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#15 マニュアル人間との闘い

近所の人がマスクを外すかどうか議論していたのが聞こえたので、今日は保健所勤務の思い出を綴る。

2020年秋、コの字の感染症対応をしていたとき。

陽性患者がホテルで療養することになったら、患者の情報をホテルの職員に伝えている。
ある日、いつものように患者情報をホテルに転送したら、ホテルの職員から電話があった。
「明日入所の□□さん、薬を飲んでるらしいけど、具体的に何の薬を飲んでるか教えてくれる?


私は□□さんに電話をして、今飲んでいる薬を尋ねた。
すると□□さんはこう返答した。

えっと(以下、全て薬の名称)
ナンタラカンターラと、ホニャラカニャラカと、ヨクワカランヤーツと、コレイッタイナンヤネンと、それから……

え、ちょっと待って、ストップ!!

こんなにあるの!?
ナンタラカンターラと……ヨクスベールだっけ?

医療知識のない自分にとって、電話で薬の名前を聞き取るのは骨が折れた。
聞き取れても「これで合ってるのかなァ」と不安になる。


以降、ホテルから患者が飲んでいる薬を電話で尋ねられるようになった。
その次の日も、また次の日も。
毎回薬の種類を聞きとって、ホテルに口頭で伝える。
わずらわしいし、何より間違えそうで怖い。

なぜホテルは薬の確認を行っているのか。
それは恐らく、患者の体調が悪化したときのためだろう。
ホテル滞在中に体調が急変したら、病院を受診したり、そのまま入院したりすることもあり得るからだ。

病院の受診に必要なだけなら、病院で保険証と一緒におくすり手帳を見せれば済むのでは?
わざわざホテルに入る前に口頭で確認しなくて良いのでは?
どうしてもホテル入所前に必要なら、患者に写メを送ってもらうなど、方法はいくらでもあると思う。

なぜ電話で聞き取りという、不確実で非効率的なことをやっているのだろう。


ホテルで働く職員にも、マニュアルが配布されているはずだ。
邪推すると、いつの間にか誰かがそのマニュアルを書き換えたんじゃないか。
「薬を飲んでいる患者がいたら、保健所の職員に薬の名前を確認するように」と。
それを担当者みんなが律儀に実行しているのだろう。


当時ホテルでは、外部から派遣された医療職の方と、県庁の職員が勤務していた。
外部の方は不明だが、県職員は他部署から派遣されて、数日おきに交代しているらしいと聞いた。
こんなにコロコロ人が変わるんじゃ、機転をきかせて「じゃあこんなふうにしてみます?」と提案する余地はなさそう。
ただマニュアルに書かれたことをこなすだけ。

この仕事も数日で終わるから余計なことに首突っ込まないようにしよ、という姿勢すら透けて見えるのが腹立たしい。

貴方達がやることは、患者が飲んでいる薬を確認することであって、我々保健所職員の時間を奪うことじゃないだろ?

それに患者が言い間違えたら、申告し忘れたら、職員が聞き間違えたら……
そのリスクを考えたことある?


結局、自分が患者さんに「おくすり手帳もホテルに持っていってください」と伝えるようにしたら、薬の名前をホテルからいちいち聞かれることも減った。

なーんだ、これで良かったんじゃん。


他にも、ホテルの県職員には何度もびっくりさせられた。
たまたま電話で相談をした職員が、あまりに融通が利かなくてイライラしたことも。
接客で「お前じゃ話にならん!上司に代われ!」という台詞をよく聞いてきたが、まさか自分がそれを言う羽目になるとは……

上の記事でも書いたが、自分は某県職員として採用され、たまたま保健所に配属されたところだ。
いつかは県庁に異動するときが来る。
そうなったら、こんなポンコツに囲まれて働かなければならないのか!?

数年前、行政マンになりたくて一念発起し転職した自分であったが、その志が打ち砕かれた瞬間でもあった。


顔の見えないマニュアル人間とのやり取りは、ウイルスとは別の意味で厄介だ。




あとがきもどき

県職員がポンコツだということを訴えたいわけではありません。
もちろん、優秀な職員もたくさんいました。
どこの組織にもダメなやつは潜んでいるものです。
たまたま忙しくて精神が参っていたときにダメなやつに当たってしまった、それだけです。

ですがこの時期あたりから、自分の勤務先に失望し始めたのは事実です。

業務改善もまずは自分がやるべきでしょうが、他の人がまっさらな目で見ることで、改善点が見つかることも多々あります。
せっかく他の部署から職員が派遣されているのだから、その人たちの意見も反映できる環境だったら良かったのに、と思いました。

にしても少し前に「よーし県職員になるぞー!」って意気込んだ記事を出したにも関わらず、このバッドエンド感よ(笑)

それはそれ、これはこれとして読んでいただければ。

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