昨今、あおり運転によるトラブルが増え、非常に問題となっています。高速道路での死亡事故は記憶に新しいかもしれません。自身の身を守る為、ドライブレコーダーをつける方も多いかと思います。

 さて、運転をする方の中には、普段優しい(少なくとも、優しくみえる)のに、運転をすると人が変わってしまう方も見えます。少し割り込みをされただけでカーッとなってしまい、クラクションを鳴らしたり、執拗に追い掛け回したり、いわゆるあおり運転をしてしまいます。

 ある本には、次のようなことが書かれていました。

 ほかの車にいきなり割り込まれて思わずカーッとなるのは、急にIQが下がるからです。カーッと来る瞬間は、ノルアドレナリンやアドレナリンが優位になり、また、脳の扁桃体(古い脳)が働きます。そうすると、前頭前野の働きが鈍くなります。抽象度の高い思考ができなくなり、ひとつのことしか見えなくなってしまうのです。


 それでは、何故、そこまでカーッとなっしまうのでしょうか、考えてみたいと思います。
 車で走っていて、隣の車線から急に割り込んできた車がいるとします。
 それは、こちらの車が見えていなかったからかもしれません。
 それは、相手の運転者が急に腹痛に襲われ、トイレを探していたかもしれません。
 それは、奥さんが出産間際で、病院に急いでいたかもしれません(これは実際にあった話です。バイクに乗っていて無理に追い越され、非常に危険性を感じましたが、相手の運転手が信号待ちの際、そのような事情を叫んできました。それでも、危ない運転はどうかと思いましたが。)

 このように、ひょっとしたら様々な事情があるかもしれません。しかし、カーッとなっていると、そのような【全体像】はみえず、また推測もできず、ひとつのこと、部分、つまり「割り込まれた!」ということしかみえませんし、考えられません。

 それでは、その車の運転手のことを知っていたらどうでしょうか。例えば、自分の両親の車と並んで走っており、割り込んできたら、いかがでしょうか。「急に進路変更が必要になったのかな?」「誰かから電話がかかってきて停まるのかな?」「後の車に煽られて恐怖を感じていたのかな?」と、怒るどころか、心配になるかもしれません。
 しかし、通常、割り込んでくる車は知らない相手ですし、相手の顔も見えません。ここが、あおり運転を引き起こす大きな要因なのではないかと考えています。


 例えば、私たちは、自分の調子が悪い時に、学校の教室や職場に入り談笑して笑っている人達を見ると、「ひょっとしたら自分のことを見て笑っているのかな?」と感じてしまうことがあります。

 自分がダメ人間だと思っていると、親の何気ない言葉から、「やっぱり自分はダメ人間なんだ」と感じてしまうこともあるかもしれません(これについては、それまでの両親との相互作用の結果かもしれず、一概には言えませんが、あくまで一例です)。

 割り込んできた車についても、自身がイライラしている時と、幸せでしょうがない時とでは、感じ方は明らかに変わると思います(ハッピーな時は、むしろ安全運転の為に車間距離をあけるかもしれません)。

 つまり、顔の見えない相手・車に、【自分の中の感情を映し出してみているのではないか】ということなのです。自分の中の感情を見て、それに対して反応して、「馬鹿野郎」と怒っているわけです。ある意味、自作自演のようなものかもしれません。自分自身の(普段は抑えられている)攻撃性等がちょっとした割り込み行為により引き出され、相手の車に映し出され、それを自分に対する攻撃性と感じ、それに反応しさらに攻撃性が引き出されているわけです。すなわち、中からと外からと、自分自身を2倍、攻撃している(と感じられる)わけです。そう考えると、あのように激しく激高するのもわかる気がします(もちろん、あおり運転を肯定しているわけではありません)。
 そして、IQが著しく下がり、恐怖に溺れ、必死に抵抗しているのだと考えられます。

 あおり運転をしている人々の心理を、上述のような状態と仮定します。
 それでは、どうしたらいいのでしょうか。
 私たちは、落ち着いている時は、「何であんなに怒ってしまったんだろう」と思えるかもしれません。「今日は嫌なことがあったし、イライラしちゃっていたかな」と反省することもあるかもしません。「何か事情があったかもしれないな」と全体像を見ようとも思えるかもしれません。
 つまり、カーッとなり激高した際に、そのような状態を思い出し、そこに戻れることが大切なのではないかと思います。
 それは、子どもが夢をみた後に、現実世界で振り返り、あれは夢だった、と夢を夢として認識できるようになることと似ているかもしれません。
 いずれにしても、カーッとなった際に、平常心に戻れるトリガーのようなものがあればいいわけです。

 そこで、例えば、次のようなCMを作ったらどうでしょうか。
 カップルが車でデートをしています。彼氏が運転しています。そこに、いきなり車が割り込んできました。それを見た彼氏は、非常に怒り狂って、前の車を追いかけていきます。それはまるで、目の前にニンジンが吊るされた馬のように、鼻息を荒くして一直線に向かっています(思いっきりIQが下がり、馬鹿になってしまった様子です)。あおり運転による危険性はもちろん、そのような車に同乗している彼女の恐怖、彼女への思いやり等も考えることができません(抽象度の高い思考はできません)。ましてや、あおり運転をされている方の恐怖にまでは気が向きません。
 彼氏はすっかり馬になってしまい、カップルは破滅してしまいます。。。

 この辺りのセンスはないのでいかんのですが、いずれにしてもインパクトのあるCMがいいと思います。そして、私たちが運転中カーッとなりそうな時に、「あ、自分は今、この前CMで見たように、思いっきりIQが下がった馬のようになっているかもしれない」と、自分を客観視できるかもしれません(CMで言えば、彼女側の目線になれるかもしれません)。
 このように思い出すことができると、冷静になれたり、全体像をみようと思えるかもしれません。さらには、「今目の前に割り込んできた車に、自分自身の感情を映し出しているかもしれない」と思えるかもしれません(それは、内省のきっかけにもなります)。
 ドライブレコーダーのように、「身を守る為」のものを普及させることも大切かもしれません。また罰則を強化することも、あおり運転を抑制する一つになると思います。
 これらに加えて、そもそもあおり運転をしてしまう人びとの心理を理解し、その上で、それらを抑制する為に働きかけていくことも、重要ではないかと思います。

 あおり運転等危険な運転による事故が、一つでも減りますように。

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