映画【TAR/ター】

【TAR/ター】




いい?

待って マイクは忘れて

存在しないと思って自然に歌って…


準備は?

いいわ

行こう!


彼女はご存知の通りだ…

現代の最も重要な音楽家の一人です


リディア・ターは多才

カーティス音楽院で

ピアノを学び

ハーバード大学を卒業


ウィーン大学で音楽学の博士号を取得

専門はペルー東部の

ウカヤリ渓谷の民俗音楽で

シピボ=コニボ族の中で

5年間生活した


指揮者としてのスタートは

クリーヴランド管弦楽団で…

5代楽団のポストを歴任


フィラデルフィア管弦楽団

シカゴ交響楽団

ボストン交響楽団 そして…


我らがニューヨーク・フィル

ヨルダンのザータリで

難民支援コンサートを開催


7万5000人を超す

観客を動員した現代の作曲家との

コラボでも有名


J・ヒグドン C・ショウ

J・ウルフ

H・グドナドッティル

彼女らの曲が古典と共に

演奏されるよう尽力してきた


いわく “新旧の作曲家”が

交わす会話は…

”必ずしも礼儀正しくない“


また 舞台や映画の

音楽も作曲

4大エンタメ賞を

すべて受賞した

EGOT イーゴット

と称される

15人の1人


エミー賞 グラミー賞

オスカー トニー賞で

その受賞者リストは輝かしい


R・ロジャース

A・ヘプバーン

A・L・ウェバー

メル・ブルックスも…


2010年 エリオット・カプランの支援で

奨学金プログラムを設立

女性指揮者の起業家精神と

演奏機会を促進し…

世界中の楽団に

修了生を送っています


2013年ベルリン・フィルは

A・デイヴィスの後継者として

ターを首席指揮者に選出

以来 今も在籍しています


師 レニー・バーンスタインと同様

マーラーに親しみ

9つの交響曲を録音しました


ですが…

同一楽団での

9曲録音は果たせていません…


ベルリン・フィルでは…

8つを録音

残るは大曲 第5番のみです


コロナ禍で昨年の公演は

中止を余儀なくされたが…

来月 第5番の

ライブ録音を行う


すると全9曲制覇で

ボックスセットを

マーラーの誕生日に

合わせて販売…


さらに新著

『ター・オン・ター』を

老舗のダブルデイ社より出版

クリスマス・プレゼントに

ぴったりだ


大きな靴下があればね…


今日はようこそマエストロ

リディア・ターは…

ありがとう…と


リディア 今…

経歴を読んでいる間

一瞬 当惑したね…

何か立派な業績が漏れてる?

それとも多彩な経歴による

自意識が出たのかな?


今の時代 ”多彩“は

否定的な言葉よ…

専門家の時代だから

複数のことをやろうとすると嫌われる…


型にハマれと?

まさしくね


クラシック界にも

いつか来るかな

アーティストをジェンダーで

区別しない日が…


どうかしら…

私は…批評を読まないので

一つも?

ええ…でも変よ

“マエストロ”を女性形の

マエスト ラ に換えたらね


宇宙飛行士は女性でも

“アストロノーツ”でしょ?


ジェンダーに関する

問題については

私など文句は言えない…


М・オールソップなど

女性指揮者は皆 そうよ

私たちの前には

立派な女性たちがいて

道を切り開いてくれた


すばらしい

たとえば誰ですか?


まず先駆者の

ナディア・ブーランジェ

彼女は幸せな成功例よ…


悲しいのは

アントニア・ブリコ

優れた指揮者なのに

客演指揮者という

二流の地位に追いやられ…

見せ物として扱われた


でも…有名な楽団は率いた?


ええ ベルリンや

メトロポリタン歌劇場で

でも…単なる共演だった


当時…彼女は…

客寄せだったのね


でも時代は変わるわ

改宗は…


完全でないにせよ進んでる


確かに改まってきてるね


解釈について話したい

指揮者は“人間メトロノーム”と

思われている


それは部分的には真実よ…

でも…テンポを保つのは難しい


深そうだ…


そうね でも…

時間こそが重要なの

楽曲を解釈する

絶対的な要素よ

私なしには時計は動かない

私の左手は形を描き

右手は つまり秒針は

時を刻み 前進させる

でも時計と違い

この秒針は止まり

その間 時間は止まる

錯覚としては

皆さんと同じく

私もオケの演奏に反応し

決めてるの いつ動かすか

止めるか 無視するか

でも現実には 正確な時間が

私には最初から分かってる

今が何時で

いつ目的地に到着するか

私にとって 本当の発見が

あるのはリハの時だけ

本番では決してない

難しい質問だが

バーンスタインから

何を一番 教えられた?

カバナよ

ヘブライ語で

”意味や意図に注意を払え“

作曲家と私の優先事項を

補い合うこと…


カバナか… 

最高裁の

カバノ 判事かと…


そうね

連想を誘うわ


昔 指揮者は必ずしも

舞台上には いなかった

第1バイオリンが

努めたそうだね


指揮への興味や技術が

なくてもね…


いつ誰が変えたと?


17世紀の作曲家

J・B・リュリよ

彼は…最大で尖った杖を

床に打ち付けて

テンポを取ったとか…

演奏者には迷惑でしょうね

その指揮法は

演奏中に終わった

彼が誤って 杖で足を突き

死んだから…


壊疽を起こしてね

とにかく…

話を戻すと

アンサンブルが大きくなるほど

指揮者は不可欠になる

いい例がベートーヴェンよ

出だしは音がない

最初の一拍は…

無音よ だから時計を

動かす人が要る

誰か旗を立て

”私についてこい“という人が

それがバーンスタインだと


オーケストラは最もすばらしい

歓喜の旅に導かれた

彼は音楽を

特にマーラーを

誰より知っていた…

そして楽曲と戯れた

オーケストラに

その音楽を

初めて知ったと

感じさせたくてね

過激なこともした

最初の速度を無視したり

だんだん遅くしたり

指示もないのに…


やりすぎた?


まさか

彼は発見の喜びを

味わってたの


さっき リハでのみ

発見があると…

今回のリハは いつから?


月曜よ


すぐだ


今回の第5番では

マーラーの意図は

推測するしかない…

彼の他の交響曲は

おそらく…

リュッケルトの詩に

影響を受けていた…

でも第5番では影もない

第5番は まさに謎よ

残されたヒントは

楽譜の表紙のみ

そう 新婚の妻

アルマへの献辞よ…

つまりマーラーの第5番を

手がけるなら…

まず最初に

理解しようとすべきは…

その複雑な結婚よ


バーンスタインとは

異なる解釈を?


さっき民俗音楽の研究に

触れたけど…

シピボ=コニボ族は歌い手が

その場にいる時だけ

歌を受け取れる

歌を創った精霊と

つながるからよ…

つまり過去と現在の融合で

その二つは

同じ宇宙の裏表なの

私には誠実な解釈に思える

でもバーンスタインは…

ユダヤ教の改心を信じてた…

演奏で過去を

変えられると…

だからR・ケネディの葬儀での

『アダージェット』は…

12分間も演奏した

ミサ曲としてね

あの録音を聴くと…

悲劇の哀愁を感じるはずよ

その解釈は 後年の

マーラーにもあてはまる

指揮者としての転落

妻の不倫…


でも…さっき言ったように

重要なのは時間よ

この曲の悲劇の中で

生まれたのではなく

若い愛の中で生まれた


どちらを選ぶ?


愛よ

それが続く時間は?

7分ね…と話は…続く…



この先に

ターを待っている運命とは…

何が起き…

その中で

どのように動き…

動かされるのか…


続きはDVDで…

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