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私が「書く力」を身につけた(と思われる)方法を紹介します

先日のnoteに「書く力を身につけましょう」という話を書いたら「それはそうだけど、どうやって身につけられるの?」という感想が何件か寄せられたので、ひとつヒントになる(かもしれない)書籍の一節を紹介させていただきたい。

ベストセラー作家であり経営コンサルタントでもある安田佳生さんの「私、社長ではなくなりました。ワイキューブとの7435日。」から、安田さんがアメリカに留学していた時の話だ。

ほかに読める日本語がないから、同じ本を何度も何度も繰り返し読んだ。累計七十冊くらいの小説を、十回ずつぐらいは読んだだろうか。
すると不思議なことが起きた。
アメリカに滞在したおよそ五年間のうち、日本語を書く機会は一度もなかった。それなのに日本に戻ってみると、日本語の文章力が上がっていたのだ。

子どものころは文章を書くのが苦手で、国語のテストの点数も悪かった。ところがリクルートに入社してからは、企画書を書いたり、雑誌の求人広告の原稿を書いたりすることが楽しくてたまらなかった。理由を考えてみても、アメリカでたくさん本を読んだことくらいしか思いあたらなかった。

このくだりを読んだとき「マジか!」と声に出して叫んでしまった。実を言うと、私もまったく同じ経験をしているのだ。まさか自分と同じ方法で文章を書くのが好きになった人がこの世にいるとは思わなかった。

ネットがない時代の海外生活は過酷そのもの

安田さんは私より何歳か年上なのだが、私がアメリカの片田舎にいた95年頃も、まだインターネットはほとんど普及していなかった。

この当時の海外生活は、いまでは想像できないくらい過酷だったと思う。インターネットもなければ、国際電話もバカ高い。もちろん今みたいにケーブルテレビでNHKが見れたりもしない(見れる地域もあったのかもしれないが私のいた田舎ではそんなものは見られなかった)。

語学学校時代は数人いた日本人のクラスメイトも、学部に編入すると0人になり、その頃は日本語を話すことも、聞くことも、読むこともまったくなくなっていた。真剣に「このまま日本語を忘れてしまうのでは」という危機感を持っていたほどだ。

そんなときに私を救ってくれたのは、安田さんと同じく日本から持ち込んだ本だった。ただ少し違ったのは、私の手元にあった本というのが成田空港で購入した「女性自身」とアルクの「留学ハンドブック」、この二冊しかなかったことだ。

同じ週刊誌を300回以上繰り返し読んだ8ヶ月間

結局、渡米8ヶ月目にロスの紀伊国屋で異常に高い文庫本を2冊買うまでの間、私は300回以上「女性自身」と「留学ハンドブック」を繰り返し読んだ。とくに気に入っていたのが、女性自身の「シリーズ人間」という無名の女性たちの奮闘を描いたノンフィクションルポだった。この連載部分だけは、文面を見なくてもスラスラ暗唱できるくらい丸暗記していた。

ところが、である。この2冊の本だけを読経のようにひたすら読み返すという生活を経たのちに、日本の出版社から記事を1本書いて欲しいと言われて書いてみたところ、もう長らく日本語を書いていないにもかかわらず、自分としては思いのほかうまく書けたのだ。

その時「あれ?もしかして日本語上達してる?」と思ったことは記憶している。自分でも違いがはっきりわかるほどだった。

結果的にその記事は単発記事から連載に昇格し、私はそれからなんとなく10年くらいライターとしてお金をいただき、その蓄財で自分のビジネスを立ち上げることができた。ライター業を始める以前の、文章を書くのが嫌いだった私からすれば考えられないことである。

良質な文章を暗記するほど繰り返し読むことの効能

後で分かったことだが、私が何度も読み返していた「シリーズ人間」のメインライターは、のちに「ビタミンF」や「流星ワゴン」などのヒット作を世に送り出した直木賞作家の重松清さんだった。小説を読んですぐ、「ああ、あの文章は重松さんが書かれたものだ」と分かった。小説家の中でも、重松さんは抜群に文章が上手いと思う。

もしかしたらたくさんの本を読むよりも、良質な文章に繰り返し触れ、そのエッセンスやリズムを吸収するほうが、効率の良い文章修行になるのかもしれない

あまりにも状況が特殊すぎて一般の人にはまったく参考にはならない可能性が高いけれども、少なくとも世界中で2人は効果実証済みの方法ということで。お許しいただければ(笑)。

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