日本におけるCRISPR/Cas9を使ったゲノム編集技術応用食品について
先日、「CRISPR/Cas9を巡る特許関係の整理」という記事をこちらのnoteに投稿しましたが、
その記事の中であげた、日本におけるCRISPR/Cas9を使ったゲノム編集技術応用食品について、今回は主に特許の側面から、もう少し深堀をしてみたいと思います。
*サナテックライフサイエンス(旧サナテックシード)社
ざっと調べた限りでは、特許出願について確認をすることはできませんでした。
HPによると、この会社は、ゲノム編集技術を用いて品種改良された種子を、生産・販売する会社とのこと、約2年前から、この企業の開発したトマトのみを搾って作ったトマトピューレの販売を開始しているようです。
また、昨年夏に、ゲノム編集技術によりGABA含有量を高めたトマトの2例目の届出を提出したとのこと、そのニュース記事によると、ゲノム編集技術に関する特許について、非独占的研究・商業ライセンスを受けているとのことです。
*リージョナルフィッシュ社
この企業については、日本では4件の特許出願が確認されました(うち3件は特許成立)。以下、簡単に特許出願の内容を見ていきたいと思います。
tracrRNAユニット、及びゲノム編集方法
CRISPR/Cas9の構成要件の一つである、tracrRNAユニットについて、新たなtracrRNAユニットを作成することで、ゲノム編集におけるコスト削減や、ドナーテザリングへの応用や、一般的な核酸修飾のデザインを増やすことが可能となる。
本発明は、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術における改良発明的位置づけと理解しました。
なお、請求項6のゲノム編集方法におけるかっこ書きは、日本においてはヒトへの医療行為に関する発明は認められていないので、そのような発明を除くための記載となります。
また、特筆すべき点として、本件は2022年6月30日に出願され、早期審査制度を利用し、同年10月3日に登録となっており、約半年で権利化がされています。
二酸化炭素固定化システム及び二酸化炭素固定化方法
こちらは上記CRISPR/Cas9関連特許とはガラッと内容の異なるもので、二酸化炭素固定化技術に関する発明となります。日本電信電話株式会社が共願人となっています。
藻類や魚介類を陸上で養殖する際の二酸化炭素固定化技術に関する発明で、具体的な発明内容のイメージとして、明細書の一部を以下に抜粋します。
なお、本件は現在審査中ですが、第三者による情報提供がされており、権利化を出願段階から阻止しようとされていることから(情報提供がされているとは、一般的にそういうことを意味します)、この出願が注目をされていることが分かります。
貝個体の貝殻を脱灰する方法、貝個体の観察方法、及び脱灰液
こちらも上記CRISPR/Cas9関連特許とはガラッと内容の異なるもので、貝個体の貝殻を、貝個体を生存させた状態で脱灰する方法に関する発明となります。
具体的な脱灰方法としては、貝個体が自然界で生育可能な環境の水質を備えた生育環境水の希釈液と、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩を含む水溶液である脱灰液に、貝個体の貝殻の少なくとも一部を所定時間浸漬する方法が開示されています。
この出願も早期審査を用いて行われており、2023年4月6日に出願され、約3か月後の2023年6月29日に登録がされています。
魚類の性成熟を促進するための方法
魚類の生成塾を促進するための方法として、魚類のレプチン受容体及びレプチンの少なくとも一方の機能発現を抑制する工程を含み、機能発現の抑制方法として、ゲノム編集法を用いて、機能欠損変異を導入する方法などがあげられている。
この出願も早期審査を用いて行われており、2022年6月17日に出願され、翌年の2023年9月15日に登録がされています。
また、審査の過程で、現在の請求項1に列挙されているような魚類に限定をすることで、権利化となっています。
上記国内出願以外にも、5件の国際出願が確認されました。そのうちの一つを以下に取り上げます。
海産魚類の不妊化雄個体を作製する方法、海産魚類の繁殖防止方法、及び不妊化された海産魚類の雄個体
こちらはゲノム編集技術を用いて、海産魚類の雄個体において、FSHR(Follicle Stimulating Hormone Receptor)、及びそのリガンドから選択される少なくとも1つの機能発現を抑制することを含む、不妊化雄個体を作製する方法に関する発明となります。
また、そのように不妊化された海産魚類の雄個体を、雌個体が存在する環境、又は交配可能な海洋魚類の雌個体が存在する環境に投入することを含み、雌個体は不妊化されていない、海産魚類の繁殖防止方法に関する発明もクレームに規定がされています。
この企業は、早期審査制度や、国際出願を積極的に活用し、短期間にバイオ系スタートアップとしては多いともいえる数の出願を行い、権利化までもっていっているところに、知財戦略を武器に事業を進められようとしている姿勢が窺えます。
*エトワール国際知的財産事務所
*事務所へのご依頼はこちらをご覧ください
*lit.link(SNSまとめサイト)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?