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ディック・ロングはなぜ死んだのか?

『ハリー・ポッター』のダニエル・ラドクリフの死体が(主に)オナラで大活躍する(全く何を言ってるのか分からないと思いますが観たまま書いてます。)『スイス・アーミー・マン』のダニエル・シャイナート監督の長編第2弾。今回も死体と下ネタがキーワード。『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』の感想です。

はい、ということで、もう僕大好きですこの映画。えー、監督の前作の『スイス・アーミー・マン』は難破して無人島に流れ着いた男が、その島で見つけた死体の体内ガスをジェットエンジンとして島からの脱出を図り、死体との交流を深め(?)ながら、自らの人生の立ち位置を見つけていく(??)という、こうやって書いていてもよく分からないヒューマンドラマだったんですが、その『スイス・アーミー・マン』には、”なんだかよく分からない”を補う様なファンタジーと(主にダニエル・ラドクリフによる)キャッチーさがあったんですよね。で、今回の『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』はそのふたつの要素を抜いた様な映画なんですが。では、ファンタジーとキャッチーさを抜いて残ったものは何だったのかというと“不条理“と“下ネタ“というわけです。で、その”不条理と下ネタ”の描き方が普通じゃないというか変質的というか、まぁ、面白くてですね。僕はその描き方にめちゃくちゃハマったわけなんです。

えー、では、どういう話かというとですね。アメリカ南部の田舎街でジークとアールとディックという3人の男がバンドをやってるんですね。週末に集まってガレージで練習する様ななほんとに趣味でやってる(趣味でやってるんですけど、バンド名が”ピンク・フロイト”なんてちょっとマニアックさも漂わせながら、でも、この名前はダサいだろうっていう、バンド名だけでこの3人のなんというかダメさが分かる絶妙な)バンドなんですけど、そのバンドの練習シーンから始まるんですね。で、一通り練習したところで「いつものお楽しみやるか。」って感じで酒飲んでバカ騒ぎを始めるんですけど、ああ、これかと。この3人がバンドの練習と称して毎週末集まってるのはこの男同士でいつまでもバカやってるのが楽しいんだななんて思って観てたんですね(ていうか、そういう気持ちは分かるぞと。)。そしたら、いきなりカットが変わってですね。重症を負ったディックをジークとアールが車で運んでいるんです。で、そのまま病院の入り口の前にディックを置き去りにしてふたりは去って行くんです。その後ディックは死んでしまうんですが、ジークとアールはディックの死に関わってないふりをし続けるんです。とはいえ、ジークの車の後部座席にはディックの血痕が大量についているし、ディックの身分が割れないように抜き取ってきた財布は家族に見つかって警察に届けなきゃいけないハメになるし、そもそも帰って来ないディックを奥さんが探してるわけで(前夜にバンドの練習に行っていたのは自明の事実なわけです。)。そして、そもそも死んでしまった身元不明の男を警察が調べないわけはないわけで。と、普通に考えたらこのふたり絶体絶命なんですよね。でも、なぜ、このふたりがディックの死を隠そうとしているのかが分からないんです。死の真相を知っていて、直接ふたりが殺したわけでもなさそうなのにディックの死に関与していることをひた隠しにしようとするふたりの男。その男たちが隠そうとしているものは何なのか。そういうミステリーなんです。笑(これ、この時点では笑えないんですけど、のちのちこれが堪らなく面白くなるんです。)

すっごい謎なんですよ。ふたりがディックの死の真相を隠してるのが。だから真面目に観ちゃうんですけど、真面目に観てるとあまりにも行き当たりばったりな5秒でバレる様な嘘に困惑してくるんです。こいつらは何なんだ。こんなにすぐバレる様な嘘をついてやり過ごせるとでも思っているのか?バカなのか?バカなんだなって思うんですけど、あまりにも必至なので可哀そうにもなってくるんですよね。ただ、僕はあの、このダメなふたりがダメなことを繰り返してるってだけで(ふたりのダメバディ感も相まって)非常に楽しかったんですね(いや、だって、僕もバンドマンですけど、この手のダメさを持ったバンドマンて実際沢山いますから。嘘に嘘を重ねていって身動きとれなくなるとか結構なあるあるですから。だから、もうニヤニヤしながら観てたんですけど。)。映画中盤でディックの死の真相が判明すると、もう、そこからは堰を切った様にずっと面白いんです。いや、映画のタッチとかトーンは変わってなくてずっとシリアスで悲壮感漂ってるんですけど、遡って映画冒頭から全部笑えるというか、そういうのも全部おかしくて。ああ、もう、オレはジークとアール(はたから見てる分には)大好きだってなるんですよ。目の前で起こってることは絶対笑えない地獄絵図なんですけど、それがほんと、今思い出しても笑顔を抑えられないくらいになるんです。こういう面白さを映画で感じたのは初めてだったんじゃないですかね。

だって、全然悪いやつらじゃないんですよ。ジークなんか娘のピアノの発表会を楽しみにしてる様な良き父親でもありますし、アールもディックの奥さんにディックの行方を詰められてる時にこれでもかってくらい目線を外してるし、悪いやつじゃないんだよな。バカだけどと思うし、ジークのとこの夫婦仲だって今回のことがなければ何の問題もなかった筈なんです。ただ、圧倒的にバカだったというだけ。ただ、じゃあ、いわゆるバカ映画なのかって言われたらそうじゃないんですよね(いや、バカ映画なんですけど、それでは済まされないというか。)。ディックの死の真相を探る女性警察官(杖をついた年配の警察官と若い新米警察官のふたりが出て来るんですけど、このふたりもなんかおかしいんですよね。だから、この映画でまともな人ってジークとディックの奥さんだけなんです。ディックの死の真相を聞かされた時のジークの奥さんの、真顔で「冗談でしょ。」って言う、ほんとに逡巡して言葉を探したけどそれしか出て来なかったって感じ最高でしたけどね。)が言った「人間て計り知れない…。」って言葉が、まぁ、この映画のメッセージというか、それと人間のダメさとかバカさ加減が均衡してるというか。人が生きるということの哲学的なところをすんでのところでアホらしさが上回るみたいな。もの凄くスリリングなサスペンス・コメディだったと思います(とにかく僕は最高に好きです。たぶん、人生に躓いたらまた観て、「人間て計り知れないな。」と自分のその後に希望を持つことになると思います。)。

あ、あとあれです。この映画もまた制作がA24なんですよね。相変わらず恐るべしですね。A24。

http://phantom-film.com/dicklong-movie/index.html

サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。