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呼吸器非専門医が多くを占める中小病院における 重症喘息の実態 -定性調査編-

製薬企業様向けマーケティング支援を行う株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。

近年、重症喘息をめぐる臨床は進化しています。
「予防できる死亡」を掲げる厚生労働省による喘息死ゼロ作戦をはじめ、制度面での啓発や体制整備が進んでいます。

一方で、疾患特性上必要となる長期管理に加え、高齢化による慢性疾患の並存や生物学的製剤の台頭など、重症喘息の予防と対応は複雑・高度化しています。

弊社は独自の電子カルテデータベース「ユカリアデータレイク」を活用し、多くの重症喘息患者の長期的治療の受け皿となっている中小病院での非専門医による治療を対象として重症喘息をめぐる臨床の実際を調査しました。

前回の記事では定量的な調査結果をご紹介しましたが、今回は定性調査の結果から見えてきた臨床の傾向と、治療に取り組む医師の思考を具体的な事例でご紹介します。

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中小病院における重症喘息の特徴

データ分析の結果から、中小病院における重症喘息治療の特徴をまとめました。

まず特徴として挙がったのは①の「発作による救急外来受診への対応」と、②の「発作による入院加療」です。
今回の主な調査対象である中小病院は、地域でのかかりつけ医機能も求められています。この特徴からは、中小病院の現場が担っている責任と負担が推測されます。

また、これらは地域医療連携における救急医療の負担軽減に通じる項目です。喘息死ゼロ作戦では、実際に入院予防・救急受診ゼロという目標が掲げられています。

同様に③の転院にかかる問題も、地域医療連携においてしばしば取り上げられてきた項目です。特に地域差が大きい喘息においては個別性が際立つと考えられます。

そして、救急外来にかからないよう発作を防ぎ、医療連携のもと地域で療養生活を続ける体制が整備されるほどに増加するのが、④⑤の処方調整や併存疾患対応といった課題です。

症例紹介

今回は、主に特徴③④を含む実際の症例をもとに、臨床の課題治療戦略決定に至る医師の思考をご紹介します。

地域の病院へ転院となった長期治療高齢者における処方調整

【患者】
70代、男性

【家族歴】
兄に小児喘息の既往、長女に喘息の病歴あり

【病歴】
40代のとき喘息の診断。発作による入院歴なし。以前よりBA、sinusitis、脊柱管狭窄症、骨粗鬆症、高血圧症などにて大学病院に通院していたが、歩行困難により2014年11月地域の病院に転院

【データ取得期間】
2012年4月~2023年2月

経過と対応の実際

「ユカリアデータレイク」ではカルテ内の自由記述データも取得可能なため医師の治療戦略の根拠や、処方変更となった経緯が確認できる部分が多々あります。
本症例では、対象患者の実に11年間近くのカルテデータが記録されていました。実際の処方変更の履歴と、医師の思考ともいえる記録データの一部をご紹介します。

2019年11月7日
レルベア・キプレス中止:大学病院から地域の医療機関転院に伴う重複投与回避のため

2019年11月8日
テオフィリン服用中止:胃部不快感のため自己中断していたことが判明。ユニフィルの屯用処方に切り替え
SABA吸入処方開始:症状不安定のため

2021年5月14日
ファセンラ処方:症状不安定のため。服用開始後症状安定、骨折のため一時中断したが発作や症状増悪なく経過。

処方変更の背景と医師の思考

時系列の図で表現すると、本事例の処方調整の柔軟性がいっそう際立ちます。

症状に対応した処方調整だけでなく、患者さんの自己判断や他院処方・骨折イベントを受けた対応を経て、症状が徐々に安定していく様子が分かります。

まとめ

今回ご紹介した、処方変更の決定に至る医師の思考や、患者の生活背景といった情報は、レセプトデータ・DPCデータなどには含まれておらず、把握することが困難です。

弊社は、標準治療の先で個別最適解として行われているこのような治療戦略を抽出し可視化していく取組を今後も続けてまいります。
読者の皆様の一助となれば幸いです。

【参考】今回調査対象としたデータの概要

【期間】
2018年1月~2023年6月
【対象】
ユカリアデータレイクに登録された喘息患者及び重症喘息患者(※)
【方法】
処方薬を対象とする定量及びカルテの自由記載を対象とする定性調査
【分析項目例】
性別/年齢別患者数、併存疾患比較、ICS処方数、 長期管理薬処方数

※喘息患者とは咳喘息を除いて「喘息」が含まれる病名が付記された患者を指すものとした。また、重症喘息患者とは喘息患者のうち、ICSまたは長期管理薬(LABA/LAMA/LTRA/テオフィリン/クロモグリク酸)が配合剤を含め各1剤以上処方されている患者を指すものとした。

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