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CRISPR/Cas9を巡る特許関係の整理

CRISPR/Cas9について、最近友達から特許関係がすごく複雑ではない?と、もっともな質問を受けたので、今まで個人的に少しずつ情報を整理することを試みていたのですが、ここで再度、今まで情報を整理してきた中で個人的に大変参考になったソースも交えながら、CRISPR/Cas9を巡る特許関係について、整理をしてみたいと思います。

-CRISPR/Cas9について

CRISPR/Cas9とは、ZEN,TALENに続く第三世代のゲノム編集技術で、二本鎖からなるDNAを切断し、その切断場所に人工DNAを挿入するなどして、あらゆる種類の生物のゲノム情報を簡単に編集することを可能とした技術となります。

上記の仕組みを図解でわかりやすく説明しているのがこちら、日経サイエンスさんの記事中の図になるかと思います。

出典:https://www.nikkei-science.com/?p=62396

この技術に関する知見の発見によってノーベル化学賞を受賞したのが、当時独マックスプランク感染生物学研究所のシャルパンティエ(Emmanuelle Charpentier)所長と,米カリフォルニア大学バークレー校のダウドナ(Jennifer A. Doudna)教授となります。

-CRISPR/Cas9を巡る激しい特許係争について

さて、それでは上記ノーベル賞を受賞した二人の方の発明が、CRISPR/Cas9に関する基本特許を含めた特許網を構築しているのかというと、そうはならないのが、学術研究の世界と、法律の世界に存在する特許というものとの、なんとも言えない微妙な関係となります。

CRISPR/Cas9の基本技術に関する特許について、タイムラインも含め分かりやすく整理されていると個人的に思うのは、下記大野総合法律事務所の松任谷先生の資料となります。

https://www.oslaw.org/profile/format/Matsutoya(2018)%20LES%20JAPAN%20NEWS_Vol59%20No.4%20pp19-28.pdf

上記資料によると、CRISPR/Cas9の基本技術に関する特許出願には、5グループ(VILNIUS、UC、TOOLGEN、SIGMA-ALDRICH、BROAD)が絡んでおり、特に米国において、ノーベル賞受賞者を含めたグループ(University of California, the University of Vienna, そしてEmmanuelle Charpentier の、CVCと呼ばれているグループ)およびBROAD研究所との間の、真核生物におけるCRISPR/Cas9技術についてのインターフェアランス(米国が先発明主義だったときの、どちらが先の発明かを決めるための手続)が続いているなどして、CRISPR/Cas9技術に関する特許ライセンスを受けたい場合に、各企業が戸惑ってしまう一因となっている模様です。

-CRISPR/Cas9技術に関する特許ライセンスについて

ちなみに1年前の記事となりますが、CRISPR/Cas9技術に関する特許ライセンスについて、シンプルに考えようというものがありました。

上記記事によると、ライセンスを取りたいと思っている拠点が米国内にあるか、米国外にあるかで、考え方を少し変える必要があるとのことです。すなわち、

  • 米国内に拠点がある場合

最初は CVC からのライセンスが必ず必要となる。特に真核細胞を扱う場合は、Broad Institute からのライセンスが必要になる場合もある。

  • 米国外に拠点がある場合

ヨーロッパ特許庁においてBROAD研究所はCRISPR/Cas9技術に関する特許係争に実質的に負けており、CVCが最も広く基本的な特許を有しているので、米国外に拠点がある場合は、基本的にERS Genomics社を窓口として、CVCの特許ライセンスを受けることとなる。

なお、農業分野においての、CRISPR/Cas9技術に関する特許ライセンスについては、コルテバ・アグリサイエンス社とブロード研究所のいずれかを窓口として、基本特許群全体に対する非独占実施権を取得できる枠組みが確立されているとのことです。下記、バイオステーションさんの記事が詳しく、かつ分かりやすいです。

-CRISPR/Cas9を使ったゲノム編集技術応用食品について

こちらもバイオステーションさんの記事となりますが、日本においてもすでにCRISPR/Cas9を使ったゲノム編集技術応用食品が登場しているとのことです。

  • 筑波大学発ベンチャー企業であるサナテックシード社の「グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の一部を改変しGABA含有量を高めたトマト」

  • 京都大学発ベンチャー企業であるリージョナルフィッシュ社の「可食部増量マダイ」および「高成長トラフグ」

また、日本においては、複雑なCRISPR/Cas9を巡る特許網およびいまだに続いている特許係争や、高額なライセンス料を回避すべく、国産のゲノム編集技術の研究開発も進められており、それら日本初のゲノム編集技術を用いた製品等も登場しているとのことです。


最後に、CRISPR/Cas9に関する日本での特許がどんなものなのか気になる方のために、特許第6343605号(Rna依存性標的dna修飾およびrna依存性転写調節のための方法および組成物)のGoogle Patentのリンクを示しておきます。

なお、デュアルガイド形式またはシングルガイド形式のいずれかで、さまざまな真核細胞で使用するための組成物および方法をカバーしている日本特許第6692856号については、日本特許庁において無効審判請求を受けていましたが、この度審判請求が認められず、権利維持が認められたとのことです。

追記:
2年前にもCRISPR/Cas9の特許係争について調べたことがあったようです。

どちらにしても今回自分自身の知識の整理にもなり、改めて調べてみてよかったと思いました。

※写真はNYはMoMA美術館に行ったときに外にあったチューリップ


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