【映画感想文】MEN 同じ顔の男たち
えー、『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド監督の最新作で、A24制作の(…うーん)メンヘラ・ホラー(などというジャンルはないと思いますが、個人的にはこれが一番しっくり来ます。)『MEN 同じ顔の男たち』の感想です。
まぁ、ということでですね、A24お得意のメンタルにずーん…とくるホラーなんですけど。アレックス・ガーランド監督作は『エクス・マキナ』しか観てなくて、それと比べるとずいぶん面倒な映画作ったなという印象でした(『エクス・マキナ』はある意味ベタなお話だったんですよね。神話を現代的なアイテムで語り直してるような、絶望の中にある美しさを描いたような映画でした。)。えー、で、なにが面倒かというと、まずは出て来るキャラクターたち。主人公のハーパーも何かとデリカシーがなくて面倒なんですが、なんといってもハーパーの自殺した夫のジェームズですよ。絵に描いたようなメンヘラ野郎で。しかも、暴力も振るうという駄目さっぷり。更に別れを切り出されて散々悪態ついたあげくに見せしめに自殺するっていうね(ほんとに面倒ですね。)。で、こんだけいろんな呪詛を煮詰めたような駄目さっぷりを物語の冒頭でインプットされたうえで、この夫が一体何を求めていたのかっていうのが物語のオチになっているんですけど、えーと、まるでですね、4コマ漫画のオチのようなセリフをですね、全裸でめちゃくちゃシリアスな顔して吐かれてさすがにズコーってなったので(2022年のズッコケセリフNo.1でしたね。個人的には。)、4コマ漫画的な、そういうシンプルでスカッとした構造を持った映画ではあるんですけどね。ただ、そこに行きつくまでが面倒臭いんですよ。コマ4つで終わりそうな話を、この死んでしまった夫ジェームズの呪詛が100分に引き伸ばしているわけですから。
えー、では、その引き延ばされたところに何が入ってるのかっていうとですね。そこが見どころでもあるんですけど、夫ジェームズの(自分勝手な)恨みのビジュアル化なんですね。確かに凄まじいんですよ。グロ映像というよりは、嫌悪感を具現化するとこういうことになるのかという感じで(それが同じ顔の男が何人も登場するってことに繋がるんですけど。)。これ、たぶん、このジェームズみたいな男を生み出しているのはこの社会であり、こういう男性優位の社会構造が同じような男を量産しているんだ(それを文字通りビジュアル化してるってことですね。)ってことを言ってるんだと思うんですけど、さすがに僕は当の男なので「男社会のビジュアル化に悪意があり過ぎるだろ。」とか、「男の代表が超絶メンヘラでDVのクソ野郎って。そんなやつ俺だって嫌いだよ。」などと思うわけですが、翻ってみればこういうキャラクターの決めつけって今まで女性がされてたんだよな(別れを切り出されてメソメソするのは女性の方とか、別れるなら死んでやるみたいなのも女性的な行動とされてきましたよね。)と思うわけです。で、そういう怒りながらも納得するというモヤモヤループに入るわけです。
で、おっさんがおっさんを生み出す(文字通りですよ。)というこの映画最大のキモ描写が続くシーンで、最初は恐怖に怯えていた主人公のハーパーがだんだん呆れていって溜息をつくってとこまでくると、なるほど、これはもう、ただひたすらにおっさんキモイぞっていう話を自身もおっさんである監督が撮ってるんだなと思うんですが、だったら、なぜ、禁断の果実を自ら口にしたのはあなたですよねというシーンを入れたのか(これはもう人類史のしょっぱなのところまで戻らないともうどうにもならないよということなのか。)。この辺りが、また、この映画の(というか最早人間の)超面倒くさいところなんですよね。