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【読書】第2の思春期?/「中年クライシス」から

人生半ば/中年になり、全てが順調なのにも関わらず急に悩み出す人が多いらしい。私もその一人だった。そんな中年危機について、日本人なら誰でも知ってそうなくらい著名な河合隼雄先生が書いた「中年クライシス」なる本を先日日本帰国時に発見、即買いし読破、その概要と感想をまとめた。

記事要約

  • 財産、家庭、地位等に恵まれながらも、なにか物足りない、なにかが不安といった負の感情に悩まされる中年は意外と多い。

  • 中年=人生の転換点と考えるユング。人生前半にて、自我確立、社会的な地位の獲得、結婚&子育て等を通じて、一般的な尺度から社会の中での自分の位置付けをするのに対し、人生後半では自分はどこから来てどこへ行くのかというより根元的な問いに取り組み、来るべき死に備える。

  • 各種文学作品の紹介と、中年という切り口からの分析に移る(例:夏目漱石や谷崎潤一郎、志賀直哉らの作品)。




1.本の紹介

本のタイトルは「中年クライシス」(1996年刊行)。著者は河合隼雄(1928ー2007)。兵庫県出身、京都大学卒(教育学部博士)、京都大学名誉教授、元文化庁長官、などthe立派な方。興味深いのは、学士取得後、学校教師の仕事をしながら大学院で勉強していたらしい。

河合隼雄

2.本の概要

本書は、様々な文学作品に登場する人物達を分析しつつ、中年の問題に焦点を当てている。

心理学の世界ではじめて中年問題を取り上げたのはスイス心理学者ユング、彼のところに中年の人達がよく相談に来たらしい。そして不思議なことに、その上3分の1はごく普通、というか恵まれた部類の人だったとのこと。財産、家庭、地位等に恵まれながらも、なにか物足りない、なにかが不安といった負の感情に悩まされていた。

ユングはこういった出会いを通じて、中年=人生の転換点と考えるようになった。人生前半にて、自我確立、社会的な地位の獲得、結婚&子育て等を通じて、一般的な尺度から社会の中での自分の位置付けをするのに対し、人生後半では自分はどこから来てどこへ行くのかというより根元的な問いに取り組み、来るべき死に備えるのだという。

太陽が上昇から下降に向かうように、中年には転回点があるが、前述したような課題に取り組む姿勢を持つことにより、下降することによって上昇するという逆説を経験できる。

P.8

あわせて紹介があったのが、精神科医エレンベルガーの「創造の病」(creative illness)という考え方。偉大な創造的活動をする人は、中年において病気等何らかの重い体験をし、それを克服しようと徹底的な内省を行いそこで学んだことを元にして新たなものを作り上げるという考え方で、ユングもエレンベルガーも夏目漱石も該当するとのこと。

著者は、これまでの人生は一生懸命働いて60過ぎる頃には「お迎えが来る」という一山越える形の奇跡をだとったが、寿命が伸び続けている現代は違うという。大分長い人生を生きなければならない、人生の後半の生き方を見いださなければならない。

これからの人生は、一山型のカーブではなく、双子型の山の奇跡をたどることになり、一回目の山を越え、二回目の山に取りかかろうとする辺りが中年

P.10

ユングらと同様、著者も中年時の転回経験を目撃することがあったという。そういった人々に典型的なのは、大なり小なり抑うつ症的な傾向に悩まされ、仕事が急につまらなくなったり、それどころかなにもしたくなくなる、意欲がなくなるといった症状が出る。会社に進められて課長になったは良いが部下の管理という新たな仕事に戸惑い悩んでしまうケースが引き合いに出されているが、こういったことは変化スピードが早くなった現代社会においては、職場のみならず夫婦や親子関係といった領域でも発生しうるという。

そして本は各種文学作品の紹介と、中年という切り口からの分析に移る。詳細は省くが、夏目漱石や谷崎潤一郎、志賀直哉らの作品の登場人物らの状況や心理分析を行っている。

3.感想

中年クライシスについて書き下ろしてくれたのは、正直ありがたい。中年クライシスという言葉自体、あまり聞かないし、真面目に掘り下げた書籍も少ない気がしている(私が不勉強なだけかもしれないが。)

ちなみに私自身、燃え付き症候群兼中年クライシスチックな症状に陥ったことがあり、その時の色々と本を探したが、対したものは見つからなかった。

そのときの経緯はこちらから

この本の切り口は、関連する小説を見つけ出し、中年クライシスという観点から再考するという斬新なもの、非常に面白い。

一方、小説の登場人物を扱っているがゆえに、どこか浮世離れしたというか、ロマンチックというか、哲学的というか、そういった小綺麗な論述になってしまっている気がする。それはそれでその良さもあるわけだが、実際そういった状況に陥った私としてはもうちょっとリアリスティックに何が原因でこうやったらなおる的な分析が欲しかった。

最後に一言

なお本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


あわせて他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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