。

Eurekaの胸の奥で、何かが息を吹き返した。

#2-2 ご近所さんたち

家の周辺をあらかた探索したEurekaは、ご近所さんに会ってみようと思い立った。

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「やぁ、Eureka。トウモロコシの調子はどうだい?」

ご近所さんのロナルドの農場を訪ねた。深緑の漆喰が美しい家は相変わらず素敵で、いつものようにロナルドはテラスでお昼の休憩をとっていた。

「なんだか、今年のトウモロコシは粒が大きいみたい」
「そうかい。それで味がしっかりしていれば、けっこういい値で売れるかもしれないねぇ」

そういえば、バタバタしていたから忘れていたけど、町に行ってなかったな。

この辺りでは大きいとされる「陽の当たる町」は、Eurekaたちが暮らす地域では唯一といっていい交易の町であり、育てた農作物や畜産物を販売できる大切な存在だった。

Eurekaは「陽の当たる町」に行ってみることにした。

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普段なら車なのだが、勢いに任せて徒歩で外出してきてしまったため、歩いて町へ行くことに。

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メサバイオームの素材で建築された町、というところだ。

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この町でも異常があるかもしれないので、Eurekaはこっそり建物の中を覗き込む。

伯爵家のように暗い感じがする。この町もモンスターが仕切るようになってしまったのだろうか。

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慎重に通りを歩いていると、楽し気な笑い声が聞こえてきた。
どうやら、普通に人間がいるようだ。ほっと胸を撫でおろす。

いまは夕方前だが、暗いところであればモンスターはスポーンしてきてしまう。時間には気を付けないと…。

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通りを抜け、市場が開かれる広場へ行くと、いつものようにご近所さんが自慢の品々を売っていた。

どうやらこの町には、モンスターは基本的にいないようだ。夜になり明るさが足りなくなると、たとえ街灯があったとしてもモンスターはスポーンしてくるだろう。

日暮れになってきたので、Eurekaは慌てて帰路についた。

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ベッドから満点の星空を眺めていると、一粒の流れ星が…。

マイクラの世界に身を投じてから、初めてゆったりとした時間を過ごせたような気がして、ささやかな幸せをかみしめる。

Eurekaはそのまま目を閉じ、明日は何をしようか考えながら眠りに落ちた。

きっと訪れるであろう「明日」がこんなに楽しみだったことは、なんだか久しぶりな気がした。

#2-3 三人の女神

なんだか妙な胸騒ぎがして、Eurekaは目を覚ました。

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誰か…いる…?

傍に誰かの気配を感じる。

まさか…泥棒!?

めがみ

そっと顔を上げると、美しい女性が三名、Eurekaを囲むように立っていた。

え…ぇ? この綺麗な女性たちは、誰?

「小さき者Eurekaよ…」

わたしの名前を知ってる!?

ピンク色の女性がEurekaの心に直接語りかけてきた…ように思えた。
テレパシーというものがどういうものなのかわからない。ただ「そうなのだ」という感覚があった。

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「なんの運命のいたずらか、宿命か。あなたは世界を救う小さき希望。病めるドラゴンを救い、世界の病巣を癒してほしい」

病める…ドラゴン…。

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あの…苦しそうだったエンダードラゴンのこと?

「果ての世界、彼方には、あなたも知っている通り、果てのドラゴンが静かに暮らしていました。しかしとあることが原因で、ドラゴンは病におかされ、世界は少しずつ壊れていきました」

世界…それは、誰の世界? この人たちの? それともわたしがいた世界にも関係があるの?

「いま抱かれた疑問のとおり、あなたを含めたわたしたち全員の世界です。果てのドラゴンは世界の調和をはかる調停者の役割を担っておりました。しかし、パンドラの箱が開かれると、果てのドラゴンは病におかされ、調停者としての働きを十分に果たせなくなり、世界は少しずつ腐り、壊れていきました」

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「いまこうしてわたしたちはあなたの前に姿を現せましたが、このままだといずれはわたしたちもちからを失い、あなたに会えなくなることでしょう」

このままだと、みんな…みんな消えてなくなってしまうということ!?

「不思議だと思いませんでしたか? 目が覚めるとあなたは別の世界の住民になり、なぜかブロックでできた世界を当たり前のように受け入れてしまっていたことを」

…。
言われてみれば、マイクラの世界に入ったことに気づく前に、ブロック調の世界であることに疑問を感じなかった。

「パンドラのせいなのです。そして、パンドラのちからを悪用する者たちがいます」

もしかして…これって…。

「はい、小さき者Eureka。あなたにパンドラを封じ、パンドラのちからを使役している不届き者の暴走を止めてほしいのです」

えええええー! 本当にゲームの中の設定じゃない!

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「安心してください、小さき者Eureka。あなたひとりでパンドラに挑むわけではありません」

どういうこと? 仲間が…いるの?

「あなたのように歪みに巻き込まれた者は大勢います。わたしたちは消えゆくちからを振り絞り、彼らと会い、世界を救う手立てを伝えました。あなたも救世をおこなう中で、同士である彼らと出会うことになるかもしれません。しかし強い悪意がそれを許さないかもしれません…」

強い…悪意…。パンドラから溢れたもののこと? それとも、パンドラの箱を開けたモノ? 悪意をもった人間のこと? なになに? わからない!

だいたい、どうしてマイクラの世界なの? ひょっとして…他の人は…別のゲーム…、いや、それこそ映画とか小説とか、そっちのほうで…とか、ありえるんじゃないの?

Eurekaはひどく混乱した。もしかしたら、これはすべて夢で、目が覚めたら日常に戻っているのではないか…。

「混乱するのもわかります。ただ、これはもはや現実なのです。あなたの空想や夢ではありません。世界の腐りを、一緒に止めましょう」

腐敗した世界…。歪んだ世界…。これが現実。ちょっと夜更かししてマイクラをプレイしていただけなのに、気を失って目が覚めたら、こんなことになるなんて…!
そりゃ、ちょっとは、マイクラの世界に入り込んでみたい、とか考えちゃったけど…!

「人間のもつ”描くちから”は、希望を与えもするし、絶望を与えもします。行き過ぎた興味や欲望は、身を亡ぼすこともあり得る…」

め、女神…サマっ!
(勝手に女神だと思っているけど)
わたしにできることって…。

「あなたにこの水晶のかけらを授けます」

水晶のかけら

こ、これは…! ゲームの設定によくある…クリスタルの欠片…!
欠片を集めたら水晶が完全体になって…とかだよね??

「この水晶の欠片は、可細くなった”善の心”の一部。欠片の導くままに救いを求める者を見つけ出し、あなたの美しい心で救いを与えてください。さすればパンドラのちからも弱まり、果てのドラゴンは癒されていくことでしょう」

もし…もし、ほかのゲームの世界でこの展開になったら、エンダードラゴン的なポジションはどのキャラクターになるんだろう?

「あなたのそのような純粋な好奇心や”描くちから”は、困っている者たちの救いとなることでしょう」

ん? わたしが子供ってこと…?

「迷った時、弱さに飲み込まれそうになった時、きっとこの水晶の欠片があなたの道しるべとなり、暗い闇底を照らす一筋の光とならんことを」

指輪物語みたいなシチュエーションきたー!

異次元への移動シーン

Eurekaが水晶の欠片を優しく握ると、欠片は光り輝き、Eurekaのからだを不思議な光で包み込む。

あ…。これって、異次元へ…移動…する、かも。。

いつかの時のように、Eurekaの意識が遠のいていく。異なる点をあげるとすれば、今回は悪寒を感じながら目を閉じるのではなく、あたたかな光がEurekaの意識を導いているような、不思議な感覚であるというところだ。


つづく

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