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SOAPから患者の心情と医師の考えを読み解く

製薬企業様向けマーケティング支援を行う株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。

弊社とシミック・アッシュフィールド株式会社で共催したWEBセミナー「MRは患者像を描けているか ~トレーニングに活用できるカルテデータ~」の模様をお伝えする3回シリーズの第2回です。

今回は、ある胃がん患者さんの具体的な電子カルテ記載をもとに、看護師の有本様が患者の心情や医師や看護師の視点を読み解いた様子をお伝えします。


70代 胃がん患者の症例


今回取り上げる症例は、以下の70代男性のものです。

職業は労務コンサルタント。既往歴として十二指腸潰瘍などがあり、現病歴は幽門側胃がん、高血圧症、術後壊死性胆嚢炎です。
前担当医が胃がんと診断したため、手術目的で紹介入院したという経緯です。

有本様曰く、医療従事者は患者の年代や職業といった情報からも様々な仮説を持ち、患者のパーソナリティを把握しようとします。

70代という年代は、いわゆる団塊の世代にあたります。
高度経済成長期の好景気の中、同世代の労働人口が非常に多かったので、一般的に競争意識が高い世代と言われます。

労務コンサルタントという職業は、働く人を支え、雇用する会社との均衡を図る、調整や折衝の多い仕事といえます。40代の時に十二指腸潰瘍を患っていたことから、気遣いを過剰にすることで体調に現れるタイプの人か、といった想像がされます。

また、このサマリには記載していませんが、カルテを読むと、この患者の家庭では妻が家庭のことを全て担っており、治療にあたっての「キーパーソン」であることが分かります。
今回の症例では、開腹手術となるために大きな合併症などの危険性もあり、急変時の対応も想定されることから、家族の中で誰がキーパーソンになるかという情報は、医療従事者にとって重要なポイントです。

さらに、家族構成に息子さんが統合失調症という記載があります。
こういった家庭環境も、ご本人やキーパーソンである奥様にとって治療選択に影響が出る要素であり、着目すべき点です。

患者の治療意向の変化

この症例には、手術後に患者が一旦は補助療法を希望しないと決め、以後改めて再開を希望するに至ったという経緯があります。

サマリー上の重要なマイルストーンは3点あります。

  • 2015年9月の入院時

  • 2015年11月の術後補助療法を希望しないシーン

  • 2020年1月の胃がんの再発

です。順に見ていきます。

初めてのがん治療に臨む患者への配慮

まずは初診時のカルテです。
胃がんの手術のための紹介入院で、本人に改めて手術のインフォームドコンセントを行い、同意を得ている様子が書かれています。術式や、どのような経過を辿るのか、また手術の侵襲などを説明しています。

この患者は元々手術目的で紹介されて、この病院に来ています。
受け入れた医師や看護師にとっては、大きな合併症や既往歴もなく、開腹手術に重大な影響を与えるような懸念点はなかったと思われます。

一方で、患者からしてみると、初めてのがんということと、全身麻酔、開腹手術というところで不安があることは想像され、十分なインフォームドコンセントが必要になります。

医師所見からは、医師のそういった患者への想像力や配慮を伺うことができます。

ネガティブな事象が続いた患者へのフォローの難しさ

続いて、補助療法を希望しないと決めた際のカルテです。

退院サマリでは、術後に腹部CTを施行し、胆のう炎と診断、抗生剤治療するも改善しないため、10月20日に胆摘術を施行したことが記載されています。

そして、元々の胃がんの方でもリンパ節転移を認めたため、術後補助療法の適応について本人と奥様に説明しています。

最初の手術後に合併症を起こして再開腹せざるを得なくなったうえに、元々のがんの方でも補助療法まで行わなければならないと伝えられたわけです。

患者や家族の視点に立つと、色々なことが一気に起こりすぎて、理解が追い付かなくなるような心情が想像されます
そういった心情をどこに向けたらいいのか分からなくなったり、病院に対しても「大丈夫なんだろうか」と思ったりします。

そして、治療選択を妻とよく話し合った結果、補助療法を選択しないことになりました。
ここでも患者の複雑な心情が想像できますが、それでも経過観察はしっかり行っていくこととなりました。

治療の決断に悩む患者の心情に寄り添う

そして、胃がん再発時のカルテです。

昨年10月のCTと比較して急激な増大が認められること、抗がん剤などが考えられる治療にあたって全身評価が必要であることを説明しており、治療はS1+シスプラチンより開始検討か、と記載があります。

3ヶ月で急変していることから、患者さんの状況はシビアであると言えます。初診から5年が経過し、80歳を超えているという年齢の問題もあり、治療の選択を医師と確認しながら、しっかりと進めていく必要があります。

すぐに決断できない患者の心情的な複雑さを考慮し、医師としては次回妻とともに治療を検討するとしたのでしょう。

そして4日後の診察時、患者より「早めに治療をお願いします」という言葉が出ました。治療に関する患者の意向も変化していくということが読み取れます。

次回は、看護師の有本様とMRの小久保様が医師の目線で患者像を把握するための観点を振り返るとともに、実際のトレーニングで電子カルテを題材にどのような学びを得られるのかを総括します。


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